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悪女は夏休みをむかえる

 入学してから三ヶ月が経過する中で特権階級の陰一族の守だけは毎週帰る事を許可されていたが他は王侯貴族でさえ帰宅は許されない完全寮制の学園は、夏休みを迎えた。やっと家に帰れる生徒たちは嬉しそうに準備をして終業式の日にほとんど帰っていった。

 学園に残っているのは孤児の生徒と家に帰りたくない生徒、そして半鬼(ハーフ)たちだけだ。半鬼とは、鬼と人間・鬼と妖怪のことを指している。


「守、ほんとに帰らなくていいのか?」


 ナイルはミルエラの眠っているベッドの横に腰掛けている守に問い掛ける。

 夏休みに入って二日が経過したが守は実家に帰らなかった、普段から週末は絶対帰ってリュウに会いに行って居たのに長期連休に帰らないのはナイルも驚いているのだ。


「マチルダも早く帰ってこないかなぁ~」


 ナイルも直ぐに帰る予定だったが、傷は塞がっても身体的負担は残っている事をランフォード公爵家が危惧して学園療養という事とになった。マチルダは一旦実家へと帰宅したが、ナイルの為にすぐに戻ってくると宣言して行った。


「父上は、彼女の目が覚める前に帰ってくるなというはずだ」

「じゃあ今回は・・・自分の意思で残ったのか!?」

「いいや、父上に ”陰一族の顔に泥を塗る貴様の顔を見たら殺したくなる”と言われた。家に戻るなと言うことだろう」

「・・・言われてなかったら実家に帰ってたか?」


 守はナイルからの言葉を聞いてから目を覚まさないミルエラを見詰めた、返事を迷っているのか少し沈黙が続いたあと小さく頷いた。


「リュウ様を愛しているのは俺だけなんだ」


 守の言葉にナイルは何も言えなくなってしまった。


「どうしてミルエラちゃんは目を覚まさないんだろうね」


 学園の治癒師たちは最高峰のエキスパートたち揃いなのに腹に傷を負っただけのミルエラが目を覚まさないのは不自然だった。生死をさ迷ったのはナイルなのに彼はもうピンピンしている、何かがおかしいのは守も分かっていたが何がおかしいのか分からなかった。


「ナイル、陰一族に恩を売りたいならミルエラを守れよ」

「俺の家が権力に屈しない家系なの分かってる?」

「彼女の目を覚まさせることが、陰一族の紋華をやろう」

「・・・まじ!?」


 紋華、それは各家門を代表する華。紋華は各家門が治める土地にしか咲いておらず、勝手に持ち出すことはその家門に戦争を吹っ掛けている事と同じなのだ。御三家の紋華と陰一族の紋華は宝石よりも価値がある高貴な物だ。だから、例え公爵家であろうとは手に入れることは不可能なのだ。


「マチルダが欲しがってたんだよ! 任せて、絶対に良い治癒師を用意するから!!」


 守はナイルの言葉を聞くとお礼を口にしてから、ミルエラが死んでいないか確認するために白い手を優しく握った。ミルエラの事をずっと看病してきた守はミルエラの手を良く握って、安心させるように手の甲を親指で優しく撫でる。

 すると、陰一族からの使者がやってきたため守は医務室を出て行き、ナイルはリハビリのために散歩へ向かった。


「失礼します」


 そこへやって来たのはグラシアンだった。

 夏休みに入り王宮へ帰ったがミルエラを心配して戻ってきたのだ、誰も居ないのを見たグラシアンはベッドの脇にある椅子に座りミルエラの手を握った。


「ミルエラ、早く目を覚まして・・・私は君が居ないと寂しいよ」


 祈るように声を掛けるとミルエラの手が少し動いて反応を見せた、グラシアンは驚いて椅子から立ち上がるとミルエラの名前を呼んだ。


「・・・ グ・・・ラシアン殿下・・・」

「良かった! ・・・本当に良かった!」


 グラシアンは自分の心配する気持ちがミルエラに届いたと喜びを顔に表して抱き締めた。


(やっぱり私の方が守よりミルエラに相応しい!)


