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影の王

 亜人、大量の魔物、そして突如として現れた陸の王者、フェンリル。


 この時点で、皆は忘れていた。

 これらを統べる、アステラとロムニスとの他に、もう一人敵がいた事を。


  リーン・エルメアース、アリスやロムニスの創造主―――それが今、静かに戦場を見渡していた。


 場所は戦場の遥か影―――五十年前よりこの攻撃の日のために用意された舞台。


 天体透過式空中要塞、クリア・オブ・ガーデン。


 そこには地上を焼き尽くす兵器から、リーンの実験に使われる薬物の元となる植物まで、様々な物が揃っていた。


 そこに搭載された機械の一つである監視の目で、リーンは地上を見下ろす。


 目と接続された監視室には、広い空間にリーンが一人。

 長く長く、影が伸びている。


 それ即ちただ一人、この場には一人の彼を断罪する、一人の死神が常に座しているのだ。



「そろそろ、来る頃かと思っていたぞ」


「ならば、潔く死を認めるか。それとも醜く足掻いて死に至るか、選択は出来ているな?」



 魔物の世界に王が存在する様に、人の世にも頂点はある。

 例えば―――神とまで至った炎の使い手、或いは魔導王と呼ばれた最強の魔術師、或いは百を超える魔法を操る女、或いは首を刎ねようと即座に治癒する街娘。


 或いは―――世の闇を統べる影の王。


 その名乗り名、真名、共に一つの孤高の王。

 それ即ち、影法師。



「久しいのう、流石に小僧と呼ぶには、少々老いたか」


「あの頃の影法師は既に(あら)ず。貴様が小僧と呼んだ我は、既に灰となりた」


「ならばお前は、あの小僧が残した影法師の名か。名が概念として、事象(じしょう)として世に影響を(もたら)すとは…………お前、やはり面白い」



 ようやく、リーンは椅子より立ち上がった。


 影のベールによって顔は隠され、輪郭すら見えない影法師の姿を見る。


 それはまるで、光の全てを吸収する様で、そこにあるのに無い様で、その空間の静寂は、無言の絶叫に見えた。


 その絶叫はリーンの企みに対してか、かつて姉のように慕っていたアリスに対する敵対の怒りか。



「どうした、欲情しておるか?」


「いや、憤慨している」



 瞬間―――部屋の全てが影に包まれた。

 灰色の壁も床も天井も、地上を映し出すモニターも、全てが黒に染め上げられた。



「貴様を生かした千年の不始末、今ここで精算するとしよう」


「粋がるな、小僧が」



 この一言が、戦いの幕開けを全影に知らしめた。


 影の本体、司令塔である影法師が前方へと手を伸ばす。

 すると、影は波のように立ち上がり、たちまちリーンを飲み込んだ。


 内側から影を切り裂く光が―――リーンが影法師対策として用意していた超光度の光を放つ手袋である。


 放たれる光を直視すれば、常人ならば即座に目を焼き失明。

 影法師の作り出す影だろうと、半端な物ならば掻き消してしまう程だ。



淵響(えんきょう )―――」



 影法師が言う。

 すると、地面から影の針が五つ現れ、こだまする様に部屋中を飛び回る。



「連―――影縫い」



 針の尾から、影の糸が。

 リーンを中心として、糸は球体の形を作り出した。



「二度も同じ手を…………学ばぬか」



 再び影は手袋にて切断。

 切断した箇所から、小さな光の粒子が漏れ出す。



「これは北東の山脈にのみ生える花の鱗粉―――これが部屋を満たす時、お前の影は潰えよう」



 粒子はリーンの体から放たれている。

 これはリーンの魔法であり、一度口に含んだ植物の特性を吸収して、いつでも使用可能になる。



「小細工…………我の前には何の意味も持たぬ」


「ほざいていろ!」



 光の粒子が部屋全体に―――ほんの僅かだが、分厚い影法師の影が視認出来ない程度に薄くなる。


 このまま粒子が増え続ければ、いずれは影法師の力の根源となっている部屋の影は消え失せるだろう。



(いで)よ、タロス!」



 リーンの持っているポーチから、青い粒子が。

 それは際限なく溢れ出し、三メートル程の鉄の巨人を作り出した。


 青い粒子は、アリスの荷物の収納と同じ仕組みである。



「タロス―――奴を影の如く、床に(はりつけ)にしてやるのだ!」



 振るわれるタロスの巨大な手。

 影法師より一メートル大きな巨大から放たれるその一撃は、命中寸前で動きを止めた。



「機械仕掛けの人形など、中に影が詰まっているも同然よ。つまり、我が支配下である」



 関節という関節から影が噴き出す。

 それは歯車の隙間のものであり、本体の繋ぎを果たす関節のものであり、それらが詰まって、タロスの動きを停止させたのだ。



「タロス、解体ッ!」



 リーンが叫ぶと、影が吹き出した関節部分から微かな光と熱が。

 そして次の瞬間、爆散した。


 タロスの体内に充満した影法師の影によって威力は想定より低いものの、放たれた光は部屋中の影を更に薄く。


 不敵な笑みを浮かべるリーンだが、影法師とてこの事態を予測していなかったわけでは無い。


 自身は分厚い影にて身を守り、影の壁によって守られた暗いルートに、攻撃用の影を通す。


 爆発の光からなるべく遠く、影の消耗が最小限の道を突き進むと、飛び出た先は色濃くなったリーンの影。


 タロスの爆発は影法師の作り出した影を薄くするのと同時に、リーンの影を色濃く映し出していたのだ。


 完全なる死角から飛び出した、影の刃。

 急遽それに気付いてリーンは手袋にて防ぐも、影は分裂して手を避け、リーンの手の届かない位置まで回り込む。



「さらばだリーン。千年来の、知人よ」



 無数の影が、背中から突き刺さる。

 胸を貫いた影は、リーンの絶命と共に影法師諸共姿を消した。


100話でお前かよ!

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