鏡
かつてこの国には、二柱の神が存在した。
アルマーニと、イルマーニである。
アルマーニは悪事を働くイルマーニに罰として魔法をかけて、魚に変えてしまった。
イルマーニは醜い魚となった自分の姿を隠すために霧を発して、昔アルマーニが乗っていた物と似ている、馬車を襲い続けるという。
「よく見る周りを巻き込むタイプの勧善懲悪ですが、神ですか…………イルマーニがこの国の名前にそのまま使われているということは、この国の宗教の主神はイルマーニでしょう」
「私がカフェのお爺さんから聞いた話とも大体一緒です!」
図書館中の本のスキャンを終えたが、イルマーニの倒し方は載っていなかった。
ほんのついでに探した、千年前の話も。
「ダメですね―――何も知らないと変わりません」
そんなことを言って、アルスを連れて図書館を出ようとした時、見覚えのある男が現れる。
「やあ、昨日ぶりですね。私はアーメルン。同行願えますかな?」
昨日の、司教だ。
ニマニマと君の悪い笑みを浮かべて、アリスへと話しかけた。
「申し訳ないのですが、急ぎでして。同行はまたの機会に」
「私も少し大事な用事でしてね、ご同行いただけないならば、少々乱暴にでも………………っ!?」
物騒な話を持ち出す。
しかしそのとき、司教の足が青い光線によって、レーザーによって貫かれた。
「申し訳ありませんが、私は貴方に従うつもりが毛頭ございません。そちらが乱暴するというのならば私は止めませんが、最低限の反撃はさせていただきます。今のはただの警告ですので、測り違えない様、よしなに」
足を撃ち抜かれて座り込んだ司教の横を、アリスは通り過ぎる。
「待て…………私にこの様な狼藉、許されるとでも…………!」
「――――――貴方が許そうと許さなかろうと、何をしようと、私の世界に波一つ、波紋一つ立たないのですよ。弁えて、一考ください」
時には代わりに喋り、時にはブレーキ役となったレイが居なくなり、完全に解き放たれてしまったアリスは言った。
「アリス様、あの方は?」
「司教様らしいですが、関係の無い事です」
「司教様?! それって不味いんじゃないですか!」
「あの程度の一撃を避けられないならば、視界に入れる必要もありません」
「分かりました!」
従順な態度で従うアルスを連れて、一度宿屋に戻るが、次するべき事が分からない。
取り敢えず大きな街へと向かうか、レーザーが当たらない事覚悟の上でイルマーニに戦いを挑もうか。
「マスター、私はどうすれば良いでしょうか………………」
●●●●●●
「アルス様―――私は少し外に出て来ますので、先に眠っていてください」
「分かりました!」
アルスは言われた通り、即座にベッドへと潜り、眠りについた。
「夜に街に出るのは、初めてですね…………」
アリスが呟く。
夜の街はとても静かで、未だ十時前だというのに、街の住民は誰一人居ない。
店はどこも閉じており、稼ぎ時であろう酒場までもが灯りを消していた。
たまに教会の兵、聖騎士を見かけるが、どこか無機質で、ただ役割を全うしているかの様。
それにアリスは、若干の親近感を感じる。
しばらく散策していると、うっすらと人の気配を感じた。
ようやく人を見つけたと振り向くと、そこには誰もいなかった。
「これが、マスターに教えていただいたお化け…………!」
言ってはみるも、何が起きるわけでも無い。
気配の正体が分からない―――市民ならば攻撃するわけにはいかないが、敵ならば放ってはおけない。
先に行動出来ないという嫌な状況に置かれながらも散策を続けた。
「余裕ですかな? リーン様」
「誰ですか、不敬物は」
突然アリスは話しかけられて、レーザーの発射口を十個出現させた。
「誰だか知りませんが、私の事はアリスと呼んでください。次間違えれば、殺します」
「いやはや、これは失礼しました。図書館ぶりですね―――名乗り忘れていましたが、私はアブリスタと申します」
カラカラとタイヤの音を鳴らして、車椅子を押されながら現れた男。
昼間アリスに足を貫かれた、司教―――アブリスタだ。
「懲りないのですね、何故私の名を?」
「門番に必要な資質は、強さ、愚直さ、飽きなさ、そして―――記憶力です。目立つ見た目の人物の名前を、全て覚えていられるぐらいのね」
「あの男性ですか」
「覚えているのですか? 貴方も門番に向いているようだ、就職してみては?」
「世間話をしに来たのですか? だとしたら、興味ありませんよ」
「気が短いですなあ…………まあ良い、私の足を穴空きにしてくれた事、後悔していただきます!」
「隅に小さな穴一つ。塞がるのにそう時間はかからないでしょうに…………」
言うと同時に、物陰から大勢の、宗教服を着た男達が現れた。
男達は十字架の形をした長剣を装備しており、それをアリスに向かい振るった。
「マスターの半分の速度、私に挑むなら、ドラゴン程の速度に調整し直す必要があります」
容赦は要らない。
既に出現している発射口から、レーザーを発射。
全てが的確に、男達の頭を貫いた。
「信者に手を出したな! 神の罰が降るぞ!」
「神を名乗る者を大勢下しましたが、全て人でした」
心臓目掛け、レーザーを放った。
瞬間―――レーザーは反射されて、アリスの首横を通過する。
「神具―――無方鏡水。全ての四方は、私が決める」
「その鏡は―――!」
「なんだ、知っているのか。ならば分かりましょう? 貴方の真っ直ぐな攻撃と、この鏡の相性は――――――」
四方八方、全ての方向からレーザーを発射。
話を聞く気など、毛頭ないのだ。
鏡が一つなら、二方向以上から攻める。
至極真っ当で簡単すぎて、つい見落とした常識である。
アブリスタは即死。
辺りには、静けさのみが広がっていた。
「マスター、私はどうしたら良いでしょうか」




