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敵とは

 炎は見える限りを焼いて行った。

 目の前に広がるのは、地面が焼け消えて出来た大穴。


 底は深く、視認は不可。

 正に深淵だ。


 光も飲み込む闇の深さに自分でも放った技に若干の恐れを抱き、軽い気持ちで使わないことを決意。


 炎が溢れ出した孔は既に天から消えている。

 何一つ曇りのない、青空だ。



「ッ…………ただ、ただ一歩でこんなに違うかい…………!」


「まだ、生きてるか」



 再生の魔法など燃え尽きて尚、両足が焼ける中で持てる魔法を全て駆使して炎から抜け出したアステラ。


 地面を這う、先程までとは打って変わる姿だ。



「覚悟が、覚悟が足りなかったんだ…………ッ! これじゃ終われない、納得出来ない…………僕も、死ぬなら満足してやる…………人の身など、捨ててやる…………!」



 アステラは叫んだ。

 今の状態で半人半神から完全な神へと、体を作り替えるつもりなのだ。


 そんな事をすれば、体には異常な負荷がかかり、一分も持たずにアステラは死に至るだろう。


 しかし―――その一分とて、世界に及ぼす脅威は推定不可なレベル。

 とても、許容出来る事ではない。


 レイは掌に炎を集める。


 だが上手くいかない。

 やはり未だ、神力の扱いは不慣れであり、今の一撃でガス欠だ。


 足が思い通りに動かない、魔力切れと同様、意識がはっきりしない。


 そんなとき、足音が聞こえた。


 四足歩行の獣の足音と、それを追う数人の足音。

 この戦場でその足音といえば、レイは一つしか思い浮かばない。


 地上の王―――フェンリルだ。



「…………流石に今は………………なっ?!」



 今相手するとは無理だと、そう思った。

 しかしそれは、杞憂に終わる。


 フェンリルはレイを飛び越え、一撃。

 アステラの首を、喰い千切ってしまったのだ。


 フェンリルの口元には、真っ白な毛に赤黒い血がこびり付いている。


 それに驚いていると、後からフェンリルを追いかけて来たヴァイオレット達が追いつく。

 息を切らしている、運動不足だ。



「愛弟子、私達はすっかり忘れていたよ。あの獣の戦力に、囚われすぎて」



 ヴァイオレットが言った。

 その目には既に、フェンリルに対する警戒は残っていない。



「かつて汚職に塗れたこの国で、王を殺して民を救い、新たな王を示した一頭の獣が居た―――それは地上の王であり、選定の獣。フェンリルだ」



 フェンリルは気高く、口の血が気にならない程美しく、一匹孤高に空へと吠えた。


 笑いが込み上げる、敵だと思って警戒してれば、見に来て選びに来ただけだったとは。


 笑って笑って、静かに止める。


 意識を切り替えた。

 アステラは倒したが、敵は倒していない。

 今回レイは、敵を倒しに来たのだ。


 ずっと昔―――どこからともなく現れた賢者が言った。

 軽蔑すべき者を敵として選ぶな。

 汝の敵について誇りを感じなければならない。


 レイは一人、そんな相手を知っている。

 最大の敵であり、最大の理解者であり、最高の友である男が、この戦場には立っているのだ。



「師匠…………もう一度だけ、戦って来ます」


「無茶はしない方が良い。一度身を隠すんだ」


「だめなんです。ロムニスだけは、今やりたい」



 レイは立ち上がった。

 するとすぐ視線の先には、一人の男が立っていた。


 それは敵であり、理解者であり、友である、ロムニスその男であった。



「よお、ロムニス。待たせたな」


「ああ、随分と待たされたな」



 ロムニスはレイに近寄る。

 慌ててヴァイオレットが魔法を放ってロムニスを離そうとしたが、そこに一人妨害が。

 ロムニスでもレイでもない、アリスだ。



「何をするんだい、アリスちゃん…………」


「今は、見ていましょう」


「呑気な事を…………このままでは愛弟子は死ぬよ」


「かも知れません…………しかし、今手を出してはマスターは、今後変わってしまう気がしまうのです」



 アリスは古代兵器として、人形として生を受け、人としての感情を身につけた。

 そしてその全員となった者は、全く同じような条件の相手に、既に一度感情を与えていた。


 自分ともう一人、似た者が居る。

 その似た者の心が、アリスは少し理解できた気がした。



「疲弊しているな」



 言って、ロムニスは一撃の雷撃を放った。

 それは威力も速度も低く、普段のレイならば簡単に対処出来る。


 しかし、今は肩へと命中し、貫通こそしないものの、大きくよろめき片膝をついてしまう。



「待たされた、散々。ならばあと少し、待つ時間が増えようと変わり無かろう」


「ッ………お前、何を………………」


「今は、戦わぬ。己とお前、これが丁度良いのではないか?」



 急がなくても良いと、ロムニスは提示した。

 どうせまた機会はあると、悠長に。



「神と人形だ、寿命など有って無いような物であろう。時間など、無限にあろう」


「ああ…………確かにな」



 ロムニスは満足した様に笑う。

 それは既に、戦いが終了した事を意味していた。



「ロムニス、今度また飯でも行こう!」


「ああ、今度は己から、誘いに行こう」



 それだけ言って、ロムニスは去った。

 戦いは、終わったのだ。

次回、最終回です。

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