影法師
戦い、改め話し合いを終えて、少しの雑談をした後、レイはランズを王宮の外へと見送りに出た。
「それじゃあ、影法師だったな。何か分かったら教えに来てやるよ」
「ありがとう、それじゃあまた」
ランズには、レイ達がこの国にやって来た事情を話した。
新しいパーティーメンバーがこの国の者ならば、何か分かるかと考えたのだ。
ランズと別れてからレイは、アルスの部屋へと向かう。
ここ最近のアルスは、毎日のようにどこか出かけており、何か情報を入手したかもしれないからだ。
部屋まで行き、扉をノックする。
「今平気? 俺だよ!」
「レイ様ですね、今開けます」
そう応えたアルスが、扉を開いた。
すると、汗をかいて、肩にタオルを掛けているアルスが出た。
運動中だったのか、服は動きやすい薄着。
自分よりも年下の十七歳女子のこのような姿を見て良いのだろうかと考えながらも、聞きたかった話を思い出す。
「どうしましたか? レイ様」
「いや、えーっと、最近アルスよく出かけてるから、影法師について何か分かったりしてないかなとね」
「いや……申し訳ありません。出かけてはいるのですが、レオン様の家にしか行っていなくて。影法師という者に対しては、何も…………」
「レオンの家に? それはまた、どうして」
「稽古をつけていただいているのです。これからの戦いで、ただ護られて後ろで見ているだけは嫌ですので!」
それならと思い、レイは懐から一本のナイフを取り出す。
伸縮の魔法が閉じ込められている魔道具のナイフだ。
「これあげるよ―――伸び縮み自由自在」
「魔道具、ナイフのポピュラーな型でも貴重な筈なのに、本当に良いんですか!」
「ああ。あと二、三本あるし、魔法が戻ってからは滅多に使わない」
使い時も、棚の奥に物が落ちた時程度。
それならばアルスが使ったほうが有益だ。
「最高五メートルまでは伸びるよ。慣れない間は難しいかもだけど、慣れちゃえば面白いから」
「はい、大事にさせていただきます!」
●●●●●●
深夜三時、家同士の隙間に充満する影が蠢く。
集まって溢れ出して、人の形を成すと、それでも満ちる影の領域に、一人の女が踏み込む。
「やあ、ヤンだよ。君が貴方が貴方様こそ影法師君かな?」
「然り。我こそ光の対義、影であり影の王であり、影の主人、影法師に他ならない」
「硬っ苦しい喋り方、疲れるだろうからやめればいいのに。影も喋り方も主人も、全部全部、溶けてやめちゃえばいいんだ」
影法師は動かない。
ただ影として、そこにあった。
求めれば影のように呼応して動くが、今は影。
影が先決して動く事は、イレギュラー以外の何物でもない。
「つまんないの。私好みの旅人さんが探してるっていうから見に来たのに…………影法師くんに罪はないけど、誤って謝ってよ。それ相まって私はハッピーに復活を果たすんだからね」
ヤンは突如、手に握っている剥き出しの刀を振るった。
なんの脈絡もなく、ただ猫の様に気が向いたから、刀を振るってみた。
「影って、なにこれ透過? 通過? ツーカー?」
「影に実体は存在しない。ただ映るだけ、見えるだけに過ぎない」
「あ、喋った」
続けて、もう一撃。
刃は影法師の体を通って、通り過ぎて、透き通って。
すり抜けたのだ。
「敵対か」
「敵対しないで斬るのは無理だよ。ヤンはヤンデレさんだから、私好みの旅人さんが他の人を探すのはいやいやよーな訳で」
「不可思議な娘だ」
影法師が呟いた瞬間、影が暴れ出す。
地面の影から手が、壁の影から真っ黒な狼が。
それら全てが、ヤンへと襲いかかる。
「っ、一時撤退のヤンであった!」
言って、ヤンは民家の屋根へと飛び乗り駆け出した。
履いている下駄が高い音を鳴らす中、真っ暗な市街を走り回る。
狼と手は屋根からも続々と現れて、影法師の声もどこかしらが響く。
「影とは闇、闇とは影。世に光があれば、闇は付属し、我も存在する。人の世に居る限り、我が掌の上と
知るが良い」
「じゃあ永久ストーカーで常日頃現行犯逮捕と同時に牢屋の中にも常滞在? いやん、スカートの中にもいるって事じゃん!」
三匹の狼の首を掻っ切ってから、屋根からバク宙しながら飛び降りる。
空中で海老反りしながら、民家の屋根と壁の角にある影に刀を突き刺すと、そこから影法師が飛び出した。
「一時撤退のヤンであったヤンに出会ってしまった影法師、実は君こそ陰に一時撤退のコソ泥よろしくねずみ小僧で?」
飛び出した影法師に向かい、ヤンが蹴りを繰り出す。
足を大きく開脚して、地面に片足つけた状態での真上に向けての蹴りは、当然ながら影法師の体をただ通過した。
下駄と指の間に仕込んでいた小さな爆弾を、影法師の体内に残して。
「ばっきゅーん」
閃光―――当然ながら威力を持った爆弾だが、爆発の際に眩く光る事も当然である。
爆炎が広がり、影法師の影を内側から掻っ消す。
「やっちゃあ、影法師、倒したり〜」
深夜突然の爆発に、近隣住民が現れる中、ヤンは堂々と言った。
言葉遊びなんてのは考えて楽しい物で




