不審者三人組
良い歯磨き粉を買いました
「王よ、本当に良いのですか?」
「私は元々老い先短い身。潰すならば、もう先のない私の才能が最適だろう」
診療室で、アルスの問いに応える。
魔力回路の移植は、途中に人を経由して、パイプの様に行う
レイとアルブレヒトの腕に触れて、自分を繋ぎに使い、魔力回路を運ぶ。
「神…………いえ、レイ様よ。貴方は未だ若い。にも関わらず、私は貴方に重荷を背負わせすぎたやも知れませぬな。初日の失敬、お許し頂きたい」
「いえ―――確かに驚きましたけど、もう大丈夫です。貴方程の人に信頼してもらって、貴方の魔力回路を頂いて、魔物の襲撃程度防げなくてどうしましょう」
「それは…………心強いな」
レイの体に、魔術回路が増えてゆく。
注入され、編み込まれ、結合し―――やがて一帯の、レイの魔術回路となった。
「これは…………なんか、強くなった」
「そうでしょう! 数年ぶりに全盛期のなれば、強くなったとも感じるでしょう! さあ! アリス様に合わせて!」
「いや………なんか違くて、昔より強くなったんです」
自分の腕を摩りながら言う。
すると、当然だろうと言いた気にアルブレヒトが応えた。
「腐っても私の物だ。かつては天下一とまで謳われた我が魔法を支えた魔力回路、どうやら貴方の才能を上回れたようですな」
「そっか、そっか――――――」
納得して、反芻する。
自分は世界一の才能を、奪ったのだと。
その責務を、果たすのだと。
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マリッサムの街を囲む壁。
その上にレイとアリスは立っていた。
「何を見ているのですか? マスター」
「今平和なこの地も、明後日には戦場に変わってると思うと、嫌になる」
「今度は早く終わらせましょう。マスターの魔法を以て、いち早く。この地が、民が、戦火に溺れてしまう前に」
時代は違えど、両者戦争の経験者。
戦争によって出来る惨状、悲劇、地獄を、確かに記憶しているのだ。
「しばらくここで眺めていますか?」
「うん―――アリスは退屈でしょ、図書館でも行ってみたら? アルブレヒト王が、王室の本も見せてくれるって」
「本当ですか! 私、行ってきます!」
そう言うと、アリスは階段も使わずに壁から飛び降りて行った。
「すっご」
思わず呟いた。
それから数秒後―――アリスはあっという間に走って行き、あっという間に姿が見えなくなった。
方向を向き直して、壁の外、街の外へと視線を向け直す。
ここ最近、またアリスは少し変わったなと思いながら、レイは今日、この後何をするか考える。
明後日の戦いまでに激しい戦闘も軽い戦闘も禁止だと言われたので、今は使えて転移の魔法程度。
それも日に十回程度だ。
今日は一度も使っていないので、無駄遣いしてみようかと考えていると、街の外の草原に、不審な人の集まりを見つけた。
位置は、森寄りの草原―――壁の上からでも、木の影と重なり見えにくい様になっている。
少し離れた位置なので、下の門を守っている兵にも見えてはいないだろう。
「――――――行くか」
装備品は剣だけ。
いざとなったら逃げようと思いながら、近くの森へと転移した。
距離は五百メートル程、視野を遮る物がないので、容易だ。
未だ魔力回路が定着していないのか、転移後の着地に少しふらついたが、問題は無い。
「なら……ああ……客人……」
「明後日の……ドラゴン……幸運……」
草や葉が風で揺れて擦れる音、鳥のうるさい鳴き声、更には乱雑に並ぶ木々によって声が散乱して、所々声が聞こえない。
もう少し寄ってみるかと思い、落ちている木の枝や枯れ葉を避けながら木々の隙間を進む。
息を止めて、心臓の音すら消したいと思いながら、進んで行く。
「そうだな……始末……あの二人が邪魔になるのなら、我々は消すまで………………誰だ!」
「――――――ッ!」
気づかれた―――欲をかきすぎたのだ。
何故気づかれたのかはレイには分からないが、ひとまず転移で逃走を――――――。
「生かしては帰さぬ」
「ッ! お前ら、何者だ!」
透き通る、硝子の様な素材で出来たナイフがレイの眼前を通過する。
一点に集中すれば捉えられるが、気を散らせば刃は見えず、間合いも分かりにくい。
レイの剣だと森の中では間合いが長過ぎるのでいち早く逃走したいが、会話していた三人の猛攻が絶え間なく、距離の計算をする暇が無い。
「五回分……いけるか」
レイは呟いた―――それを聞いた三人は、更に攻撃の手数を増やす。
「空想絶後―――天の岩戸を捨て置きたもうて、空の戦線切り捨てたもうて。超越魔法―――軍離改走!」
レイは攻撃を避けることと詠唱のみに気を向けて、反撃の事は一時的に頭から消した。
結果レイにナイフが当たる事はなく、止まる事無く詠唱を終えた。
瞬間―――半径五十メートル以内の生物が、上空六百メートルに放り出された。
軍離改走、一定範囲内の生物を、事前に決めた位置に転移させる魔法だ。
今回は転移先を計算する時間が無いので、計算の必要が無い、真上へと転移した。
「上空六百メートル、自由落下の旅だ。お前らには広すぎるやも知らないが、楽しんでくれよ」
落下しながらも、体の角度を調整して移動して、不審な者達へと反撃に出る。
この手は昔良く使ったので、空中での移動へ慣れたもの。
不審な三人は地上では強かったが、流石に空中で落下しながらの戦闘経験はなかった様で。
体のバランスを取ろうと四苦八苦している隙に、三人の首を掻っ切った。
地上に激突する寸前で、三人の遺体を蹴り上げて、着地時の破損を減らす。
自分はその直後に先程まで居た壁の側面へと転移して、刃を突き立て減速。
無事無傷での着地に成功した。
「さて、兵の人呼ばなきゃ」
ちゃんと強いぞ主人公




