天馬
PV5000、突破しました!
ありがとうございます。
目が覚めてから三日、ようやく片手のない生活にも慣れ始めた。
しかしレイの横には、未だ常にアリスが付き添っている。
前の王はどうなったのかと思い、ヴァイオレットに尋ねると、地下牢にて投獄、尋問を受けているらしい。
未だ傷の一つも与えてはいないが、道具を見せるだけで喋る喋る。
「もちろん、君達が聞きたかった魔物の襲撃もね」
「本当ですか、師匠!」
ヴァイオレットは言った。
それを聞いたレイは机越しに、少し身を乗り出す。
「ああ、魔物の襲撃。紛れもなくやつの仕業さ」
「やっぱり―――では危険が一つなくなったと、メルヘイルに手紙を送りましょう」
「ああ、それが良い。きっと喜ぶだろう」
「はい! えっと…………理由は分かりますか?」
「いやあ、それがなんだかよく分からない話でね、何でも、亜人の性能を試したかったとか」
「亜人? 師匠、それについて何か言ってませんでしか?」
「人と魔物の合成生物と言っていたか、そんなのがいるのか…………私には、残念だけど分からなかった」
「…………あれか」
残念な事に、レイには心当たりが二つあった。
ドラゴンから現れたものと、ミノタウロスの中にいたもの。
間違いなく、それらの話だ。
「亜人、居ますよ。一度戦いましたし、前に誕生前のも見ました」
「なんと、戦力はいかほど?」
「俺が戦ったのは、結構強かったです。屋外なら分かりませんけど、室内では手こずって、逃げられました」
「まあ、厄介かな」
二人の話を聞いて、アリスは悩むような素振りを見せる。
何か、記憶を探るような。
二人の話し合いが進むたびに、何か思い出しそうな気が、確かにしているのだ。
●●●●●●
「リヴァイアサンを、討伐したようだな…………」
「ああ」
夜寝ようとした寸前に、レイは影に落ちた。
今回、アリスは居ない。
「褒美だ、良い話を聞かせてやろう」
「良い話?」
「ああ、これから先旅を続けるならば、必ずしも出会う敵だ」
「そいつは強いのか?」
「いや、あの者単体の戦力と捉えれば、貴様の連れている医者でも無傷で倒せよう」
「なら弱いのか?」
「単体で捉えれば、だがな。やつの名は、リーン・エルメアース。アリスの、製造主よ」
「てことは千年前から…………人じゃない?」
「奴は人よ。誰よりも人間の欲望を持て余し、誰よりも死を恐れ、誰よりも人間らしく、足掻き続けている」
「なるほどね」
原理は分からないが、どのような人物かは理解。
そして少し、頭を悩ませる。
「それって、アリスに言って良いの?」
「止めはせぬ。今のアリスを私は知らぬ故に……我に下せる選択肢は皆無よ」
「そうか、ありがとう」
言うと、足元の影に少しずつ、体が吸われていく。
「それじゃあ、またな」
そう言って、レイは影の世界から姿を消した。
「って師匠の家――――――!」
叫ぼうとした直後、レイの口に指が当てられた。
レイのものではない。
当然のように待っていた、ヴァイオレットの指だ。
「今回は知ってたからね、お迎え師匠だよ」
「助かります。でも今から帰るとなると、とても眠いですね」
「共感。私ももうお眠だよ」
「明日帰りますか」
「愛弟子、まさか! 愛しの師匠と朝帰りってワケかい!」
「まあ、寝てから帰れば戻るのは昼ですかね」
「釣れないねえ、まったく」
不服そうに言う。
しかし、即座に意識を切り替えた。
「ねえ愛弟子、一緒にお風呂入るかい?」
少し服を着崩して、ヴァイオレットは言った。
それを見たレイは、本当に心の底から、大きなため息をこぼす。
「師匠、色気出してるかも知れませんけど、今日は眠いから自分で入れないだけですね?」
「そ、その通り…………嫌?」
「まあ良いですよ。またガルレナだって気づいて、変な汗出たし」
言った途端、ヴァイオレットの表情が明るくなった。
「それでこそ愛弟子、お湯沸てくるからね〜!」
嬉しそうに、風呂場へ直行。
まるで子供のようだと思いながら、レイは椅子へと腰掛けた。
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早朝、庭。
ヴァイオレットは部屋にある、半円形のポケットから鉄の馬を取り出した。
「それじゃあ、乗りな!」
「鉄の馬ですか…………?」
「これは魔道具―――天馬。これからの旅に使えると思ってね、お迎えついでに、取りに来たんだよ」
納得して馬へと跨ると、その後ろにヴァイオレットが乗った。
「師匠、まさか一馬だけですか」
「魔道具だよ? 何個も手に入るわけないじゃないか。ほら早く、入る手続きしてないから門からは出れないし、外に転移しておくれ」
「はいはい…………それじゃあ、どこか触っててくださいね」
「承知した!」
応えて、ヴァイオレットがレイの腰に抱きついた瞬間、レイは外へと転移。
まだ少し霧が残る早朝の空気を、大きく吸い込んだ。
「それじゃあ、走りますからね」
そう言って、手綱をきちんと掴んで軽く歩かせようとした瞬間、通常の馬なら全力疾走の速度で、天馬は駆け出した。
「これが天馬の通常速度。ちゃんと走れば愛弟子の羽ぐらい出るから、気をつけてね」
「なんですかそれ、恐ろしい」
「恐ろしくないよ、速いだけ。今は魔力だって私が補充し続けてるんだから、切やしないよ」
「左様で…………それじゃあ、加速しますよ!」
言って、手綱を打った。
すると、不思議なことが起きる。
この速度で走れば当然起きるはずの、空気抵抗の風が一切無いのだ。
「驚いたかい、愛弟子。少し魔力を多めに入れると、風除けの盾まで出るんだよ! 完全透明の、見晴らし良好だよ!」
凄まじい機能にレイは驚き飽きて、呆れていた。




