旅は始まる
戦いの後処理は、思いの外早かった。
レイの作った孔を除けば、魔物の死骸などはアリスが全て仕舞って運んでしまい、手間はかからない。
街には被害がなく、寧ろ二度も魔物の強襲を退けたと前以上に賑わう事となったのだ。
ロッソ曰く、孔は観光名所とするらしい。
それを聞いたレイ達は安心して、街から姿を消した。
それから旅は、暫くなかった。
ここ数年忙しすぎたので、休もうという事になったのだ。
その期間、皆はそれぞれ別の道を歩むこととなった。
まず、アリスとアルスはメルヘイルのアルスの家に行った。
戦いの後にアリスがアルスへと約束をと話をかけており、それを聞いたアルスが顔を赤くしていたのを数人が見ていた。
レイはそれが二人が共に住むこととなった理由では無いかと、一人考えていた。
次に山野だが、彼はレイングの王都ガルレナに店を建てた。
その店は最初は小さなものだったが、別世界の家電などを魔道具で作り出したものが売れ、次第に店は大きく。
やがて、何代にも渡り受け継がれる大商会へと。
初代会長である山野は国中、世界中に名が広まり、九十七歳で老衰するまで現役で働き続けた。
次に、ヴァイオレット。
彼女は一つ、失敗を犯した。
ある晩酒に酔い、家で共に飲んでいたレイを襲ったのだ。
その頃には残された魔法を使い慣れ、街中では神力を使えないレイでは抵抗できない程の実力を泥酔状態で保持していた。
もうお嫁に行けないと嘆くレイを、慰めながらも、責任を取るとヴァイオレットは宣言。
一悶着はあったが、ヴァイオレットは久々に家族というものが出来た。
後に人からレイとの関係を聞かれたヴァイオレットは、珍しく恥じらいながらも、夫婦兼師弟だと応えた。
その襲われたレイはというと、その状況を受け入れるのに時間は掛からなかった。
昔からヴァイオレットの世話をしていて、いつかはこうなるのでは無いかと頭のどこかで考えていたのだ。
また、レイは人の体を捨ててから、老けることがなくなった。
ヴァイオレットが魔力で永久的に生きる様に、レイも神として世界の魔力や神力を使い永久的に生き続け、その暫くをヴァイオレットの家で過ごす。
二人の住む街の路地裏に出来た家には、時々来客があった。
ヴァイオレットは最初こそあまり良い顔をしなかったが、暫くすれば慣れてしまった。
その客ロムニスは、最初百年を超えると顔を隠すのをやめた。
堂々と街を歩き、レイと酒を飲み、屋台で焼き串を買って食い、遊びまわって、時折レイと殺し合う。
そんな日々を送っていた。
そしてそんな日々もある日、終わりを迎えた。
●●●●●●
「本当に行くのかい? レイ」
「ああ、半年ぐらいで戻るよ、師匠」
「全く、いつまで経っても名前では呼ばないね、夫婦だというのに」
「いや……こっちが完全に馴染んじゃって…………」
街の外で、ヴァイオレットはレイ達を見送る。
レイはアルスと死別してからメルヘイルにて一人暮らしするアリスより、厄介な魔物が現れたと手紙を受けた。
だから、久々に旅をする事にした。
神となってから、不老不死となってから初めての旅だ。
レイは単独では不安だからと、仲間を連れて行く事に事にした。
ヴァイオレットは家の護りに残ると言うので、昔からの、百年来の親友を一人だけ。
「行くぞ、レイ」
「ああ、今行く!」
既に馬車に乗ったロムニスへと言葉を返す。
「レイ、帰ってきたら何年か、旅行しようか」
「いいね師匠。どこ行きたい?」
「そうだな…………時間もお金もある、とりあえず世界でも回ろうか」
「賛成!」
言って、レイはロムニスの待つ馬車へと乗った。
「それじゃあ師匠、行ってきます!」
「いってらっしゃ〜い!」
見送るヴァイオレットが離れて小さくなっていく。
前にもヴァイオレットに、こうして見送られた事があった。
あれはアリスと出会ったばかりの頃、今から百年以上前の話だ。
色々と、前の旅を思い返す。
あの純白の花畑より始まった、あの旅を。
あの真っ白な花は、最近誰かが突然百合と名付けた。
名付けたものは山野やアステラの様に、別の世界からやって来たと主張する。
その物が曰く、百合の花言葉は純粋、無垢、威厳だそうだ。
レイは一人、そんな女性を知っている。
街を見下ろして、笑う人々を見るだけで幸せを感じるほど純粋無垢であり、戦う時には巨大な敵すら薙ぎ倒し、辺りを戦慄させる様な威厳を見せる。
いま会いに行く、戦争以来止まっていたレイの時間を動かした、一人の感情ある人間に。
空は快晴―――絶好の旅日和であった。
これにて完結です。
明日からはまた新たな話を始めるつもりですが、一つの区切りとして、終わりとして、皆さまにはお礼を伝えたく思っています。
いままでこの話を作れて、読んでいただけて凄く楽しかったです。
私の大好きな世界を見ていただき、ありがとうございました。
私はまた新しい物語を作るので、その世界でまた皆様に会える事を願っています。
ここまで読んで頂き本当に、ありがとうございました。
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