殺人犯の事情
休日の夕方に目を覚ました。
折角の休日を台無しにしてしまったと悔やみながらも、今から出来ることはないかと探る。
普段は出来ない特別な事をしようと考えて、人を殺した。
近所に不倫で妻を泣かせる事で有名な男が居たので、そいつを殺した。
鼓動の高鳴りを感じる。
自分の血が沸騰して、かつて無いほど身体中を巡り。
なにより―――家の外で全裸になる様な、圧倒的な解放感があったのだ。
初めて観測されたこれ程の高揚に、顔は赤く染り、息は荒げられ。
思わず、絶頂に達してした。
快感に声を漏らしながらも、まだ温もりの残った男の体を引きずって、妻の元へと届けた。
そうしたら、妻は言ったのだ―――もう、苦しまなくて済むと。
泣いて笑って、幸せそうに。
自分の旦那の死体を蹴りながら、とても気持ちよさそうに。
それから私は、休みの日に人を殺す様になった。
あの男と同じ、妻がいるにも関わらず他の女にうつつを抜かす、死ねば人が喜ぶ人を。
二年も続ければ、自分で標的を探さなくても良くなった。
街に出て、旦那の不倫の不満を言えば殺してくれると、噂が広まったから。
標的は増えたが、慣れ始めもした。
快感は次第に鈍くなり、飽き始める。
初めて人を殺した時の快感は体の奥に残って疼くのに、誰ももう一度、その快感を与えてはくれないのだ。
だから少し、やり方を変えた。
人前で殺してみたのだ。
外で全裸になる様な快感を思い出して、次のステップに。
外に出たら、今度は人前に出ようと。
単なるレベルアップだ。
快感は、蘇った。
声を漏らし、足腰立たなくなる様な、そんな快感が蘇った。
仕事を辞めて、人殺し漬けの毎日へ。
快感漬けの毎日へと日常は変わった。
快楽中毒者となった私は、次は国の外を見た。
更なる外を求めて、緊張感を求めて。
そしてその直後に見つけた。
殺したら、一番気持ち良いであろう男を。
一眼見て絶頂に至る様な、そんな男を。
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「やあ旅人さん、ヤンだよ」
「――――――っ?!」
徹夜の飛行に疲れ果てて眠っていたところ、突然現れた気配に目を覚ます。
残念な事に魔力は空っぽ。
ベッドから飛び出して両手に炎を纏わせようとしたが、一瞬の点火の後に消えてしまった。
「お疲れ? お疲れ様? 抵抗虚しく死んでしまう旅人さんかな?」
衣服は、誰かが着替えさせたのか寝巻き。
体のどこにも武器は仕込まれていない。
「…………何しに来た」
「え? 毎度お馴染みの、殺しに来たやつだよ。ヤンが来てるのに分からないなんて、まさかヤンを忘却の後に記憶の彼方へポイしてた?」
「っ、兵はどうした」
「ここに来るまでの? 私の今日の初めては旅人さんにあげたかったから、逃げてきたよ」
敵は戦闘による消耗は無し。
それに対するレイは、なんの耐久性も無い寝巻きだけを着たほぼ裸同然と来た。
「師っ!」
「人を呼んじゃダメだよ。二人っきりの時間だよ。人が三人いたら二人っきりじゃあ無いからね、ヤンは旅人さんとのタイマンを希望するわけで、自分で戦わないなんて怠慢は見逃さないわけで」
叫ぼうにも、ヤンによって邪魔をされる。
助けも呼べない。
「お手柔らかに」
「いや、ヤンは激しいのをお好みだよ」
覚悟を決めたレイに対して、ヤンが言った。
そして次の瞬間、レイから仕掛ける。
開いた手を、剥き出しの刀の鍔へと当てて、振り下ろせない様に。
もう片手で、刀身を掴んでヤンの背中側へと引いて動けないよう固定。
そのまま後方へ投げ飛ばそうとするが、異様に力が強く、まるで根を張った木の様に動かない。
「シンプルだから分かりにくいけどね、ヤンも魔法を使うんだよ。知りたい? どんな魔法か、知りたいかなあ?」
「筋力強化ってとこだろっ!」
刀から手を離して腹を蹴る。
しかし、易々と片手で止められてしまう。
「なんで分かったのかな? この謎で二話は引っ張りたかったのに」
「経験済みだ」
そう言って、一度引く。
筋力強化の魔法を使う相手との戦闘経験をレイは持ち合わせており、そして対処法も持ち合わせている。
引いたレイに対して追撃を仕掛けるヤン。
真っ直ぐ刀での突きが放たれた瞬間、レイは腕を掴んで流し、その力を利用してヤンを窓の外へと投げ飛ばした。
窓を割り、屋根を転がり、王宮の庭までヤンは落ちた。
途中転がった事で勢いが落ちたので、それ程の負傷はない。
足を曲げて力を貯めてら一気に解放。
一っ飛びで十メートル上昇して、レイの部屋まで帰還した。
「ヤン帰還っ! さあ旅人さん、第二ラウンドを…………あらまあ」
ヤンが舞い戻った部屋には、レイは居ない。
部屋を間違えたわけでは無い。
戦いによって散らかった形跡が確かにある。
レイは、逃げたのだ。
ヤンを投げた直後、一目散に。
「あー鬼ごっこか。あんまり好きじゃないな」
投げる様に、ヤンが呟いた。




