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ヤンヤン

今日は遅刻なし!

「師匠、もっかいやりましょう」


「もう満足したし、いいかな」



 草原に、力尽きたレイは寝そべる。

 見に纏う炎は完全に消え失せて、体に傷はないものの魔力は空―――満身創痍だ。



「いいじゃん、一撃入ったんだし愛弟子は無傷。勝ちで良いよ」


「師匠からの攻撃回数、覚えてますか?」


「えっと、ゼロ回かな?」


「そうです―――精々足止め、邪魔程度。人はこれを、完敗って言うんです」


「人は…………それは、痛いところを突くね愛弟子。二撃目だ」


「口喧嘩なら師匠、誰にも勝てないでしょ」


「な、何をっ!」



 悔しさはあるが、頬に傷一本入れる快挙。

 それだけで、嵐が去ったかのような清々しさがあった。




 ●●●●●●




 街に戻ると、何やら騒ぎが起きていた。

 人が一箇所に集まり、ざわめいている。



「師匠、あれ何事かわかりますか?」


「すまないけど、知識外だね」



 何の騒ぎか気になったので、集まった人の群れを掻き分けて中心へと向かう。



「――――――なんだよ、これ」


「マスター、何があったか分かりましたか?!」



 人海の外からアリスの声が聞こえた。

 しかし、レイは応えない。

 街中にあってはならないと思ってしまう程、口に出して言うには惨たらしすぎる死体が、そこには転がっていたのだから。



「っ、すみません、これ何があったか分かりますか?」


「ああ、見てたよ」



 人海の中の一人に尋ねると、すでに見慣れているような、落ち着いた様子で応えた。



「あんさんは旅人かい?」


「はい、今日この街に着いたばかりです」


「それはタイミングは最悪だな。最近少し、嫌な事件が続いてんだよ」


「嫌な事件? まさか、こんな殺しが連続で?」


「そう言う事だな。多い日には五つも、被害者は決まって既婚者の男だ。人目がある場所でも完全無く、突然腹が膨れて八切れんだよ。俺も嫁さん居るからなあ、最近は外で、おちおちと酒盛りも出来ねえ」


「その連続殺人はいつ頃から?」


「何時ごろってーと…………そうだな、最初の騒ぎは四日前の晩だ。丁度うちの近くで、夜中に騒ぐ馬鹿な連中を叱ってやろうと思えばこの有様。安眠なんて出来ねえわな」


「それは、大変でしたね」


「おう、それじゃあ旅人の兄ちゃんも気をつけろよ!」  



 質問に応え、喋り満足した男は去って行った。


 少し離れた場所から甲冑を着て走る音が聞こえたので、兵が来たのだろうと安心したこの場を離れる。



「マスター、何があったのですか?」


「殺しだよ。あんまり気持ちいいものじゃ無いし、見ない方が良い」


「そうですか…………被害者の方は、悔やまれますね」


「ああ、早く犯人見つかると良いけど」



 そんな呑気な話をしながらも、一先ず王宮へと戻る。

 ヴァイオレットの手引きによって、しばらくは来賓扱いで王宮に寝泊まりすることとなっている。


 城は三度目だが、やはり少し緊張していた。


 レオンはレイとヴァイオレットの戦いが終わると真っ先に一人で街へと戻ってしまったので、恐らく自分の家へと帰ったのだろうと考えた。


 レオンはレイとパーティーを組んだ訳では無い、ただの一時的な旅仲間なのだ。

 街に着いた以上、行動を共にする必要は無い。




 ●●●●●●




 王との面会はなく、部屋に運ばれた食事を部屋で食べた。

 昼間に見た殺人関連で、最近は国中警戒体制。

 王との面会は、貴族だろうと一時停止状態だ。


 レイがヴァイオレットの弟子でなければ、そもそも街へ入ることすら難しかったらしい。


 夜間は宮殿内を勝手に歩き回ることも許されておらず、もし部屋を出るならば兵の監視付き。

 監視されながら散歩する趣味は無いので部屋に籠るが、あまりにも退屈だ。


 寝るにも少し早く、久しぶりに酒でも飲もうかと考えていると突然、窓の外から爆発音が聞こえた。



「何事ですか!」


「外です!」



 部屋の外で待機していた兵が部屋へと飛び込んで来る。

 外は暗く、はっきりと景色が見えない。


 窓から外に出て、回復したての魔力で炎を灯した。

 屋根の角度が急なので、落ちないよう踏ん張りながら目を凝らす。


 瞬間―――何者かがレイを蹴飛ばした。


 兵ではない、姿が見えている。

 窓からは死角になっている位置に、事前に屋根に潜んでいた者がいたのだ。



「誰だ!」


「いやあ、油断してたから蹴っちゃった。ごめんね。私の名前が知りたい? 教えようか、教えちゃおっか」



 明日に明るい態度の女が、顔も隠さず立っていた。

 レイは兵に下がるよう手で示して、自分は足からの炎噴射で空を飛ぶ。



「私の名前はヤン、やんごとなきヤンだよ。ヤンお姉さん、(ある)いはお姉ちゃんと呼ぶのがオススメかなって」



 ふざけた態度の女、ヤンに少し苛立ちながらも、レイは冷静に様子を見る。


 フリルのついた丈の短い着物は、上半身は完全に脱げており、着物の代わりにさらしが胸を隠している。

 手に握られるのは、抜き身の刀。

 この大陸ではあまり見かけない、東の大地の武器だ。



「何をしに来た」


「ん? ヤンのこともっと知りたいの? 恋かな? 恋だよね、恋煩いだよね? 仕方ないなあ、教えてあげちゃう! ヤンはね、あなたを殺しに来ちゃった!」


「…………は?」



 突然の蹴りと抜き身の刃、普通に考えれば辻褄が合うが、戦闘とは思えない妙な挙動のせいで気持ちが戦闘に切り替わらない。



「まあ、嘘なんだけどねえ。本当は、真実はただの挨拶なのですよ。旅人さんがいる、しかも私好みの顔だと言うならば、ならばこそ! 両親への挨拶諸々省略の後御結婚のご挨拶レッツラゴー一択なわけで」



 レイは眉を(しか)めた。

 安定しない口調にヤンの異常性を感じ取りながら、全てが唐突な話の内容に嫌気がさしていたのだ。



「てなわけで、挨拶終了! ヤンはお帰り、改め帰宅を自分に推奨するわけで!」


「っ! 待て!」


「え! ヤンを引き留める、これはプロポーズ的展開なのでは〜!」



 そう叫びながら、一っ飛びで凄まじい脚力を晒して夜空へと消えて行った。

 レイは不安を拭えぬまま、追撃を諦めた。

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