弱さへの尊敬
部屋中に広がる発砲音。
それと同時に、鉄が鉄に弾かれるような高音が鳴り響く。
レイの剣が、最も容易く銃弾を弾いたのだ。
山野は銃を連射するが、全て剣で落とされる。
「大体分かった、もう良いよ」
言って、レイは剣を鞘に戻した。
それを見た山野も銃を下ろす。
「やっぱ銃って、難しい武器だね」
「難しい……ですか?」
「うん。一見、指を動かすだけで攻撃出来る便利な物だけど、魔法みたいに撃ち出してから操作する事も、撃ち出すタイミングをズラしたりも出来ない」
「た……確かに………」
「それに、その銃口だっかな? 穴から銃弾が飛び出る前、ずっと構えて狙ってるから攻撃のルートが事前に分かってるんだよ」
以前山野がいた世界では、銃は武力の象徴。
どんなに屈強な体の持ち主も、銃で頭を撃ち抜けば死んでしまうのが常識だった。
そんな中、その銃に対抗する人々が存在した。
フィクションの中、漫画や小説などのキャラクターは、様々な方法で銃火器の脅威を克服したのだ。
その非現実に山野は恋焦がれ、憧れていた。
学校が終われば漫画に齧り付く様に読み込んで、セリフやコマ割りを完全に暗記しても飽き足らずに読み込んだ。
そして、そんな恋焦がれた芸当が、目の前で再現された。
幾度も放った銃弾を全て落として、無傷。
それどころか、向けられた銃を脅威の対象として見てすらいないのだ。
これ程心躍ることは無いと、山野はレイの指導を聞きながらも手に汗握り、一人震えていた。
●●●●●●
山野の訓練は、簡単な筋トレなどによる体力作りから始まった。
二千グラムはある銃を構え続けるには、咄嗟の状況で狙いを定められる落ち着いた精神力と、それを支えるスピードを作り出すための、腕の筋力。
今の細い山野の腕では、一度撃ってから次の一撃までに、一息分の時間が空いてしまう。
そして、その時間があれば、戦い慣れた者ならば確実に山野を死に至らしめる一撃を放てるのだ。
「だから、まずは攻撃の隙間を徹底的に潰す。ヤマが出せるのが、銃弾だけじゃなくて銃も含めで良かったよ」
部屋の中には、絶え間なく破裂音が鳴り響く。
今山野が行っているのは、目が覚めたヴァイオレットに向けて、ひたすら銃の連射。
新たにもう一つ作り出した銃を使って、片手に一丁ずつでだ。
何度も山野は肩の痛みを訴えるが、その度にアルスがやって来て治療。
どんな負傷をしようと、即座に無かったこととなる。
「レイさん、痛いです! 限界です!」
「大丈夫! 人間腕が飛んでも腹に風穴が出来ても死なないから!」
「言葉に、なんか重みがありますよ!」
何度か発砲の手を止めようとはしたが、その度にヴァイオレットの魔法によって猛烈な吐き気が押し寄せる。
もはや拷問に近い修行だが、レイも経験済み。
命に危険がないのは実証済みだ。
何度も銃弾を作り出して補填するが、一向に魔力が無くなる様子がない。
まるで水脈のように、無尽蔵に魔力が溢れ出すのだ。
「師匠、あの魔力どうなってるんですかね」
「そりゃあ、彼は転移者なんだから。この程度の連射なら十年続けても魔力は一割も消えないよ」
「転移者って、そんな特別なんですか」
ヴァイオレットの出した魔法の壁の後ろで、レイは尋ねた。
山野が転移者だということをヴァイオレットが知っている事には、何の疑問も持たない。
「骨と骨の間って、骨同士すり減らない様に軟骨があるでしょ? それと同じで、この世界と別の世界、ぶつかってすり減らないように大量の魔力が軟骨の代わりをしてるんだよ」
「それじゃあまさか…………」
「そのとおり! 転移者は世界の間を移動するときに、その魔力の一部を吸収。世界規模で見れば一部でも、人間規模で見れば無尽蔵の量を保有してやって来るんだよ。」
「それ、なんかずるいですね」
「ずるいものか。それだけの魔力を宿さなきゃ、世界間の移動で体は粒子レベルにまで分解される。強制的に命懸けの移動をするんだ、割に合ってるんだよ」
考えてみれば、命の危険だけではない。
世界の移動―――国同士なら兎も角、この規模ならば帰省など叶わない。
家族や友などに二度と会えないのかと考えると、レイは山野が不憫に思えて来た。
想像もつかない。
ある日突然、知り合いが誰もいない、未知の世界に放り出される恐怖など、孤独など。
想像もしたくない。
考えるだけで、身震いがしてしまう。
命の危険など無縁な生活から、すぐ横に死がある生活への転移など、元々その生活に慣れ親しんでいたレイ達に想定など出来るわけが無いのだ。
レイが今出来るのは、そんな状況に置かれながらも強く生きる山野に対して、敬意を持って接する事程度。
レイはいつの間にか、百人に増えようとも自分に傷一つつけられないであろう山野に、尊敬の念を抱いていた。
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