 自分の気持ちが届いた、守には出来ない事が出来る。そう思って居たがミルエラはグラシアンに離れるように呟いたあと、グラシアンは離れてくれたがミルエラの手は握ったまま。


「どうしてここに?」

「ミルエラが心配だったから来たんだよ!」


 握られたままの手を見つめたあと、ミルエラはグラシアンへ視線を向けた。


「ずっと手を握ってくれていたのは殿下ですか?」

「・・・ ・・・そうだよ、私がずっと傍に居た。 ミルエラが目を覚ましてくれて嬉しいよ」

「私どのくらい眠ってました?」

「三週間も眠っていたよ」

「そう ・・・ですか、あの、守さまは・・・」

「彼のことは見ていないよ」


 グラシアンは嘘をついては居なかった、ここへ来るまでの道のりと医務室では見かけていない。


「あんな奴のことは・・・」


 気にしない方がいい、とい言いかけてミルエラを見るとミルエラは守が会いに来てくれてないと聞いてショックを受けた悲しそうな顔をしている。

 ミルエラは好かれていない事を分かっている、諦めようと何度も思った。それでも守の顔を見る度に「すき」という気持ちが溢れて、何か変えられるかもしれないと思ってしまう。


「気にしない方がいい、彼が大事なのは如月家の子供だからね」

「気にしてはいません。・・・そうだ、 私を庇ってくださったナイル様は! ナイル様はご無事ですか!?」


 自分のことより他人のことを心配するミルエラの優しさにグラシアンは微笑むとゆっくり頷いて、ナイルの具合は回復している趣旨を伝えた。


「きっと今はリハビリにでも行っているんだろうね、彼は良くリハビリに行くんだ」

「まあ、殿下はナイル様とも知り合いなんですか?」

「そうだよ、彼は王家に仕える公爵家で私は第二王子だからね」


 実際は知り合い、というよりは顔見知りなだけ。

 公爵に連れられて王宮へやって来たナイルを数回見かけただけで話したことはないのに知り合いだと嘘をついたグラシアンはミルエラがナイルと友人になった事を知らないのだ。


「まぁ、殿下はお知り合いが多くて凄いですね」

「そんな事は・・・」


 グラシアンはミルエラに笑顔を向けられ、照れてしまったのか頬を人差し指でかきながら笑っていると王族の遣いがやって来た。


「殿下、そろそろお帰りになりましょう」

「しかし・・・。そうだ! ミルエラ、君も一緒に王宮へ行かない?」


 グラシアンからの突拍子もない誘いにミルエラは見開いた目を閉じれずに居たが、そんな事をしたら誤解が生まれてしまうからと丁重に断った。


「少しだけだよ、面白い書物を手に入れたんだ。それを渡すだけ、・・・ね?」


 ミルエラが押されかけていると、陰一族の遣いが現れてミルエラの荷物を一瞬で木製のトランクに入れた。王族に挨拶もなく勝手な行動をする遣いにグラシアンも不快な思いをしたがミルエラの口角は上がった。


「守さまが馬車でお待ちです、一緒に行きましょう」

「はい!」


 ミルエラは遣いに差し出された手をとり、グラシアンに頭を下げて学園の外に出た。真っ黒い馬車の中には守が居て、ミルエラは緊張しながら頭を下げた。


「守さま・・・わざわざお越しいただきありがとうございます」

(・・・お越しいただき?)


 ずっと学園で看病していた守はミルエラの言葉に眉を動かしたがミルエラはグラシアンがずっと看病していたと勘違いしたまま。


「これから、どちらに?」

「我が一族の本家だ。 如月家の者や陰一族の本家と分家が集まる会議がある 」

「そのような場所に行ってもよろしいでしょうか?」


 婚約者だから紹介してくれるのだと期待に胸を膨らませて守の返答を待っているが、守の反応はなかった。


(そうだ、私は邪魔者で守さまに嫌われている。)


 その事を再度思い知らされたミルエラの顔から笑顔は消えた、しかし、守の頭の中は全く違う事を考えていた。最高峰の治癒師でさえミルエラの目を覚ますことは出来なかったのに、グラシアンが見舞いに来たら いとも簡単に目を覚ました。まるで、グラシアンのお陰で目覚められたというような流れに、何か裏があるのかも知れないと考えていたのだ。


