孔
炎が消えた―――いつかはこうなると予感していた。
確かにレイは、魔力も神力も持つ、半神半人となった。
しかし、なりたての自分が百年単位の経験を持つアステラに勝てるのかは、疑問であった。
その疑問を抱え始めた頃から、一つ心に決めていたことがある。
もしかしたら英雄ルークはこれが嫌だから神力を使わなかったのではないかと思いながら、決めていた。
もし、もしも神力を使わなければいけない事態になったら、中途半端は終わりだと。
人の体にしがみ付くのは終わり―――魔力も存在も焼き捨てて、自分は、半分の人を捨てるのだと。
この世界には、この世界にやって来ても偉業を成さず散って行った異世界人は少なくない。
名が広まっておらず、誰にも知られないだけなのだ。
彼ら彼女らはら道の事態に思わず祈った―――己らの馴染み深き、神へと。
そんな話だけが都市伝説の様に、人々の記憶には残っている。
その話の中から、異世界人らが上げた神の名は一種の異名として、この世界に広まっていた。
その内の一柱―――天を照らす神の名を、今誰が背負おうか。
レイは自身の魔力へと別れを告げる。
そして、新たな聖火を継承する。
その聖火の、一つの形。
名前はまるで同じだが、似て非なる技を、今レイは世に披露する。
「天譴―――天照大神 」
瞬間、確かに体から、僅かな炎が滲み出た。
しかしそれは、天天羅蘇の様な溢れ出る炎でも、固められた物でもなかった。
「今君は、天譴と言ったかい? 一瞬焦ったけど、ハッタリかい?」
レイの言葉を捉えたアステラは言う。
だがその言葉は何の意味も持たず、レイに響く事はなかった。
「あんま喋ってると、口に入るぞ」
「ん? 一体何が入るって…………」
アステラが気がつく頃には、もう遅かった。
通常魔法は一人で使うが、例外も存在する。
例えば数百人もの魔力を集めて、一つの魔法を発動させる儀式的な物。
それに必要とされるのが、魔法陣という物だ。
それをレイは、世界に今存在する炎の一部を選び出し、即座に作り出した。
「創世は巡る、汝は堕ちる―――五つ指を束ねては、万の事に使いけり。焔の歓迎受けるが良い!」
かの魔導王は、天体を利用して魔法陣を作り出した。
それが今、神力によって、炎によって再現されんとしている。
それを察知し、アステラも阻止に動く。
彼は魔力こそヴァイオレットや山野を凌ぐレベルだが、神力に限ってはレイを遥かに下回る。
それは神となり二百年の月日が経ち、回復しては使用してを繰り返しても、新たな技を三つしか作り出せない程。
魔力は所詮、ただ世界の隙間から持ってきた物―――元々のアステラのポテンシャルには見合わない量なのだ。
そんな彼が、貴重な神力を使い作り出した天譴―――それは、彼が神竜を倒すのにも使った、最も使い慣れた魔法の上位互換である。
「天譴、大断絶永」
突如現れ放たれた、一本の大剣。
それは究極の一であり、人類の持つ最高の矛。
魔法が仕掛けてあるわけでもなんでもない、ただ硬く、鋭く、力強く、どの武器よりも敵を退けてきた武器である。
その矛先には今、レイがいた。
「天譴―――聖焼火」
レイが言った。
すると、天には一つの孔が。
そこからただ、炎が溢れ出した。
レイに刃が届く直前、大剣は炎に飲み込まれた。
その炎は全てを焼く。
大剣も、大地も、アステラも。
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