シャルロッテとのお泊まり会
「わー! キースのおうちってこんなところもあるのね」
私は今、キースと二人で邸宅探検に出かけている。
フローレス夫人は、私がお泊まりを開始したときに気を遣ってくださり、お仕事を少しお休みしてくれていたのだ。
なので、今はさすがにそんなに休んでもいられず、すでにあちらこちらに回って仕事をしているようで、本日は取引先でお泊りされるとおっしゃっていた。
フローレス夫人が狙われている可能性も高いため、最初お休みを取ってくださったことに申し訳なく思いながらも、少し安心したのだが。
さすがにもうお仕事にいかなければならないということは、お忙しいフローレス夫人にはしょうがないとは言え、とても心配だ。
なのでキースに何か対応をお願いしたら、護衛の方を多めにつけるように手配してくれたとすでに動いてくれていて安心する。
キースはやはり仕事が早いのだ。
ちなみに、ヴァネッサ様にお願いしている魔法石のアクセサリーはもう少しかかりそうとのことだ。
早くできてほしいが、きっと時間がかかるんだろう。
なお、今日のお泊まり先は、学生時代のお友達だそうで、むしろあえてそのようなスケジュールにしてお泊まりにしたようだ。
一緒に飲むワイン何にしようってウキウキ選んでらしたので、お仕事終わりの楽しみになるといいと思う。
なお、今私は邸宅内にある、お宝部屋のような部屋を見せていただいている。
キースのお父様が集められた絵画や、石像などが置いてあるお部屋だ。
キースのお父様、なかなかいいセンスをしていて、ひとつひとつ興味を惹かれる。
さながら百貨店の絵画展に行ったような気分だ。
キースの折角の夏季休暇を、危険だから外に出ないようにとキースのお父様から言われたと聞いた時は、可哀想だと思ったけど、全然そんなことなかった。
邸宅内で十分楽しめる。
キースもこんな部屋あったんだと驚く部屋もあったので、
きっとキースも十分にお休みを満喫できているはずだ。
私はそもそも、キースと一緒にいられるお休みがとても嬉しい。
キースもそうだといいのだけど。
色々とマイロ様やシャルロッテに調べてもらっているのに、私たちはキースの邸宅でぬくぬく幸せに暮らしているなんて、本当に申し訳ないのだが、皆が危険だから絶対出ないでと言ってくれるのでちょっと甘えさせてもらっている。
本当は、キースは何か動いてる感じがするんだけど、今は私に内緒にしているようなので、黙っている。
なお、これからシャルロッテとサーム先生が来られて、お泊まり会を開催するのだ。
お休みなのにどこも出かけられなくてあまりに可哀想だからとシャルロッテが声をかけてくれたのだが、流石にやはりシャルロッテのお宅では外出にあたるため、キースからご両親にお願いしてもらったらこちらに呼びなさいと快く快諾してくれたのだ。
シャルロッテに会うと元気をもらえるのでとても楽しみだ。
サーム先生にも久しぶりに会える。
でも、サーム先生はなんで来られるんだろ? シャルロッテにいわれるがまま了承してしまったが、謎である。
※※※
「いらっしゃい!」
「おじゃまいたします」
二人が到着する。
サーム先生は、我が家に来てくれた時と違い、なかなかお洒落な格好をしている。
シャルロッテはすごい大荷物だ。何泊するつもりだ。
もちろん一泊の予定である。
「サーム先生、お休みの日はそんな格好されてるんですね、とてもお似合いでいらっしゃいますよ」
「これはシャルロッテが選んでくれたんです。いつも同じ服だから……と。似合ってますか?」
サーム先生、少し照れている。
あら? シャルロッテとかなりいい感じ?
「サーム先生素敵でしょう、いつも着ているのも素敵だけど、私選んだものも絶対素敵だと思って着てもらったの」
いつも私の前では堂々としたシャルロッテが、少し控えめな感じだ。
そういうシャルロッテも可愛い。
「お久しぶりです、サーム先生、以前は本当にお世話になりました」
キースもサーム先生とはお久しぶりだったようだ。
職場は同じ場所だと思うのだけど、部署が違うとなかなか会わないのかもしれない。
いつもフローレス夫人についていらっしゃるシェリーさんがお客様対応に当たられている。
フローレス夫人のお仕事や外出の際などはもともと女性の護衛をつけているのだそうだ。
「では、お部屋に案内いたしますね」
シェリーさんがそう言って二人を案内する。
このあと私がフローレス夫人にお誘いいただいた、例のテラスに面した広間に案内して少しお茶をしてもらうつもりなのだ。
本日私は少し頑張って、シフォンケーキを作ったので出してもらうつもりだ。
皆のお口にあうといいな、と思う。
私の手作りのシフォンケーキは、豆乳と、寒い地方で取れるお砂糖を使用するのが決め手だ。油もお米の油を利用している。
メレンゲは泡立て器に似た魔法道具を使わせていただいた。
早速荷物を置いた二人が広間に到着するや否や、シフォンケーキと、アイスティを出してもらう。
「シフォンケーキ! 大好きなの!」
シャルロッテが目を輝かせている。
「私の手作りなんです。お口に合うといいのだけど」
「フワフワ……美味しい」
シャルロッテのお口には合ったようだ。
キースもサーム先生も、満更ではなさそうなお顔をしている。
「美味しいよ」
とキース。
「軽い食感で、いくらでも食べられそうです」
とサーム先生。
……よかった。お口にあったようだ。
私も久しぶりにシフォンケーキを食べて、この味だわ、と思う。
久しぶりに作ったのだが、いつもと同じように作っても気温の違いで底上げしてしまったり、なかなか奥の深いシフォンケーキは型をはずすまで、成功したのかとても不安だ。
フローレス夫人がいらっしゃればお任せするのだが、キースのご両親が不在のおもてなしするのはとても不安だった。
あ、ちなみにもちろんキースのお父様はご帰宅される。
だが、フローレス夫人がいらっしゃらないと聞くとここぞとばかりに同僚とご飯を食べてこようかなとおっしゃっていたので本日は遅くなるようだ。
もしかしたらキースと私のお客様に遠慮なさっているのかもしれないが。
多分普通に、楽しんで来られるんじゃないかと思っている。
皆、あっという間にシフォンケーキを平らげてくれる。
作ったものとして、とても嬉しい。
すると、サーム先生が、
「ご馳走様でした。さて、人払いをして欲しいんです。『ゲーム』の話とやらをしたいと思うのですが」
と言った。
「え……」
私はシャルロッテの方を見る。
「サーム先生に話したの」
シャルロッテは彼女らしく堂々としている。
「ゲーム?」
キースはわけがわからない顔をしている。
そりゃそうだろう、ゲームとは伝えていない。
サーム先生は一体何を言われるのだろう?
サーム先生のことだ、悪いようにはしないだろうけど。
私はキースに、
「人払いしてもらえますか?」
とお願いした。




