街娘
フェンリル―――神に届く獣。
それが今、現れた。
辺り一面―――レイ達も、魔物も、全てが静かに息を呑んだ。
地上の王の気を害してはならないと思ったのだ。
そんな中、フェンリルがゆっくりと歩き出す。
我が物顔で、この戦場は自分の物だと言わんばかりに傲慢に。
「マスター…………あの魔物は、一体…………」
「フェンリル、ドラゴンやリヴァイアサンと同レベルとして扱われる魔物だよ。下手すれば、アステラに届く前に、死ぬ」
そう言うと、レイは覚悟を決めた。
一度深呼吸したら歩き出す。
変に緊張せず、軽い足取りでフェンリルへと向かう。
フェンリルはレイを未だ敵とすら見做していないのか、剣の間合いに入ろうと、警戒する様子もない。
きっと、魔法を発動しようとフェンリルは気にも留めない。
「炎とは再生の兆し――――――」
瞬間―――開始された詠唱は即座に断たれた。
フェンリルに向かい放たれた巨大なハンマーと、黒鍵からの一撃によって。
「アリスに、ヤマ君?!」
「砲に魔力は入れるだけ入れて、来ちゃいました!」
山野の振るうハンマーは、紛れもなくニーライナの持っていた物と同じ。
一部を銃化する事によって、自身での作成を可能としたのだ。
「マスター、この魔物は私達が。先にお行きください!」
「フェンリルに二人だけじゃ…………!」
躊躇っていると、二人の攻撃を回避したフェンリルの足元に茂る草が突然枯れる。
まるで、生命力を吸われたように。
「愛弟子、私も居るから、先に行きなよ」
「師匠! それなら…………ここは、任せます!」
言うと、レイは駆け出した。
それを追うように狙いを定め、地を蹴り駆けるフェンリルを、アルスが止めた。
「梅雨払いはお任せください!」
「アルス、任せた!」
アルスはレイの道を遮る敵を次々と切り捨てる。
斬術ならば、既に冒険者の中でも上位のレベルだ。
軽い身のこなしで魔物を斬るアルスを見て、レイはつくづく才能というものを思い知る。
レイは魔法面では、ヴァイオレットに百年に一人の才能だと褒められたが、アルスの戦闘、治療などの才能と比べれば非凡も非凡。
まさに、怪物だ。
軽く才能に嫉妬しつつも、今はそれを心強く感じる。
「ッ―――集まってきました。私は暫君ここで足止めを」
アルスの言葉に振り返ると、背後から波のような量の魔物が。
アイコンタクトでここでの別れを告げて、レイは速度を落とす事なく走り出した。
「さて、少し骨が折れそうですね」
アルスは背筋を伸ばして、気合いを入れ直す。
魔物の数は、軽く三桁を超えるだろう。
「信じられますか? 私数年前まで、ただ人の怪我を治すのが得意な、女の子のだったんです」
宝剣と魔道具を片手ごとに握りしめて、覚悟を決める。
死ぬ覚悟ではない―――広範囲にダメージを一斉に与えられる魔法など持たない自分が、この大量の敵を倒し切る覚悟だ。
「さて、頑張りましょうか」
二桁最後の回、次回100話です!
閑話は、話数にカウントしておりません。
含めれば今回も100話なので、今日も一応祝ってください。




