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変態説

本日3話まで投稿するので、読んで頂ければ幸いです

「リーン・アリスワールド、起動します」



 無機質な声が鳴ると同時に、女は立ち上がる。

 すると突然、首から足元までに渡り、うっすらと青い光の筋がいくつも延びる。



「待って、ちょっ、服!」



 光に少し驚いて、その衝撃で女に見惚れてぼうっとしていた意識がハッキリと戻る。

 そして、慌てて全裸の女から目を逸らした。



「はじめましてマスター、リーン・アリスワールド、アリスとお呼びください」


「分かった、分かったから服を!」



 そう言って―――レイは女改め、アリスを視界に入れないようにしながら、アリスの座り込んでいた位置を見る。

 しかし、服などない。


 説は三つある。


 まず一つ目、追い剥ぎに遭った―――服や装備などを全て奪われた可能性。

 アリス的には最悪の事態だろうが、アリスの道徳心に訴えるならば最良の説だ。


 次に、変態説。

 アリスがダンジョンで露出プレイに興じる変態という説だ。

 それならば即刻兵に突き出すだけ。


 最後に、そういうもの説。

 よく分からないが、世の中全て理解出来るわけじゃない。



「と、とりあえず俺の貸すから着て! お願いします!」


「それは命令ですか?」


「それでいいから!」



 レイは即座に外套(がいとう )を脱いでアリスに差し出し、着てくれと頼み込む。


 アリスが外套(がいとう )を身に着けるのに手間取っている間、レイはこの空間を観察。

 辺り一面に咲き狂う見たことのない真っ白な花に、これまた真っ白の、アリスが背もたれにして座っていた十字架。

 それは真っ先に、墓を連想させた。

 くすんだ薄橙色(うすだいだいいろ )の壁と床と、真っ白な花畑が、連想した孤独な墓をより鮮明なものにする。



「これでよろしいでしょうか、マスター」


「もう大丈夫、ありがとう」



 応え、ようやくアリスへと視線を向けなおす。

 そして改めて見惚れてしまう。


 顔の造形に無駄がないのだ。

 削ぎ落したわけでも、足しすぎたわけでもない。

 数字の0のような、必要にピッタリの様式美だ。



「一つ聞きたいんだけと、いいかな?」


「何なりと―――全てに答えます」


「それじゃあ、なんでこんなところに?」



 なぜ全裸でいたのか。

 そこまで聞きたかったが、聞く勇気が湧かずに飲み込んだ。



「修復作業に専念できる場所を模索、検索した結果です」


「修復作業って、なにか装備でも?」


「攻式レーザーモジュール等のシステムに八十四パーセントの破損を負いました」


「れーざー? もじゅーる?」



 未知の言葉に首を傾げるレイを見て、アリスは不思議に思う。


 アリスからすれば、今上げた言葉は常識的なものであり、百人に言えば百人に通じる。


 アリスはレイが自分の言葉を理解できていないであろう理由の説をいくつか作りげ、その説の外堀を仮で構築。

 自分がこの空間に居た時間を計算して、その理由を理解した。


 アリスの思考は残酷なまでに正しかった。

 残酷なまでの時間が経過し、多くの技術が歴史に葬られ、自分の存在が世の中から消えてしまうその考えは。



「私は千年前の戦争で、最終手段として作られた兵器です。使用された際に機能の大部分を破損し、修復の為この場に避難しました」


「じゃあ、千年も前からこの場所に…………?」


「はい」



 疑心暗鬼になりながらも恐る恐るレイが尋ねると、アリスは簡潔に答え、小さく頷いた。



「千年前の敵って、何?」



 レイは何となく、ただひたすらに興味本位で尋ねた。

 そして次の瞬間それが間違いだと気がつく。


 ――――――千年前の記述は少ない。


 だがしかし、僅かでも皆無ではないのだ。

 千年前の魔物は、今より強い。


 今となっては一部魔物の特性である感情の読み取りなどを、全ての個体が備えていた。


 そしてその様々な特性には、動物の冬眠のような長期睡眠も存在する。


 アリスは敵から、千年もの修復期間を必要とする程の被害を受けている。


 この場合アリスに感情があると仮定して、トラウマなどから生じる感情は凄まじい。


 千年前の兵器が生き残っているのだ。

 もし千年前の魔物も残っていたとして、昔の敵の感情を見つけたとしたら――――――。



「――――――アリス!」



 レイは叫ぶと同時に走り出した。

 それに一拍遅れて嫌な地響きが鳴り出す。

 昔からレイの勘はよく当たるのだ。


 アリスの細い腰に手を回して抱え上げた瞬間―――地面を突き上げ、砕き、ソレは現れた。

 顕現と言うのが正しいだろうか。


 大きな羽に、鋭い爪。

 振るうだけで脅威となり得る尾と―――熱の籠った息は、世界を焼くとまで言われ恐れられている。



「ドラゴン…………!」



 金色の鱗を輝かせて、ドラゴンは二人へと視線を向ける。



「アリス、逃げて!」


「逃げる? それは命令ですか?」



 今度はアリスが、レイの言葉を理解出来ない様な反応を見せる。

 意味が分からないのではなく、必要性をまるで理解出来ないような。



「お願いだ―――逃げてくれ! 十分は稼いで見せるから、衛兵に連絡を!」


「その願いは、承諾しかねます」



 無情にもアリスは言った。



「負けてここまで逃げてきたんだろ!構わず逃げてくれ!」



 レイはドラゴンから少し離れた位置にアリスを降ろしてから、鬼気迫る様子で叫ぶ。

 そんなレイにアリスは、不思議なもの見るような視線を向けた。



「この個体ならば、私の相手にもならないでしょう」


「早く走――――――ん? なんだって?」


「この程度の相手ならば、今の修復状況で充分に事足りるでしょう」



 次の瞬間、何もない場所に拳程の物体が五つ現れる。



「――――――排除します」



 一言呟いた。

 すると物体から青い光線、レーザーが放たれた。

 それらの全てがドラゴンを貫き、空間が震えるような咆哮を上げさせる。


 この世の果てまで響く様な咆哮は二十秒程続き、ドラゴンの絶命共に終わりを迎えた。


 唖然――――――今の時代終わりの象徴の一つとして扱われ、世界終焉事典などという本にも名を載せられる程の存在であるドラゴンが、一分足らずの茶を淹れるにも足りない時間の間に、目の前で絶命してしまったのだ。



「改めまして―――リーン・アリスワールドです。これからどうかよろしくお願いします、マスター」

読んでくださりありがとうございます!

もし面白いと思った方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!

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