変異種
手が痛い
「っし、大体二十体目かな」
「マスター、今のは二十三体目です」
「うそ、数え間違えた」
ダンジョン内に出現するミノタウロスは、基本一体ずつ。
多くても、同時に三体までだ。
ミノタウロスの知能は余り高くなく、素早い動きで攻撃を躱しながら攻撃すれば、容易に倒せたので、余裕を持って進むことが出来る。
「大将、凄まじいなァ」
「まあ、これぐらいならね。向こうの動きは遅いし、俺の戦闘スタイルと合ってるだけ」
レイの予想ではレオン達のパーティーは、攻撃を避けるのでは無く抑えるのが主軸だった。
場合によってはそれが有効なタイミングもあるが、ミノタウロスならば盾ごと弾き飛ばす事など容易。
相性が悪かったのだ。
「レオン達はどこまで進んだ? 遺体を集めて、外で埋蔵しよう」
「一番奥の部屋でさァ。そこにやべえ奴が一体。そいつにみんな…………」
「やばい? それはミノタウロス以外の魔物がいるって事か?」
「いや、変異種ってヤツで、体が兎に角でかい。人五人分はありやした」
「それはヤバい。じゃあ皆んなそこに」
「はい…………!」
アリスの探知によって、その部屋の位地は分かっている。
歩いて十分―――戦いは間近だ。
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二年前、しんしんと雪が降っていた。
生まれた頃から家なし金なしのレオンは例年通り、冒険者ギルドの前で乞食をしている。
ここならば―――たまに普段以上の儲けを出して、調子に乗った冒険者が金を恵む場合があるのだ。
これは、文字の読み書きも出来ないレオンが覚えた数少ない、生きる為の知識だ。
わざとボロボロにした服、壁に擦り付けて痛めた肌と、匂いで人が離れないように、泥水の川で水浴びをする。
自分は見窄らしいが、臭くないと。
近づいても大丈夫だと精一杯演出するのだ。
そんなレオンに、一人の男が近づく。
シャルル・バーバルド、この街、国、リデラントで最優の冒険者である。
この男に拾われて、レオンはただのレオンから、シャルル・バーバルドの庇護下、レオン・バーバルドになった。
シャルルはレオンに水を与え、体を洗い、部屋を与えた。
レオンがなぜ自分を拾ったのかと聞くと、体が大きくて、鍛えれば冒険者仲間として優秀になりそうだったからだと応える。
シャルルの元で充分な食事を取り、生きる為の運動では無く、強くなる為の運動をしたレオンは、予想通り強くなった。
今まで着たことのない綺麗な服を着て、上等な装備を纏い。
全てが喜びに満ちていた。
一年目は体を鍛えて、たまに仕事に同行して、二年目はずっと後ろをついて歩いた。
そしてある日、国から少し離れた場所に、魔物が溢れそうなダンジョンがあると報告があった。
国外ではあるものの、魔物が溢れ出せば間違いなく国にもやってくる。
事前の対応が、不可欠だったのだ。
シャルル達は充分な装備を揃えてダンジョンへと向かう。
最初は簡単に、数体のケンタウロスを倒しながら進んだ。
奥かな進むに連れて、敵の数は多くなり、誰一人魔法を使えないシャルル一行では手こずるようになり始めたが、そこは経験に物を言わせて、まだ余裕を残して進んだ。
しかし、最奥。
入った途端に驚愕して、誰もが負けを悟った。
空気を震わす咆哮に、手持ちの巨大な斧。
それが振われるたびに、小さな家なら破壊できるであろう程の風圧が現れた。
シャルルは長年の経験と優秀な頭脳で、即座に撤退以外の選択肢を排除。
そして次の瞬間には、シャルルとレオン以外のメンバーが死んでいた。
シャルルの事はレオンが護ったが、それ以外は斧の一振りで胴体上下に真っ二つ。
即死だった。
シャルルは叫んだ。
なんとしても、レオンを逃がそうと。
これがリデラント最優の冒険者の、最後だった。
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「デカイ、デカイね」
「はい、マスター。この大きさなら私が即座に――――――」
「いや、アリスは少し下がってて、アルスを護っててよ」
レイはレオンを連れて、歩み出す。
「レオン、倒したい? それとも仲間達を連れて帰るだけが良い?」
「俺ァ、出来ることならこのデカブツを、叩っ殺してやりてえ」
「分かった、手伝うよ」
巨大な敵には、内臓まで剣の刃は届かない。
だから使うのは魔法だ。
両と拳に炎を纏わせて、いつでも技を出せるよう準備する。
「一撃喰らえば、鎧も砕けやす。気をつけて」
「分かった。そっちも受けようとは考えないで、逃げること優先で」
「承知しておりやす」
少しの言葉を交わしてから、レイは足から炎を噴射して浮上。
ミノタウロスの顔に簡単な火の玉を放って、自分に注意を向けた。
「さあ、暴れろよ」
戦いの火蓋が、切って落とされた。




