戴冠
三歳の頃、初めて火の魔法を使った。
それまでは転移という、少し難しい魔法に悩んでいたから、分かりやすい魔法に喜んだ。
小さな頃は薪を燃やして家を手伝い、落ち葉を燃やして遊んでいた。
体が大きくなってからは、村を襲う動物や魔物を燃やした。
その頃から、剣と転移魔法の練習も始めた。
ある程度使える様になったら、村を出て王都に。
そこで師匠に会って、才能があると言われ、師になって欲しいと頼んだら断られた。
何度も頼んで―――ぽろっと、家事も出来ると漏らした。
すると突然、今までの態度が無かったかのように弟子にしてもらえたが、最初数週間はずっと、家の片付けをしていた。
初めてのちゃんとした修行は、山賊退治だったのを覚えている。
元々村でこなしていた修行のおかげで苦戦はしなかったが、あの時の戦いが、思い返せば初めての殺人。
あの日から―――自分の足跡は燃えて、焦げた血の匂いがする様に感じ始めた。
その日の夕飯は、無味無臭でも血の匂いもしない。
普通に美味しい食事だった。
今となっては山賊の顔も声も、最後の言葉も覚えてないけど、翌日まで師匠が心配そうな顔をしていた事は覚えてる。
その後戦争に出て、ロムニスと会った。
話せば気が合って、戦場に出れば息が合って。
突然現れた正体不明の魔物軍団は恐ろしく思えたが、ロムニスと一緒ならば誰にも負けないと、そう思ってた。
そしてある日、敵の戦力の大半を殺した。
そして敵の最奥まで進むと、不思議な光景を目にした。
魔物共が、ロムニスに跪いて、将軍と呼んだ。
一瞬で理解した―――これはなんとも、贅沢なスパイ活動だと。
まさか敵の将軍自ら自分の味方を殺して戦うなんて。
一緒に戦って、楽しかったのにと怒りを覚えてから、戦いに楽しさを見出していた自分にも怒り、嫌悪して、憂さ晴らしとばかりに戦った。
その後確か、自分まで焼いて大怪我して、治療の為にリルラントに運ばれたんだ。
そこで冒険者になって、ランズに会って、コツコツと稼いで。
それから、誰に会ったんだっけ…………確か、アリス。
アリスだ、そうだ。
「そうだ、アリスだ」
「はい、アリスです! アリスです、マスター!」
レイが目を覚ますと、視界には天井とアリスだけがあった。
走馬灯の様な夢だったと思いながら、レイは起き上がろうとする。
そして気づいた、体の異変に。
「あれ、右手は…………」
レイが呟く。
片腕、肘から先が、どうにも見当たらないからだ。
「当たりどころが悪かったってやつがね、所々にあったんだよ」
「師匠、どういう事ですか」
片手で起き上がりながら、声のした方を、ヴァイオレットの方を向く。
するとそこにはヴァイオレットと、悔しそうなアルスが居た。
「最後、攻撃を放って、魔力が空になって気絶した後、放たれた水弾自体は残ってて、それらが直撃。余りにも傷が多かったんだよ。アルスちゃん、説明頼めるかな?」
「はい………これは医者の、私の役割です」
言って、アルスは少しレイに寄る。
「大きな怪我としては―――頭蓋骨骨折、鼻骨骨折、鎖骨粉砕骨折、肋骨六本の粉砕骨折と、五箇所の罅。左腕上腕骨に二箇所の粉砕骨折と、両の大腿骨に合計三箇所粉砕骨折。そして左腹部と、右腕が、大きく失われていました」
思わず唾を飲む。
今腕が肘より先消えている事を除けば、五体満足のこの体が、それ程の重症だったとは信じ難いのだ。
「今言った様に、多くの傷が。その中から生存の有無を何よりも優先した結果、頭蓋骨や腹部、内臓を傷つける恐れのある肋骨などを先に治しました。腕はヴァイオレット様が後で良いとおっしゃられたので後に。理由は後で説明すると言われたので、ひとまず止血のみを行いました」
終えると、名前の上がったヴァイオレットが頷く。
それを見たレイは、自分の治療の壮絶さを悟った。
「アリスごめん、旅続けられないかも」
「マスターが謝ることなどないのです。傷など、戦えば付いて来る物なのです」
全く悲しそうな顔もせず、アリスが言った。
それを見たレイは、再度悟る。
これは、何かあると。
「旅は続けられるんだよ、愛弟子。隣の大陸に知り合いの職人が居てね、会いに行こう。きっと腕のことはそこで解決する筈さ」
「職人ですか…………? 海を跨ぐとなると、少し大変ですね…………」
「そこらの心配は要らないよ。何せ、私がついて行く」
「師匠がですか?! 旅嫌いだし、海が怖いのに、大丈夫なんですか?」
思わず、少し大きな声を出す。
失礼だとでも言いたげな顔をヴァイオレットがしていると、アリスがクスクスと笑った。
「お師匠様は、海を渡るかどうか、いっそ水を消してしまうかと本気で三日ほど悩んだのですよ」
「そんな、物騒な」
呟いてから、三日という期間が引っかかる。
自分はどれほど、寝ていたのだろうかと。
ベッド脇の窓から外を見ると、水弾などで多く破壊された家などの修復作業が、だいぶ進んでいた。
そして窓からの景色、間違いなく王宮からのものだった。
「愛弟子が寝ていた期間は二週間。この国は色々と大変だったよ」
「色々ですか?」
「そうだよ、色々だ。例えば国王が変わったり――――――」
「大将ッ!」
突然、部屋の扉が乱暴に開かれた。
そして飛び込んできたのは、何やら高級さが漂う衣装に着られた、レオンだ。
「大将、起きたんだなおめでとう! それより大将の師匠、やべえよ!」
「どうしたの、レオン」
「どうしたも何も、戦いが終わってすぐにあのお師匠さんが約束を果たすとか言って、城行って、帰ってきたら明日から俺が王だとか言いやがったんだ!」
「それは、災難な」
そう、前国王に向けてレイは言った。
どのように王を交代に追い込んだのかは、考えたくもない。
「前のやつが溜め込んでてな、あれから休みなく激務だ」
「ああ、見たらわかる。隈が酷い」
レオンのことも憐れみながら、再度窓から外を見る。
平和に戻った街を見下ろして、戦いは終わったのだと理解した。




