生足魅惑の古代兵器
アリスのレーザーに驚愕した後、このままアリスを放って置くのは危険とレイは判断。
アリス自身の事を知る為と、レイが落ち着く為に、アリスの過去を聞いた。
アリスは機械仕掛けの人形。
時計の様に全てが噛み合い、動きや声、そして感情までも完全に人間を再現した奇跡の存在だ。
過去千年前には、アリスの他にも同じ技術を使って作られた兵器が多く存在している。
ごく僅かだが、その様な兵器にはレイも心当たりがあった。
過去の世界、激しかった戦いや今より強い魔物。
そして今と変わらない人の暮らし営みの話なども、アリスは覚えており話した。
人の平和な日常の話をするときなどは、少し幸せそうに。
レイは思う。
きっとアリスは、他の人と同じ扱いをしても良い。
普通の人間と比べても、善人の部類に入ると。
きっとアリスは、地上に連れ帰っても問題無いと。
何をするにも先ずは地上に戻ろうと、レイは気を持ち直す。
今の地上では戦争は終わっており安全だと伝えると、アリスも付いてくることとなった。
「このドラゴン、勿体ないな…………」
レイが呟いた。
今の時代―――ドラゴンとは魔物の中でも最強の一角であり、レーザー攻撃によって傷は多いが、それでもこの死骸を持って帰れば一躍大金持ちだ。
「どうかされましたでしょうか、マスター」
「ああ、これ持って帰れたらなって」
「それならばお任せを―――帰るまでに擦り傷一つ付けずに、安全に運んで見せましょう」
そう言ってアリスは、死骸に掌で触れた。
途端、死骸は青い粒子となり、全て掌に吸い込まれて行った。
「私に搭載された機能、分解です。再構築の機能でいつでも元に戻せますので、ご心配無く」
「そんな事も…………!」
少し驚きながらも、自分がこの空間へと落下した穴までの距離を計算する。
「アリス―――俺の魔法は自分以外転移させるのには接触が必要なんだ。だから、背中とかに軽く触れておいて欲しい」
言うとアリスは―――何の躊躇いもなく、レイの背中に抱きついた。
「――――――?!」
「何か問題ありましたでしょうか?」
「だ……大丈夫」
問題の有無で言えば、大ありだ。
機械の体だというにも関わらずとても柔らかな胸部は、一度計算した転移先までの距離を完全に頭から消し去った。
下唇を噛み締め、その痛みで頭を冷静な状態に戻し、再度距離を計算してから、レイは転移した。
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あれから少し歩き、無事ダンジョンから脱出した。
街へと繋がる道を行く最中、アリスが空を見上げる。
「千年経とうと、技術が潰えようと、空は変わらないのですね」
「人も変わってないよ。街並みは結構変わるかも知れないけど」
「それは…………良いことですね」
そんなことを言いながら歩き続けると、空が赤くなり始める頃にはレイが暮らす街、リルラントに到着した。
街に入るには身分証が必要だが、アリスにはそれが無いので、レイを保護者代わりとして街に入る。
容姿が整っている上に外套の隙間からは生足が見え隠れするアリスは、街中で注目を集めた。
宿屋に泊まる人数が一人増えるので、その分の金額を払ったら、アリスと部屋へと行き、荷物を置く。
「突然だけどアリス―――服を買って来ます。希望があれば言って欲しい」
「私も着いて行きます」
「やめて。それの下なんも着てないから、捲れたら大変だし留守番してて欲しい」
「それでは…………白黒の給仕服を。千年前に着て、以前のマスターに使えていました」
「分かった。探してみるよ」
留守番を命じられ不服そうなアリスに言って、レイは宿屋を出た。
取り残されたアリスは、窓から外を眺める。
宿屋から出たばかりでアリスが外を眺めているのに気付いて手を振るレイ、野菜が山ほど入った荷台を引く農家、槍を持って街を巡回する兵、母に寄り添って歩く双子。
それら人を、眺めていた。
千年前から変わらぬ営みの美しさが、今の時代にもあった。
千年間一人で修復作業に専念して、長い間見ることの出来なかった美しさ、尊さがそこにはあった。
外を眺めて三十分―――レイが帰って来た。
少し大きな紙袋を持っており、そこからアリスの要望通りの服を取り出す。
白黒の色合いにくるぶしまであるロングスカートの給仕服。
俗に、メイド服と呼ばれるものだ。
「過去に着ていたものと、酷似しています」
「よかったよ。悩んだ甲斐があった」
「今着てみてもよろしいでしょうか?」
「明日にしよう。今日の夕飯は部屋に持ってきてもらうし、外に出る予定も無いから。別に寝巻きも買って来たからそっちに」
「承知しました、マスター…………」
声から悲壮感が漂っている。
少しの罪悪感を感じながらも寝巻きをアリスに手渡した途端、アリスはレイの視線も気にせずに脱衣を始めた。
「っちょっと! 俺部屋から出るから待って!」
「…………どうしたのでしょうか?」
部屋から飛び出したレイを見て、アリスは不思議に思う。
千年前の戦場では、自身の服が破けようかなんだろうが、誰一人気にはしていなかったからだ。
アリスは即座に着替えを終えると、部屋の扉をノックする。
「着替え、終了いたしました」
「分かった、ありがとう」
そう言って扉を開くと、そこには寝巻きの前のボタンを閉めないまま開きっぱなしにしたアリスの姿が。
「―――っ!」
縦一閃―――レイはこの瞬間、今後含め生涯で最速の、最大限無駄を排除した動きで、寝巻きのボタンを閉めた。
「これが…………今の人類!」
アリスは初めて、レイの行動によって驚き、あからさまに感情を露わにした。
「アリス………服のボタンは…………閉めよう」
「は…………はい、マスター」
呆気に取られたアリスを横目に、レイは床に寝袋を敷く。
「さて―――明日は出かけなきゃだし、早く寝よう」
そう言って寝袋に入ると、その横にアリスも横たわる。
「アリス…………一体、何を」
「指示通り、睡眠体制をとっています」
「ベッド…………あるから」
「マスターが床ならば、私も床で寝るのが道理です」
「いや、お願いします。ベッドで寝てください」
「了承しかねます、マスター」
アリスは上下関係にこだわった。
主人が床ならば自分がベッドで寝る訳にはいかないと。
アリスはその主張を頑なに曲げようとはしなかった。
そしてこの状況の解決方法は、すでにレイの頭の中にあった。
「分かった、じゃあ俺もベッドで寝るから、アリスもだ」
「それならば…………了解いたしました」
レイは寝袋をしまうと、ベッドに入る。
体を横にして、背中側に横たわるアリスの姿を視界に入れないようにと勤めた。
それでも布切れ音などは聞こえる。
アリスの機械の体に性器は存在しないが、やはり見た目は女性。
しかも飛び抜けて美人だ。
「…………寝れる気がしない」
早々に眠りについたアリスを起こさないよう小さな声で、レイは呟いた。
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