対岸の盾
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50話 対岸の盾
「なんだ、ありゃあ…………」
「そういえばレオン様は、アレを見るのは初めてでしたね」
レオンが言うのは、レイの天天羅蘇の姿。
全身に炎を纏い、その熱で浮上。
攻撃する姿は、いくつも太陽を放り投げるようで、まるで炎の神の様だとレオンは思う。
そして当のレイはというと、焦っていた。
攻撃が、通らないのだ。
リヴァイアサンにはまず、硬い鎧、鱗が備わっている。
一つ一つは小さく薄く、ドラゴンよりも耐久性が低いが、代わりに何層にも重なっている上に、更にリヴァイアサンの魔法で作り上げた水の膜が、攻撃の威力を激減させるのだ。
「これ、どうしたものか…………」
「まだ様子見かな」
レイの炎は当然ながら、水の膜で威力が激減。
アリスのレーザーも、膜を貫通はするもその時点で表面は水に散って、レーザー自体がか細く。
ヴァイオレットの槍も、水により威力が半減どころでは無かった。
「それじゃあ、もう一度やるよ」
ヴァイオレットの言葉に二人は頷いて、再度攻撃の準備。
炎の球を少し大きめに、威力を上げて放った。
しかし結果は変わらず、鱗の表面に少しの焦げ跡が付いた程度だった。
「よし、一撃で叩きましょう」
「私は大いに賛成だよ。アリスちゃんもそれで良いかな?」
「私はなんだろうと」
レベルを上げて物理で殴る様な、単純極まりない作戦とも言えない作戦だ。
レイはリヴァイアサンから離れる。
そして少し高い一軒家の屋根へと着地。
「獄炎球―――|後光六道輪連華《 ごこうろくどうりんれんか》」
六道を準備。
指でリヴァイアサンへと狙いを定めた。
背後の円に繋がる球から指先に向けて、火の筋が伸びる。
その筋を通じて、炎の球が移動を開始する。
「二人とも、ちょっと絞るから時間稼ぎ任せたい!」
「愛弟子きっての頼みだ、やるよアリスちゃん」
「はい、お師匠様」
言われて、アリスは魔道具を起動。
黒鍵から風を放ち、完全に不完全なる世界軸の羽を広げる。
「それじゃあアリスちゃん―――敵さんのターンだ、防ぐよ」
「はいっ!」
ヴァイオレットは反射の円盤を大量に出して、炎を絞るレイを護るよう、壁の様に設置した。
そして次の瞬間、水を凝縮された攻撃が放たれた。
反射の円盤はあるが、完全に安全というわけではない。
円盤は最終防衛ラインだと、ヴァイオレットは自分で攻撃を落とす。
新しく出現させた槍を投擲、水のへと侵入。
遠隔操作で槍を高速回転させて新たな水を作り出し、一つの破壊力を持つ水弾から、ただ宙を舞う水となった。
アリスはアリスで、水弾を黒鍵で蹴って破壊する。
同じ要領で水弾をいくつも破壊していると突然、リヴァイアサンが特別大きな水弾を作った。
「アリスちゃん、回避!」
ヴァイオレットが叫ぶ。
黒鍵の風で加速して緊急回避するヴァイオレットを見て、それを見てからヴァイオレットは反射の円盤を追加で発動させる。
全て一つに纏めて巨大な円盤を作り出したが、防御の準備は更に続く。
「巨人兵双璧、現れなさいっ!」
ヴァイオレットが叫んだ途端、地面から岩の門が現れる。
そして中から、石像の様な作りの兵士が二体現れた。
どちらも身長は十メートル程だ。
「巨人兵、武装! 阿修羅六椀、攻撃を防せぎなさいっ!」
巨人兵の背中から石の腕が生え、一体毎に腕が合計六本ずつ。
それぞれの腕に、剣が装備されている。
