なんとはじめてのお泊まり
私に向かって、マイロ様が
「何があったのか教えてくれないか?」
とお聞きになる。
私が、このたびの事件について、
かいつまんでお話させていただくと、
マイロ様は、しばし考えこまれ、
「キースはそこまで弱くはないのだが、複数人にでも狙われたのだろうか?」
なんて物騒なことをおっしゃった。
でもたしかに、キースが負けるなんて信じられない。
そういえば、
ガブリエラ様が、
キースはキースのお母様をお守りになって怪我をするとおっしゃっていなかったか?
ゲームの強制力があるとすれば、
キースのマザコンキャラのためにキースのお母様が狙われていて、その関係でキースが狙われたとか?
全て憶測にすぎないのだけど。
だが、聞いていたゲームの話とは、
少しばかり離れてしまった気がする。
「とにかく調べてみよう」
とマイロ様がおっしゃるので、
お任せしたいと思う。
私も、そりゃあ調べたいとは思うが、
どうしたらいいのか検討もつかないので、とてもありがたい。
すごくキースに優しくしてくれて、嬉しいなと思う。
いいお友達に恵まれているのね。
そういえば、シャルロッテの部下さんがそういうの調べるのが得意とかいってなかっただろうか?
シャルロッテにも相談してみようかな。
ヴァネッサ様が、
「もう遅いので泊まって行きなさい」と言ってくださった。
すでにキースのご両親と、
私の両親にはすぐに連絡してくださったのだそうだ。
そして、
ヴァネッサ様とマイロ様は、
マイロ様のお住まいに行くそうで、
こちらのお部屋に、
今夜は泊まらせていただけることになった。
というか、ヴァネッサ様とマイロ様、割とよくお泊まりしあってるみたい。
すごいなぁ。なんだか大人の恋愛な雰囲気に少しドキドキしてしまう。
って待って待って! それを言うなら、私もじゃない?
キース寝てるけど、二人でお泊まり? ってやつだよね?
私、不謹慎にもドキドキしてしまった。
キースと二人きり……寝てるけど。
ヴァネッサ様が、
キースのベッドの横に簡易ベッドを出してくださる。
お、おんなじ部屋ってのも恥ずかしいな。
でも、
キースが起きるまで、一緒にいてあげたいと思う。
マイロ様が私に清浄魔法をかけてくださった。
この魔法、本当に素晴らしいと思う。
いろんな方にかけていただいているが、
本当に気持ちいい。
前世にも有ればよかったのに。
しかし、この魔法はかなり難易度が高くてなかなか私は覚えることができないのだが、
ぜひ覚えたいと思った。
なお、すでにキースにもかけてくださったのだそうだ。
本当にありがたい。
私はヴァネッサ様にお借りしたパジャマを着る。
ヴァネッサ様のパジャマ、エキゾチックでセクシーな見た目に反して結構ファンシーなパジャマだった。
でもファンシーなパジャマを着たヴァネッサ様を見てみたい気もする。
かなり、可愛いだろう。
そして、
私は椅子を持ってきて、
ベッドの横に座る。
そして、キースの手を握った。
そして、キースの手首にはまっている、
嫌な感じのする腕輪を触ってみた。
りんご飴を食べていた時はついてなかったもんね。
なんだか、冷たくてとても嫌な感じだ。
私はなんの気なしに、
腕輪を両手で握りしめて、
外れて! と願ってみた。
こんな腕輪! 外れたらいいのに……!
願ったものの、勿論、外れるわけもなかった。
ふと、あのマリア様の刺繍のハンカチを思いだして、取り出す。
教会のドアを解錠するときに、
このハンカチに願ったのよね。
ふとそのことを思いだし、
マリア様にまた、キースの腕輪どうか外れてください! と祈ってみた。
そして私は、『解錠』とまた呪文を唱えてみた。
するとキースの腕にしっかりハマった腕輪が、
カチリ、と音を立てたとおもったら、
パカっと外れた。
なんとなくその外れた腕輪を直接触るのは怖かったので、
マリア様のハンカチに包み、テーブルへ置いた。
キースの顔色が断然よくなった、気がする。
私、聖女の能力がある、はずなんだよね?
今こそ、使う時なんじゃないかな?
というか、むしろ全く花開く感じもない。
一体どうしたら、いいんだろう。
ゲームだったらいとも簡単にできるようになるみたいだけど、
現実はやっぱり現実で。
力を込めてみたり集中してみたり、
はたまたキースの手をまた握ってみたりしてみたけど、
全然できなかった。
ガブリエラ様のおっしゃっていたゲームイベントでのキースの怪我、
治してあげられるのかな?
というか、無理なんじゃないのかな?
もうここまできたら、念のため、
聖女の能力が覚醒しないかもしれないという過程のもと、
怪我をしないようにするパターンでいくしかないんじゃない? と思う。
うん、決めた。私そのパターンで行くわ。
聖女覚醒しないパターンの方面でやってみるわ。
そう思ったらプレッシャーから解き放たれたような気がして、かなり安心する。
サームルートの時も無理だったのにうまく行ったし大丈夫な気がしてきた。
そう思ってきたら、なんだかこの二人きりの状況が楽しくなってきて、
せっかくキースと二人きりなのに今寝てるキースがすごく勿体無くて、起きてーなんて思ってしまう。
ゲンキンな私だ。
寝てるキースをいいことに、抱きしめて、
起きてーって祈ってみる。
あぁ、キースいい匂い。本当に好きだなぁ。
私無事に助けられてよかった。
早く良くなってね……。
と思ったところで、
私が思いっきり光っていることに気がついた。
え? 今?
どうやら私は、聖女の能力が、覚醒したようだった。
プレッシャーから解き放たれたら案外いけたパターンのやつですかね。




