旅立ち
帰宅して夕飯を終えて、それでもアリスは悲壮感漂う顔をしていた。
「ねえアリスちゃん、やっぱりまだ、昔の事を調べたいのよね?」
「はい………しかし、ここに無いとなると…………」
それを聞いて、ヴァイオレットは言葉を詰まらせた。
世界の物事の半分を知ると言われたヴァイオレットも、千年前の兵器の慰め方は知らないかとレイが思っていると、ヴァイオレットはそんなレイに向かい、申し訳なさそうな顔をして、今から何かをやらかすとでも言いたげな様子で、手を合わせた。
「アリスちゃんさ、世界中旅してみたらいいんじゃない? 愛弟子でも連れてさ」
「――――――!?」
レイは目を見開いた。
暫くはこの街で休む予定だったのだが、そんな予定が叶わなくなるであろう提案がされたのだ。
「世界を、旅するのですか?」
「そう。この国より歴史が古い国もあるし、新しい国にでもどこからか文献が流れてるかも。この国で悲しみ続けるよりは、動いてみた方がいいんじゃない?」
アリスの目が、輝き始めた。
転機を得た目だ。
「この国は、残念な事に人間ばっかりだけど、世の中にはそれ以外の種族も沢山居る。その中には五百年以上生きる種族もね。そんな世界なら、千年前の事ぐらい見つかると思わない?」
アリスの目の輝きが、最高潮に達した。
そのまま事前をレイへと向けて、未来を確定させにかかった。
「…………分かった。千年前の世界も気になるし、とりあえず世界でも巡ろうか…………」
「はいっ!」
この瞬間人類は、初めてアリスの満面の笑みを目の当たりにしたという。
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「なに! 今日出て行ってしまうというのか!」
ヘルメイス公爵から金の用意が出来たと言われて、屋敷へと行った。
客間へと通されて、金を受け取ってから旅に出る事を話すと、大袈裟だと思う程の反応が飛び出る。
「はい、今日この後に馬を買って、昼前には出ようかと」
「そうか…………少し悲しくはあるが、花向けだ! おい誰か! 昨日出来た物を持ってこい!」
ヘルメイス公爵が叫ぶと、僅かな間を開けて、使用人の男が箱を持って入室してきた。
箱をレイの目の前に置いて、開けるように言う。
「――――――これって、まさか」
「ああ、昨晩出来た物でな、あのドラゴンの骨から作った剣だ! 強い魔力が篭っているので作ってみたが、その魔力に気圧されて誰一人握ろうとしない!」
「確かに、これは…………」
剣は、生前のドラゴンを目の前にした際と同じような迫力があり、気が弱いものであれば直視しただけで悶絶ものだろう。
「この屋敷でまともに握れたのは、鍛冶師と儂のみ。しかし鍛冶師に剣の腕は無いし儂の体は贅沢を知ってからというものこの様になった。それなら、貴殿が握るべきだろう」
大金を受け取った後に、ドラゴンの骨から出来た剣まで。
鍔を見ると、ローグマン家の家紋入りときた。
どうすれば良いか困って、ドラゴン狩った当人であるアリスへと視線を向けると、今日旅に出れるのだと今朝から上機嫌なアリスは静かに微笑んだ。
「折角です―――握ってみてはどうでしょうか、マスター」
「おおアリス殿、それは良い提案だ! ささ、どうぞ持って、なんなら振っても構わない!」
「いや、降りませんが…………」
二人に促されて、剣を手に取る。
すると―――不思議と手に馴染み、内包する魔力の影響か軽く感じる。
「これ、凄いですね…………!」
「貴殿の物だ」
「ありがとうございます!」
レイは喜んで言い、ヘルメイス公爵はそれを息子を見るように眺めていた。
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「忘れ物はないかい? 馬車の故障がないか確認したかい?」
「大丈夫ですよ、師匠―――荷物も馬車も、師匠が全部見直して、馬車に関しては防護の魔法まで使ってくれたじゃないですか」
「そうだけど、そうだけど!」
過保護な親の様な反応をするヴァイオレットに溜息を溢しながらも、仕方なく再度馬車の点検を行う。
当然どこにも異常は無く、直ぐにでも走り出せそうだ。
買ったばかりの馬の調子も絶好調。
ヴァイオレットの魔法による目利きなので、買った馬のチョイスに間違いは無いだろう。
「それじゃあ師匠、行ってきます」
「絶対に帰ってくるんだよ! 手紙を書くんだよ!」
街を出る手続きはもう終えており、門の外の脇道に馬車を寄せた状態。
自分達よりも後に手続きをして、先に道を進んで行く者たちの視線に耐えながらも、この会話の流れを四度繰り返した。
「それじゃあ師匠、そろそろ行きます! ありがとうございました!」
「絶対手紙を書くんだよ〜!」
半場無理矢理走り出して、ヴァイオレットの声が響く中旅を再開した。
馬を操るのは交代交代で、最初はレイ。
馬車の荷台ではアリスがヴァイオレットに手を振っている。
少し笑いを漏らして、道の先を見据えた。
天気は良く、絶世の旅立ち日和だ。
これにて一章は終わりです。
時間からは第二章、よろしくお願いします!




