イルマーニ
未だ22話と言う短さで、三章始まりました!
宜しくお願いしますm(_ _)m
アルブレヒトの息子達とと嫁は、魔物の襲撃によるもしもの場合に備えて地方の辺境伯邸に避難していた。
息子は今年成人するので、帰って来たら直ぐに王位を奪い合う争いが起きるとの事だ。
レイはその王位争奪戦など、政治に関わるのはごめんだと、早々に街を出ようとしたが………………。
「ねえ、本当に付いてくるんですか? アルスさん」
「当然です! アリス様……じゃなくて、貴方、レイ様の傷が開いては大変ですから! これからも色々な国を旅するのでしょう? それなのに出来る治療は救急箱の中にある道具での応急処置と、焼灼止血法だけなんて! 危険すぎますよ!」
「まあ、それはそうだけど…………」
「それと! 私の名前を呼ぶときにさんは要りませんし、敬語も不要です!」
「アルスさんだって敬語じゃないですか」
「私は親にも動物にも敬語なので!」
「んー分かったよ。よろしく、アルス」
アルスは納得したように頷く。
今三人は街を出て一時間ほど馬車に揺られているが、風景は退屈なもの。
偶の楽しみは、旅の途中で言い争いになっている別の旅人を見る事ぐらいだった。
「これはまた、趣味の悪い遊びをしますね」
「旅に、人の良さなんて邪魔なだけなんだよ……」
「そのセリフは、もっとカッコいい使い所があると思います!」
アルスは訴えるように言う。
「暇なんだよ。本人達に聞いて答え合わせするわけでもないし、アリスもこれ好きだよ」
「本当ですか!」
アリスの名が出た途端、露骨にアルスのテンションが上がった。
その声に、馬を操っていたアリスが振り返る。
「なんの話でしょうか、マスター」
「あのー道の途中で言い争ってる人の、なんで怒ってるかって当てるゲームあるじゃん。あれアリスも好きだったよね?」
「ええ―――あの遊びは、人と共に人の気持ちを想像する、とても素敵なものだったと記憶しております」
「ほらね」
「なんか、レイ様が得意げな顔するのは違う気がします!」
「まあまあ」
そんな中身の無い会話をしながらも馬車を走らせた。
日も暗くなり、夕飯を食べ終えると、アルスは簡易ベッドを持っており、そこでとっとと眠ってしまう。
しかし、レイとアリスは焚き火のそばで二人座って、まだ起きていた。
「マスター、千年前の話は、アルス様に話さない方が良いでしょうか?」
「どうだろう―――俺はそういう決断が苦手だから、アリスがしたい様にしてもいいと思う」
「了解しました。明日の朝、話してみます」
「俺も一緒にいようか?」
「お願いします」
●●●●●●
「――――――と言う事で、私は貴方方の様な人間では無いのです」
「なるほど、理解しました!」
アッサリと、アルスは言った。
レイもアリスも少し驚いていると、アルスはアリスの手を取り言うり
「手を甲の方へと押すと、手首に筋が出来ます。私はこの筋を、頭がイカれてしまうほど愛してます。舐め回してしまいたい程に、愛します。私は貴方の声が好きだし、顔が好きだし、髪が好きだし、話し方が好きだし、手首の筋が好きだし、体が好きだし、目が好きだし、好きなところだらけですが、別に現代に生まれた人間かどうかなど、私が好きな要因には全く関係ないんです。千年前の兵器だろうが、私の愛は揺るぎませんよ!」
「アルス様………………」
アリスは嬉しそうな顔をするが、レイは引いていた。
そして考える―――アルスを街に戻した方が良いのではないかと。
「それじゃあ今日も元気に、行きましょう!」
馬の操縦は出来ないが、朝から誰よりも元気なアルスが真っ先に馬車へと乗り込む。
それに続く様にレイとアリスも馬車へと乗り込んで、焚き火の消し忘れなどを確認し終えた上で、レイが馬を操縦して走り出す。
まだ霧のかかっている早朝だが、冷気と風が心地よい。
馬の調子もいい様だ。
しかし、次第に霧は濃くなっていき、いつのまにか馬の足元より先が見えない事態となっていた。
それに連れ、レイの顔色も悪くなる。
このメンバーの中でレイだけが、アルマーニ国境近くの、稀に現れる怪物を、知っているのだ。
「マスター、これは一度止まった方が…………」
「うん、でも今は静かに。でないと死ぬ」
レイは冷や汗を垂らしながら言った。
アリスが不思議そうな顔をするので、レイはこの霧の原因であり、冷や汗の原因を指さした。
アリスが視線を向けて目を凝らすとそこには、紛れもない化け物が、泳いでいた。
「陸地唯一の巨大魚、地中のドラゴン、イルマーニだ………………」
「イルマーニ、今向かう国に、酷使した名前ですね」
「ああ、アルマーニ教国が出来るきっかけの神話に、深く関わってるらしい」
空気を読んだアルスは静かに馬車の隅に座り込み、静かに外を眺める。
アリスはレイの側でイルマーニを見つめ続け、警戒を続けた。
「アリス、レーザーの準備を。場合によっては、一度俺を残して先に逃げて」
馬車はどんどん加速を続けるが、イルマーニとの距離は離れない。
イルマーニは一定の距離を保って、レイ達を一斉に仕留めるタイミングを探しているのだ。
「アリス、レーザー標準定めて、いつでも撃てる状態に」
「はい」
六つのレーザー発射口を出して、構え。
「アルス、アルマーニまでの道のり覚えてる?」
「は、はい! 一応大体は」
「身分証は?」
「あります。確かメルヘイルの物でも入国出来ますよね?」
「うん。じゃあ俺のも預けとくから、もし何かあったら、アリスの物と一緒にこれも出して」
「はい…………でも、なんで…………」
レイはアリスにダンジョン探索の際に使うバッグを出してもらい、外套を着て、腰に剣を携える。
「剣、刃毀れ無し。水筒、満タン。外套も破れてないし、靴底の仕込み刃も異常無し」
そして、魔法も異常なく使える。
「アリス、レーザーお願い」
「………………はい」
アリスはかつてないほど、不服そうに返事をした。
今まで分かり易く喜ぶことはあったが、これ程に、下唇を噛み締めて、眉間し皺を寄せて悔しがることなどなかった。
レーザーを放つと、イルマーニは地面の中を蛇行で泳ぎ、全てを回避する。
一撃一撃の攻撃が重くとも、動きが鈍重なドラゴンとは違うのだ。
「それじゃあアリス―――またね」
そう言って、レイは馬車の外へと転移。
霧の中には、馬に鞭打つ音のみが響き渡っていた。
お前、消えるんか