「守さま・・・聞いても良いですか?」

「・・・なんだ」


 ミルエラに名前を呼ばれるまで考えることにふけていた守はハッと我に返った。


(人前で油断してしまったことが父親に知られたら殴られるな。)


 自分がミルエラに心を許してきた証拠だと自覚した守はミルエラに視線を向けると視線が合った。久々にミルエラの目を見るとコバルトブルーの瞳が宝石のように輝いていた。


「守さまは・・・ご子息様の事がお好きなんですか?」

「嗚呼、当然だ。」

「私は邪魔ではないんですか?」

「いや・・・そんなことは無い」

「邪魔と思わないほど・・・私は眼中にないですか?」


 声を震わせて呟くミルエラの言葉は、守を不愉快にさせた。誰もそんな事は言っていないのにどうしてそうなるのか、どう解釈したらそう思うのかと守も苛立ち始めてしまい深いため息を着いた。


「お見舞いにだって来て下さらなかったじゃないですか!」

「・・・ ・・・ なんの事を言ってるんだ」

「私をずっと見て下さったのは、グラシアン殿下で!

 守さまはただ私を迎えに来ただけ! このまま目を覚まさない方が守さまにも都合がよろしかったのではないですか! 」


 積もり積もったものが爆発してしまったミルエラは声をだいにして狭い馬車の中で守に発言する。


「私は・・・私はずっとあなた様を・・・」


 好いていた。

 たったその一言が言えないミルエラは、落ち着いてきたのか声を荒らげた事を謝罪して頭を下げた。この調子では守に愛想を尽かされて当然だとミルエラは反省をして捨てられる覚悟をした。


「あの男が、そう言ったのか?」

「・・・え?」

「あの男が俺は見舞いに来ていないと言ったのか?」

「えぇ・・・、一度もお見かけしていないと言ってきました」

「そうか」


 グラシアンがミルエラを好いていることは分かっていたが、あの無能な国王の息子ということもありここまで手を回せるとは正直思って居なくて完全に(あなど)っていた。父親にはどんな時もどんな人物でも侮る事は自分の首を差し出していることだと言われてきたのに、グラシアンの出来損ないという噂を鵜呑みにして油断したのだ。


(噂を鵜呑みにしないと決めたじゃないか・・・なのに俺はハメられた。父上が聞いたらどうなる事か・・・)

「守さまは・・・薄情なお方です、ご子息様しか眼中にないなんて」

「リュウさまには俺しか居ないんだ」

「そうですか? ・・・子供は成長していくものです、守さまが勝手にそう思われているのではないのですか」

「・・・そうだったら、どれほどいいか」


 ミルエラは皮肉を言ったつもりだったが、守は腕を組みながら眉間を寄せてしまった。今までも好かれたことはなかったから嫌われても変わらないと思って発言をしたが、実際は目に見えない壁が見えてしまうごとに自分は傷付いているんだと自覚した。


「どうして・・・そこまでご子息様を想われるのですか?」


 ミルエラの言葉を聞いた守は、婚姻をしたらいずれ知る事になるだろうと話を始めた。



 ✱✱✱✱✱✱



 御三家の家門である如月家は、代々 琥珀の総元帥直属の部隊、白龍隊隊長を継いでいる。

 それは如月リュウの父、春頼(はるより)も同じであった、琥珀最強の部隊である白龍隊 隊長を務めている彼はとても厳格な人で自分の妻にも、屋敷に居る小間使いにも厳しく言葉を発していた。


「日々の鍛錬(たんれん)を怠るな」


 それは春頼の口癖であった。

 側に居る守の父親 "成弥"には琥珀の隊員全体の質が落ちていると叱ったが、それを成弥に言われても入隊を許可するのは彼ではないからどうしようもなかった。


「落ち着きが足らんのだ!」

「それは春頼様も言えるのでは?」

「黙れ成弥!」


 春頼の妻は出産を控えており、産気ずいたことで屋敷は慌ただしかった。落ち着きのない屋敷の者達に鍛錬の話をするが、一番落ち着きのない人物は春頼で、妻が出産を頑張って居る部屋の前を行ったり来たりしていた。


