ピルグリム
「お前は神なんかじゃない。東の大陸のみに存在する長寿の種族、エルフだな?」
「エルフ…………何だいそれは? 」
「しらばっくれるなよ―――イルマーニが神域を開く神の力、奇跡を使う時に魔力は発生しなかった。奇跡ってのはつまるところ、魔力の介入によって物事を発生させる魔法とは違う、突然その場に結果だけを発せさせる力なんだろ?」
「何を…………僕は、神だ! 君では到底届かないこの実力差で何故理解でしかない?!」
「エルフが何だと言った地点でも矛盾はある。嘗てアルマーニが顕現していた八百年前の世には、エルフ含め別種族も―――全大陸に存在した。纏めて東の大地へと移住したのは、精々五百年前。お前は若い見た目からして、年齢は三百に届くかどうかだろ?」
レイが情報を提示するにつれて、アルマーニの顔には焦りが現れる。
すぐ様黙らせようと攻撃を仕掛けるが、レイは魔力の温存などせず高温高火力の炎で対処する。
「エルフは森での狩を多く行い、草の中に潜みやすいように髪色は緑へと変化した。奇しくも、木の神アルマーニとイルマーニと同じにな」
「黙れ! 今すぐ口を閉じなければ、僕はお前の喉を裂く!」
「どうした声を荒げて、余裕がないのか? ここで平然を装える頭があれば、自分が生まれる二百年前の情報ぐらい調べただろうな」
「決めた、今すぐ君を、目も当てられない程無惨に殺して、その醜態を――――――」
「その決断ももう少し早ければ、俺の証明は終わらなかった」
レイが言った瞬間、濃い霧の塊が現れた。
それ即ち神域との繋がりを示し、真の神の顕現を示す。
「アルマーニ、相手はアルマーニじゃなくて、名を語るただのエルフだ! もう、出れるだろう!」
「ああ、我も出陣しよう」
現れた男は、より深い緑の髪と、豪勢な衣装。
胸を張って歩き、誰よりも自信ありげに―――語らずとも、自分こそが神だと主張するような男、イルマーニだ。
「我が名はイルマーニ。愚兄アルマーニになりすまし、百を超える民を犠牲とした貴様の言動、目に余るなどという次元の話では到底足り得ない! 我が手ずから、貴様に罰を下そう!」
途端、辺りの木が、アルマーニ、エルフの男が出した木が動き出す。
エルフの男の意思ではない、イルマーニの意思でだ。
「神たるもの―――発生、操作は必要ない。必要なのは支配のみ。出現させる支配、操る支配、そして、操作権を奪う支配。世には貴様の様に、天譴とつけて技を呼ぶ神もいるが、我は違う。ただ一重に、純粋な力で押しつぶすのみよ!」
全ての木が一塊の大剣となり、更にイルマーニが木を出現させて、補強。
鉄なんかよりも硬く、鋭く、強い剣となった。
「神を名乗るならば、もう千年学び直すがよい!」
イルマーニの叫び声と同時に、大剣はエルフの男を砕き、床を砕き。
爆音を空間全体に響き渡らせた。
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「もう痛みませんか? レイ様」
「ああ―――ありがとう、アルス」
少し痛むものの、ほぼ完治したと言って間違いのない腹を摩りながら、レイは言った。
「大体の傷は私の魔法で治せますけど、本当はゆっくりと時間をかけて治すのが一番なんですから。いや、怪我しないのが一番です」
「うん、ぐうの音も――――――」
「そもそも! レイ様はチャンスになると油断する事が多いかと思います! ドラゴンの時も兵の方から聞きましたが、油断して近づいて、吹っ飛ばされたって!」
「…………はい」
医者を超えて、母親の様な事を言い出した。
年齢十七と若いながらも、二十四歳のレイへと叱りつけるアルスは、戦う最中の戦士にも勝るとも劣らない気迫があった。
「まあ、アルス様。最終的には買ったのですし、こちら側に死者は居ません。お説教もそのぐらいに…………」
「分かりましたアリス様!」
アリスには従順だ。
自分を叱る時とアリスに声をかけられた時の態度の変わり方に驚きながらも、レイは本日の事を思い出す。
戦いながらも普段使わない様な、推理がかった頭の使い方をしたり、戦いの結末を見た直後に気を失ってしまったり。
目が覚めた頃には地上に戻っており、ロムニスは忽然と姿を消していた。
伝言として、東へ向かうよう言い残したらしいが、その通り動くかどうかは、決めあぐねている。
「レイよ、お前はこの国を出るのか?」
「ああ、行き先が決まり次第」
イルマーニへと伝えると、納得した様に頷く。
東を向いた。
「ずっと東の国、リデラントへ行くと、影法師と名乗る千年を超え生きる男が居る。そやつを尋ねれば、もしくはその機械娘の知りたい事が分かるやもしれぬぞ」
「影法師…………覚えた。ありがとう、イルマーニ」
「いや、お膳立ての礼だ、気にするな」
イルマーニはこれから、新たにこの国を統治するとの事だ。
この国ならばイルマーニは神としての力を振るい、強固な国作りが可能だ。
レイは東へと向かう以外の選択肢がなくなり、それをアリスとアルスに伝える。
旅支度をし直して、街でイルマーニの木で仕立てた新しい馬車に荷物を積み込んだ。
一晩だけ街の宿屋で休んで体力が回復したら、即日街を出ようとする。
「待て、新たな旅路にに我の見送り一つでは心許なかろう。なんだ、一つ呪いをしてやろう」
街の門を出て、馬を走らせる寸前、イルマーニの静止がかかった。
呪いとは何だろうと思いながらも一度馬車から降りると、イルマーニは一つ木の杖を生み出して、それの底を地面へと叩きつけて鳴らした。
「ここは巡りの果て。幾多の巡礼の末、人は我が手へと回帰するであろう。森羅と万象―――起源たる我等、足止めぬ旅人の安泰を誓おう…………さあ行け、そしていつか、この街で我に土産話を聞かせに戻ってこい!」
三章終わりです




