観察と考察
「これ剣みたいに手加減は無理ですし、当たったら死にますけど良いんですか?」
「まだ当たらないよ」
レイは山野に言った。
自分に一撃当てろと。
ルールは無し。
正面からでも、不意打ちでも、武器でも、素手でも、何だってありだ。
例えそれが睡眠中だろうと、食事中だろうとだ。
一撃の判定は血が流れる程度。
軽く触れて、一撃というのは無しだ。
これは昔、レイがヴァイオレットにやらされていた修行であり、成功までに一年かかった。
レイがヴァイオレットに一撃当てたのは、五日の徹夜の末に酒を飲み、深い眠りに落ちた夜だった。
離れた場所から、覚えたての天天羅蘇からの六道モデル・ガンナーでようやく一撃。
レイはこの修行で、一番成長を実感している。
実戦に身を置く、攻めるという緊張を、常に持ち続けるのだ。
強くならないわけがない。
「俺から攻撃する事は無いよ。やっても防御か、無力化だけ」
こうして、いつでもレイの隙を狙う山野の毎日が始まった。
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攻撃塗れの日々三日目、離れた場所からの狙撃精度は上がったが、レイが血を流す事はなかった。
「どうか…………どうか! レイさんに一撃当てる方法を教えてください!」
「マスターに一撃、ですか?」
戦闘経験ほぼ皆無の自分一人では無理だと、山野はアリスを訪ねた。
もしかしたら、手掛かりが見つかるやも知れないと。
「私でしたら、まず天井を崩して埋めます。それから出たところを叩きますね」
「それは…………最初ので終わるんじゃないですか?」
「いえ、その程度では傷など付きませんよ」
当然の様に、アリスは言った。
それに少し引く山野を無視して、話を続ける。
「自慢などではございませんが、私達はドラゴンなどの巨大生物、一軒家など爪先で壊してしまう様な生き物と戦ってここまで来ました。それに比べて仕舞えば、飛来する鉄の塊程度、目に見える内は全て正攻法、真正面と同じなのだと思います」
「そうか…………プレイヤースキルだけじゃ無い………レベルも…………」
「どれほど上手くなろうとも、ひとまず今の武器では当たらないでしょう。引き金を引いた直後の破裂音、マスターならばアレがなってからでも銃弾を斬りますよ」
そう言うと、アリスは一度頭を下げて去って行った。
山野には納得と、ほんの少しの悔しさが残っていた。
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少しの悔しさを抱いて、四日目。
山野は一度も銃弾を放たなかった。
攻撃を仕掛ける事も無く、ただ観察。
それによって分かった事が幾つかあった。
まず、レイは基本的に誰かと共に行動をしていた。
一人になる機会は短く、もしこれが修行で無くただの襲撃だったなら、一対一が決して叶わないこの状況
はかなり苦しい。
そして―――短く一人の際も、何かをするにしても必ず片手は空いていた。
何か起きたら即座に対処出来るよう、必ずだ。
次に、音に対する敏感さ。
そのタイミングで通常聞こえない様な音が聞こえれば、どんなに小さな音でも聞き逃さない。
それ以外にも、小さな足跡にも即反応。
自分に向かってくる者ならば、全てに警戒している様に山野は感じた。
そして最後―――これは山野が一番使えると思ったものだ。
それは視野。
レイは近くよりも、少し離れた位置のものに素早く反応した。
その原因は恐らく視野の広さ。
物を点ではなく面で、床に落ちたナイフを拾うとして、ナイフを見るのでは無く、ナイフの落ちた床を見ているのだ。
それによって、視野の隅に追いやられた手元など、身近な物に対する反応がわずかに遅れる。
これは、レイの弱点だと山野は判断した。
山野は静かに、ただ一撃の為に作戦を立てて、時を待つ。
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常にタイミングを探しながらも、普通に訓練は続いた。
基礎的な筋トレ、体力強化など。
筋繊維の破壊とアルスの回復を繰り返すと、そこに新たに組み手も追加された。
「レイさん! これで俺が一撃入れれば、それも有効ですかっ!」
「良いけど…………出来るか?」
「やってみせますよっ!」
抜き手、肘鉄、回し蹴り。
それ以外にも体を操り、様々な技を繋げていく。
レイはそれらを回避して、手の甲で流して、自ら攻撃に回る事は無く対処。
「防御は、やらなくて良いんですかっ!」
「まだやっても無駄だよ。だって、雷とか防げる?」
「無理です!」
次の瞬間、足払いで山野は転ばされた。
「まあ、まずは足元お留守にならない様気をつけな」
「ちょ…………今のって攻撃じゃ無いんですか?」
「いま蹴ろうとしてたでしょ? 見えてるよ」
「お見通しですか」
残念ながらも、山野は再度距離を取る。
この後組み手は、山野が気絶するまで三時間続いた。




