巡る灯し
「ん? 何か言ったかい?」
「気にすんな。ちょっと次の相手が待ってるみたいなんでな、早めに終わらせなきゃと思っただけだよ」
「へえ…………それって、ロムニス?」
レイの言葉を聞いて、アステラは不機嫌そうな顔に。
そしてそれは次第に怒りの表情へと変わり、足で貧乏ゆすりを始めた。
「君は僕よりも、彼を優先したいわけだ、成る程、虫唾が走る」
「あんまイライラすんなよ、老人」
冷静さを失わせようと、レイは煽る。
「こんな糞人形と僕を比べるだと…………? 僕は、神だというのにっ?!」
「んたこったろうと思ったよ」
勢い余ってか、隠す程でも無いと思ってか、アステラは叫んだ。
レイはそれを、何となく予想していた。
その予想の根拠は、一つ一つは薄いが数はあった。
まず世界樹の守護神を従えていたこと―――守護を生業とする神であり、攻撃が得意な者ではなかったが、それでもただの人ならば手も足も出ない実力。
それを従えているのは、人では考えにくい。
千年の寿命は長寿種族でも少なく、世界高齢と言われるエルフの長老が千二歳だ。
そして、先程聞いたアステラの過去―――新竜、つまりドラゴンとはいえ神の骨を八百年もの間体内に入れていた。
人から魔法を奪えるアステラならば、骨から神力を抜き取り、自身に移植する事も可能なのではないかと思ったのだ。
「たく、ちょっと力をつけたからって、不敬だ。君も現在半神になったなら分かるだろう? 僕は二百年もの先輩、敬わなきゃ損だよ」
「生憎、先輩敬って得したことはなくてな」
「この…………減らず口が!」
突如、放たれた氷塊。
アステラは感情の浮き沈みが激しく、怒り、落ち着きを繰り返す。
八百年もの間死んでは復活を繰り返していた影響で、精神が不安定なのだ。
レイは氷塊を切断すると、二つに分かれたソレをアステラへと蹴り飛ばす。
アステラはそれを衝撃で破壊すると、黄金の槍を一つ作り出して、力強く放った。
しかし、速度は普段レイが見ているアリスの蹴り以下。
余裕を持って回避できると、思われていた。
「何…………!?」
「抜かったね、アホが」
槍は飛来、分裂―――レイは何度も回避しようと力を込めるが、体が痺れて動かないのだ。
しかし槍以外に魔力の起こりは無かったし、何か仕込まれた気配もなかった。
槍は直撃―――黄金の爆発を引き起こした。
それによってレイは吹き飛び、一気に全身は傷にまみれる。
「へえ、そのマントの耐久性は中々の」
「ッ…………天譴か」
天譴による、毒の発生。
それならば未だ神力の扱いに不慣れたレイに悟られることもなく、罠を仕掛ける事も容易だろう。
次の手を打たねばアステラの連撃が始まり、レイは手も足も出なくなるだろう。
毒を更に吸えば、その先に待つのは確実な死のみだ。
体の動きはまだ鈍い―――視界も霞む。
絶体絶命だとか、瀬戸際だとか、ピンチだとか、自分の状況を示す言葉がいくらでも頭に浮かぶ。
つまり、ここが正念場だ。
「炎よ―――巡れ」
言う、それだけでレイの体内を熱が駆け巡る。
体外へと放出されようとする熱を体内に抑え込む、操る、支配する。
全ての熱源を、手中に収める。
すると、体は痺れより解放された。
それは炎による毒の焼却を示しており、一つの別れを暗示していた。
魔力に余裕はあるにも関わらず、レイの身につける炎の装備が消えたのだ。
跡形もなく、忽然と。
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