ヴァイオレットはまだ防御が足りないと考えるが、リヴァイアサンの攻撃の準備は整った様だ。
諦めて、あとは行く末を見守る。
そして攻撃が、放たれた。
巨人兵が一斉に剣を振るい、第一波を抑える。
海から水が集められ続けて、攻撃は止まらないが、巨人兵を越す事はない。
しかし、それも長くは持たない。
最初に攻撃を受けた際の衝撃で、巨人兵の体にヒビざ入ったのだ。
「第二波警戒! 巨人兵、気を抜かないでっ…………!」
言うものの、ヒビは足元まで伸びている。
攻撃の根本には、新たに第二波となる水が溜まっている。
「第二波、防ぎなさいっ!」
瞬間、放たれた。
威力を増して、強烈に。
新たな水が放たれて、先端へ届いたと同時、巨人兵の体が砕け散る。
しかし水は止まらずに、その奥の円盤へと激突。
反射はされるものの、後からやって来る水の勢いに負けて、リヴァイアサンに水が戻ることはないどころか、先の円盤に触れている地点に攻撃としてリサイクルされる。
円盤にもヒビが入り、ヴァイオレットの額から汗が垂れる。
簡単に一枚目が破壊―――奥に壁の様になっている円盤を何層にも重ねるが、小さな一枚一枚は、硝子の様に破られていく。
「私が防ぎますっ!」
「アリスちゃん、危険だ!」
ヴァイオレットが言うが、アリスは円盤の果てに到着。
手を水へと突き出した。
「防御アーマー解放! 一式、対岸の盾!」
対岸の盾、アリスが青い粒子にして、旅荷物と共に仕舞っていた巨大な盾。
神域でイルマーニが修理したものである。
アリスの片手から更に粒子が溢れ出して、巨大な足場の様に。
頂点の部分にある穴に足を入れて、接続。
攻撃を受けて踏ん張る土台を作り出した。
「アリスちゃん!」
ヴァイオレットが叫ぶと同時、水が全ての円盤を破壊してアリスへと到達した。
力を目一杯込めて抵抗。
アリスな人間ではなく兵器として出来ているので、その頑丈な体で耐えはするが、しかし苦しそうだ。
「マスター、安心してご準備してください…………っ! この攻撃は必ず……私が防ぎきって見せます…………っ!」
元々円盤があった場所の奥、現在アリスの背後にて炎の球を指先へと集めるレイへと言う。
苦しそうなアリスの声を聞いて、レイも下唇を噛み締めた。
「っあああああああああああッ!」
叫ぶ。
己を鼓舞する様に、力強く。
獣の咆哮の様に、力を込めて叫んだ。
リヴァイアサンの疲れからか、水は少しずつ細くなり、威力も弱まった。
それに反比例して、アリスはどんどん力を込める。
そしてとうとう、攻撃を完全に防ぎきったのだ。
「マスター、少し休みます」
力尽きて、盾を手放す。
そのまま前方へと倒れ込もうとしたとき、アリスに向かい小さな水弾が放たれた。
頭目掛け、真っ直ぐに。
そして次の瞬間、それは容易に防がれた。
レイの、己の片腕を犠牲にした防御によって。
一撃防いだ後も、水弾は残っていた。
いくつもレイに被弾するが、避けてはアリスへと当たる。
攻撃を防ぎきって、疲弊した無防備なアリスに。
「アリス、ありがとう」
レイの背後から、球は消えていた。
その代わり筋の先に、真っ赤な銃弾が一つ。
「六道―――モデル・ガンナー!」
レイが言った瞬間、銃弾が放たれた。
炎の筋は飛んだ銃弾に吸収され、更に銃弾の威力を強める。
銃弾は容易に水の膜を貫いて、その先の鱗も貫通。
リヴァイアサンの脳内に入り込んで、大爆発した。
爆風が海で波を起こす。
その波を更に大きくする様に、リヴァイアサンが倒れ込んだ事で、この戦いは締めくくられた。




