ニーナ
アリスの旅の目的は、三つあった。
一つ目、昔の仲間の痕跡を探すこと。
二つ目、昔の戦いの結果を知ること。
三つ目、前マスターの正しい情報を探すこと。
一つ目と二つ目は、達成。
あとは今の時代、何故か悪として名が広まっている前マスターの正しい情報を探すのみだ。
次に、レイの旅する理由だが、これも三つだ。
一つ目、アリスの同伴。
二つ目、ロムニスとの決着。
三つ目、腕の入手。
レイは未だ、一つの目的も達成していないのだ。
まず手始めに、腕だ。
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「マスター! 砂の、砂場の大地です!」
「ああ……聞いてはいたけど、本当にあったんだ!」
馬車を停止。
辿り着いた大地、国。
そこは砂漠だった。
ケルニスト、生物が生息するには過酷な土地ながら、武器製造などの技術で他の追随を許さない、超技術国家だ。
「皆さま―――暑いので、水分補給を怠らぬ様」
「ありがとう、アルスちゃん。よし、行こうか」
言って、ヴァイオレットは手綱を打った。
馬車は海から砂漠へと乗り出すが、相変わらず足元は凍る。
砂にハマって動けなくなることが無くなるし、通った道が分かるので、遭難の心配は無い。
「あれ…………暑く無い?」
「外は暑いよ。ここは私が温度の調整をしてるからね、熱くなりようが無いんだよ」
「一家に一台欲しい魔法ですね、ヴァイオレット様」
これで苦はない。
目指す都市はすぐ近く。
三十分も馬車を走らせれば辿り着いた。
街の外の人の目がない位置で馬車と天馬を消して、検問へと並ぶ。
検問は顔パス―――ヴァイオレットが便利だとつくづく思った。
街で少し歩くと、ヴァイオレットの家に続きそうな路地裏へと侵入。
「今向かってるのって、師匠のお知り合いの家ですよね?」
「ああ、その通りだよ愛弟子」
「師匠の知り合いって、みんな師匠みたいな立地の趣味してるんですか?」
「立地? 私の家はあの街であんな開けた場所は滅多にない、最高の場所だよ?」
「それはそうなんですけど、そうじゃなくて。路地裏に広げた場所って、なんか変じゃないですか」
「ああ、そうゆうね。だったら安心したまえよ」
「どこか出るんですか? ここは近道だったり」
「いや、逆だよ」
言うと、ヴァイオレットは足を止めた。
そして一つ、店の裏にでも繋がりそうな扉を開いて見せたのだ。
「逆に、もっと入る」
「なっ……なんですかこれ…………!」
扉の奥には、地下へと繋がる階段。
暗くて先は、見えたものじゃない。
「お師匠様…………この先、千里眼でも見えません!」
「私の魔法で魔力を散乱させてるからね。世界の大気中に広がる魔力を目にして使う千里眼じゃ見えないよ」
言って―――ヴァイオレットは階段を降り始め、三人もそれに続く。
暑かった地上から離れて、次第に空気が涼しく。
灯りは階段沿いの蝋燭だけとなった。
「アリス様、足元お気をつけてください」
「私の目には暗視機能が付いておりますので、お気遣いなく。アルス様こそお気をつけて」
「私の事を気遣っていただけるなんて…………! より心酔、改め信仰してしまいそうです!」
アリスの声を聞くたびに、移動による疲れが現れていた顔に元気が戻るアルス。
この現象を利用すれば半永久的な動力が手に入るのではないかと考えながらも、レイは自分も右腕を摩った。
今は亡き、空っぽの右腕の断面を。
「ニーナ! 遊びに来たよ!」
ヴァイオレットが叫んだ。
階段の終わり―――灯り一つ無い、真っ暗な空間が突然広がっていた。
「起きない……愛弟子、光出して」
言われるがまま、指先に火を灯す。
すると突然、何かが転げ落ちる様な音が響いた。
「おはようニーナ、遊びに来たよ」
「ヴァイオレット! 来るなら一報送れと言っただろうッ!」
ニーナというぐらいだから女かと思えば、聞こえた声は野太い男の怒鳴り声。
勝手なイメージ図とズレた声に脳の処理が追いついてないでいると、部屋が明るくなる。
身長は低いが、筋肉質な体と、髭と煤に塗れた顔。
無理に縮めた炭鉱で働く老父の様なその男を見て、レイはその正体を即座に悟った。
手先が器用で、ほぼ全員が物作りの達人。
長寿故に、腕の良い職人が死ぬ事は少なく、年々技術は練磨される。
その種族の名は、ドワーフ。
「手紙なら送ったよ、ニーナ。また見てなかったの?」
「見てなかっただあ? ちっ…………ヤマ! 来い、ヤマ!」
「はーい、今行きますっ!」
ニーナと呼ばれるドワーフの野太い声とは相対的に、返って来たのは気の抜けた若い男の声。
「ニーライナ様、何でしょうか!」
ニーライナ、縮めてニーナ。
ニーナという名前がニックネームだった。
本名はニーライナ、縮めてニーナ。
レイは納得して、やって来た男に視線を向ける。
やって来た青年は痩せていて、全身煤塗れただが髭などは無い、どこか小綺麗な男だ。
「どうも! 僕は山野っていいます! ニーライナ様の弟子やらせてもらってます!」
「へえ、ニーナが弟子を! あんなに俺は教えるのに向いてねえ〜って言ってたのに!」
「おいヴァイオレット、お前が弟子作ったとき、俺は同じ反応をしたぞ」
「あれ、そうだっけ?」
ニーライナは呆れた様に、大袈裟にため息を一つ零す。
「ヤマ、ここ最近の手紙からヴァイオレットのものを探して来てくれ」
「了解しました、ニーライナ様っ!」
言って、山野は走り去っていった。
それから、ニーライナの視線はレイへと向く。
「大方、その腕を作れって話だな?」
「流石、その通り―――頼んだよニーナ」




