襲撃者
とても短かったですが、この回で2章は終わります。
この後一時投稿の話から、三章開始します。
「おはようございますマスター、役立たずのアリスをお叱りください」
「急に自己肯定感が下がったねアリス」
寝起き開口一言目、アリスはレイが横たわるベッドの横で、正座していた。
「私が眠りこけている間にマスターが命の危機に瀕しているとは。あのドラゴン、強い個体でした。私がいればまだ少しは安全に戦えたでしょうに、本当に、面目がないのです…………」
「俺が夜、三時頃だったかな。水を飲みに起きた時まだ泣いてたんだし、疲れて起きれなくても仕方ないよ」
「しかし、しかし!」
「まあまあ、今回死者は居ないんだし、俺も生きてるし、いいじゃん」
すっかり落ち込んだ様子のアリスを見て困りながらも、少し外を覗くと、戦い始めた時よりも日が浅いことに気がつく。
意識を向けると、空になった筈の魔力が完全回復していることもあり、自分が寝ていた時間が長かった事を悟る。
長く眠っている間、アリスはずっと不安だったのだろうと考えながら、長く寝ていたので喉が渇いている事を思い出して、丁度良いと考えた。
「じゃあアリス―――罰として、水持って来てよ」
「はいっ!」
アリスは勧善懲悪を望んでいたのか―――罰と言われた途端、花が咲く様に笑った。
ペコリと頭を下げてアリスが退室してから、レイはベッドから起き上がる。
立つと少しふらつくが、歩けない程では無い。
指先に炎を出してみると、火力が全く落ちていない。
それどころか、ドラゴンとの戦いで魔力回路がより馴染んだのか、火力は増したと感じた。
「マスター! まだ横になって、お休みになられていてくださいませ!」
水を持って帰って来たアリスが言う。
少し焦った様に、急いで水を置いて、レイを無理矢理ベッドに戻そうと――――――。
「いっ!」
「マスター! だから休んでくださいと!」
鈍く傷んだ箇所、腹を見るとらキツく結ばれた包帯と、そこに滲む血が見えた。
少し驚きながらも大人しくベッドに戻り、これ以上腹を痛めない様に、ゆっくりと横になる。
「はあ、麻痺してるから気づかなかったな。しばらく馬車は揺れがキツイかな…………」
呟いて、血の滲む箇所を摩る。
多くの戦いを得て、主に師匠であるヴァイオレットとの修行を得て、レイは多少の痛みは感じない、感じられないようになっていた。
命に関わる程の痛みは感じるが―――今回のような、小さく痛み続けるような傷には気づけない。
「傷が治るまではこの国で休みましょう。アルブレヒト王からも滞在の許しを、いつまででもと頂いております」
「そっか、いつまでも…………この傷、焼いてつけちゃダメかな?」
「ダメです!」
「そっか、残念」
そい言いながらも水を受け取って、一気に飲み干す。
空気の入れ替えだと言ってアリスが窓を開くと、心地よい風が室内へと流れ込んで来た。
「アリス、街の被害は?」
「ほぼ皆無です。強いて言うならば、皆様の装備の鉄が少し溶けた程度でしょうか」
「よかった…………」
自分が弾き飛ばされて痛がっている間に誰か死ななかったか、街に被害が無かったか。
それは―――最後の一撃を放つ瞬間、何よりもレイが不安に思っていた事だった。
安心していると突然、がちゃがちゃと音を鳴らして、鎧を着た兵士が扉を乱暴に開けて、血気迫った様子で部屋へと飛び込んで来た。
「どうかお助けを! 王が、アルブレヒト王が討たれました!」
●●●●●●
兵は話した。
ドラゴンの解体をアルブレヒトが見たいと言った事。
ドラゴンの腹を捌いた途端、中から謎の女が飛び出した事。
女の肘より先が、ドラゴンの手の様に鱗に覆われて、鋭い爪がついていた事。
女がその爪を振るった瞬間、離れているにも関わらず、アルブレヒトの喉が裂かれたこと。
「女は!」
「未だ解体場で兵が食い止めております!」
急いで剣のみ装備して、部屋を飛び出した。
アリスには全力で止められたが、緊急事態だ。
腹の傷は焼いて血が出ない様にして、全力で城内を駆ける。
解体場の位置は兵から聞いたので、最短ルートを走る。
「遅かったじゃん、英雄君」
「お前が…………これ全部、お前がやったんだな」
褐色の肌と、腰まで伸びる巨大なポニーテールのブロンド色の髪。
真っ白の軍服は、彼女の一眼見たら分かる、軽い人柄に異様な程まで似合わない。
彼女が立つのは、無惨に殺された兵達の死体の山。
レイは怒り、それを炎に変えて発する。
「私の名前はマニュ・レニ。英雄君は、レイ君だよねぇ?」
レイは返事をせず、剣を抜く。
瞬間、マニュが手を振るった。
前情報として聞いていた、正体不明の不可視の攻撃。
レイはマニュの背後へと転移する事で大きく回避して、そのまま首目掛けて刃を振るう。
「硬っ!」
「女の子に向かって課題とか、失礼っしょ!」
手の鱗で攻撃を止めてから、後ろ蹴りでレイを蹴飛ばす。
「なるほど、理解した」
呟く―――レイの視線が向いているのは、道の奥。
先程までレイが立っていた位置の奥だ。
壁に大きな、引っ掻き傷。
マニュの爪と、同じ形だ。
「えりゃあっ!」
「っ! 単純!」
攻撃を飛ばす―――そんな魔法だ。
爪を振るえば、その衝撃が伸びる。
自分と爪の間に剣でもなんでも挟んでやれば、防御は容易なのだ。
「炎喰!」
剣の炎を狼の頭の形にして飛ばして、それがマニュの腕へと噛み付く。
しかし、マニュはそれをもう片方の手で叩いて、簡単に消滅させた。
「飽きてきちゃった。もういい、私かーえろっ! バイバイ、英雄君!」
「待て――――――っ!」
マニュの背から突如、ドラゴンの羽が生えた。
それを羽ばたかせ、突風を起こしながらも、手を振るい天井を破壊して、そこから飛び上がる。
「バイバーイ!」
そう言って立ち去るマニュに怒り、剣を強く握り締めながら、レイは腹の傷が広がっている事に気づいた。