「桜が満開になった日に生まれてこられるとは・・・きっと、仏様が祝福しておられるのですね」

「仏など居らぬ! ・・・が、今日くらいはそう思っても良いのかも知れないな」


 春頼は庭へ視線を向けた。風が吹くたびに舞い上がる桜の花びらを目にして微笑んで、うっとりする様な景色に見蕩れていると赤子のか弱い産声が聞こえてきた。


「産まれたか!」


 春頼が待ちきれずに襖を開けると、産婆に抱かれた赤子の姿があった。産婆から赤子を受け取って小さな身体を抱き上げたあと産まれたのが ” 息子 ”だと聞かされた。如月家の後継者が産まれたことにホッとしていたのにリュウが産まれた時に母親は亡くなってしまった。


「何故・・・何故だ!?」


 産婆は産まれてきた赤子の異能力が母体に影響を及ぼしていた事を話した、そんな素振りを見せてこなかった妻に隠されていたのを知ってショックを受けたがもう文句も言えない。


 産まれたばかりのリュウのことは成弥の妻 "そよね"が乳母として育てる事になった、リュウの側付き人として選ばれたのは そよねの子供である三歳の守だった。如月家の屋敷と陰一族の本家は渡り廊下で繋がっており、春頼は夜が更けて寝る前に一度会いに来るだけ。産まれたあの日以来、リュウを抱くこともなく妻を殺したリュウを避けているような行動を取っていた。


「御館様、どうか・・・抱いてあげてください」

「必要ない。守、お前にはこの子の世話を頼むぞ」

「あい!」


 成弥の一族の男児は幼名を与えられる、そして守も幼名である。幼名とは幼児である期間につけられる名前で、成人したと認められるまで"成弥"の名を襲名出来ないが守は早く襲名を受けたくて小さいながらに頑張っていた。


「リュウしゃまのおしぇわを がんばいましゅ!」


 お包みに巻かれて眠っているリュウに、まだ舌足らずな言葉で挨拶をする守は愛くるしくて そよね は可笑しそうに笑った。けれど、リュウも守も琥珀の一員としていずれは危険をかえりみずに戦うことになると思うと そよね は悲しく思った。


「今、リュウ様は寝ているの 良かったらリュウ様の寝顔を見てあげて。貴方がこれから守らなくてはならない御方よ」


 守は頷くと大きな目を耀かせ、そわそわしながら近付いた。そよね に抱っこされてるリュウの寝顔を見て笑顔になると、自分の主が可愛らしい顔をしているから生まれてから半年はリュウのことを女の子だと勘違いしていた。

 そして、リュウはすくすく育ち四歳になると父親の元へ行っては後ろをついて歩くようになった。


「ちー!」

「父はいま仕事をしているから守と居なさい」


 当たり障りのない言葉でリュウを遠ざける春頼の心情にはまだリュウも気付いていないがそれも時間の問題だった。だから守は、「勉強が残っている 」「稽古が残っている」「歌を詠む時間」「書き物をやる」など様々な理由を付けては、春頼から引き剥がして本家へ連れ戻していた。

 リュウが五歳になったある晩の日。本家で食事を取って居たリュウは突然、茶碗を落とすと吐血をして倒れてしまっめ。慌てて駆け寄る守とそよねは何が起こったのか分からなかった。


「リュウ様ッ!!」


 リュウは閉じていく視界の中で、隣に座っているのに微動だにしない父の姿を捉えた。

 どうして心配してくれないの? そう思いながら意識を飛ばしたリュウの姿は八歳の守にはいたたまれなかった。婚約者であるミルエラと会っている暇などない、何があってもリュウを守らなくてはと決意もした。

 何者かに毒を盛られたという証拠もなく、食事にも体内にも毒は無かった。


「本当に毒はなんだな? ・・・嘘偽りを言っているのなら貴様を殺す」


 八歳の子供の言葉は本来なら怯える必要もないが、陰一族の子供は別だ。如月家にしか忠誠を尽くしていない彼らの血塗られた歴史は誰もが知っている、医者は唾を飲み込んだあとゆっくり頷いた。


「原因は・・・底なしに湧き上がる異能力の影響です」


 このままでは異能力にリュウの体が耐えられなくなってしまう、そうなれば死しかない。


「体力を付けなくてはなりません、お体が治り次第稽古を増やします」


 そよねが説明している間、リュウは父を探してキョロキョロしていた。きっと心配しているからもう大丈夫だと教えてあげたかったから探して、お見舞いに来てくれるのをずっと待っていたが春頼が現れる事はなかった。


「大丈夫かい、リュウくん」


 だが引き換えに総元帥はお見舞いに来てくれた。しかし、リュウは総元帥が嫌いだった。総元帥のそばに居るから父は何時も屋敷に帰ってこない、父がお見舞いに来れなかったのはきっと総元帥のせいなんだと勘違いをしたリュウは、頭を撫でてくれる総元帥の顔を拳でパンチして。


「コラッ!!」


 それには側に控えていた春頼も顔面蒼白でリュウを叱り付けた。父親に初めて怒鳴られたリュウは震えた小動物のようで涙ぐんでしまっても春頼は怒るのを止めなかった。


「ハル、やめるんだ」


 そんな春頼を宥めたのは総元帥だった。


「お前の子は威勢が良いな! 将来私の傍で働いてくれるのが楽しみになったよ」


 その優しい笑顔にリュウは怒りも忘れて心が踊るような気分だった、必要とされるのが嬉しい。五歳にして当たり前の喜びを感じた。それと同時に守は、自分がリュウを守ってそばにいなくてはいけないと再び自覚した。



 ✱✱✱✱✱


 御三家といえば王族より権威を持っている。

 そこに産まれれば栄光の富と地位を築けて未来は明るいはずなのに、リュウは違った。その事実にミルエラは心を痛めて自分の事のように涙が頬を伝う。


「御館様は・・・今もリュウさまを避けておられる。俺の母がそばに居るが、リュウさまには歳の近い子供が必要なんだ」

「大人・・・ではなく、子供なんですね」

「何も考えていない子供でなくてはいけない。幼い頃から自分に媚びを売る者、殺そうとする者、様々な大人を見てきたリュウさまはこどもにしか心を開かない」


 守がリュウを大切に思う理由を知ったミルエラは、そんな事情もあったと知らずにリュウに嫉妬していた自分を恥ずかしく思ってしまった。


「申し訳ございません、私・・・守さまをご子息様に取られたと思って・・・無礼な態度をとってしまいました」

「・・・俺も、有りもしない噂を鵜呑みにしたことを謝罪する。悪かった」


 頭を下げて謝る守にミルエラはテンパってしまった。


「やめてください! 私なんかに頭を下げるのはお止めください!」

「その・・・俺は、女性心は全く分からないしこれからも不快な気持ちにする事があると思うんだがそれでも・・・」


 守が言葉を選んで話していると馬車の扉が開いて、現れたのは、リュウだった。勢いよく守に抱き着くと会いたかったと満面の笑顔をして嬉しそうだった。

 二人は話に夢中で気づかなかったが、とっくに目的地に着いていたのだ。陰一族の馬車はテレポーテーションが出来る特別な素材で直ぐに着くことを忘れていた守は、話も途中で不完全燃焼だがミルエラと和解出来たことは二人にとって一歩前進したということ。


「あ~、ホントに悪女がきてる」

「リュウさま、彼女は俺の婚約者なので今後そのような失礼な事を申されるのであれば、俺が許しません。」


 守の言葉を聞いたリュウは何が起こったのか理解できなかったが、守がミルエラの手を取り馬車から下ろすのを見てショックを受けた顔をして屋敷へ走って行ってしまった。


「一週間ほど此処で過ごしてもらったあと実家まで送り届ける。事前に断りがなかったのは申し訳な・・・」

「守さま、私はあなたのそばにずっと居ます。守さまに連れて行って貰えるのならどこへだって行きます」


 やっと、向日葵のような明るい笑顔が守に向いた。

 仲睦まじい二人の姿を守の父親も感心して見詰めて居るが、リュウは違った。リュウは納得して居ないのか部屋に戻ると、守と遊ぶつもりで作った紙飛行機に掌を向けて真っ黒い炎で燃やした。


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