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井戸端会議は突然に


 魔法陣を通って家に帰宅すると、キャッキャッというような華やかな空気に包まれていた。


 大好きなあの方たちがきている! 私はすぐ気付いて、客間に走る。

 我が家の中でも特に素晴らしい装丁のドアをつい勢いよく開けてしまう。

 

 「ただいま帰りました!」


 「ミリーちゃん! また可愛くなったんじゃない?」

 母の友人のご婦人方たちのお茶会だ!

 (私は密かに井戸端会議と呼んでいる)


 「ありがとうございます! 美しい皆様にそう言っていただけると嬉しいです」

 お世辞でも彼女たちに言われると、素直に嬉しい私である。


 なお、キースのお母様もいる。


 こちらの世界は結婚や妊娠が早いので、前世の年齢と同世代であるご婦人方といるのは大層居心地がいい。


 女性はライフステージで前みたいに仲良くできなくなる、というが、前世の私は少ない友人達が結婚しても妊娠しても、こどもを産んでも仲良くしていただいていたので、ライフステージが違っても話に全然入れる。


 気心知れた友人たちの育児の話を聞くのも、出産時の武勇伝を聞くのも、平凡ながらも自分の悩みを聞いてもらうのもまた嬉しかった。


 またお母さんになった彼女たちの情報網も素晴らしいものだ。

 ゴシップは九割方は把握しているといっても過言ではないし、お得なお店の情報もなによりも早い。


 それは井戸端会議のメンバーの皆様でも例外ではなくて。

 「ききました? トンプソン伯爵家の息子さん! ターナー侯爵家のお嬢さんとご婚約なさってるというのに違う方と逢瀬を重ねられていらっしゃるとか!」


 「お若いわねー! でもそんなバレるようなことなさるなんて、ちょっと考えなしじゃないかしら。それほどお好きになってしまったのかしら。私たちの時代じゃ考えられませんわね」


 「あっ私もキャンベル子爵の息子さんが、ご婚約されてる方と違う方といい感じになってるってお聞きしたわ。お相手の方はなんだっかしら。あの、名前がでてこないわ……アレ……あーなんだっかしら。モヤモヤしますわね」


 私もついつい、

 「それわかりますわ。私もよくなりますの。人の名前ってここまで出てもなかなか出てきませんわよね。でも、なんだかお若いっていいですわよね」

 なんて言ってしまった。


 「ミリーちゃん、アナタいつも思うけれど、アナタもお若いですからね? 息子と同世代と思えないわ。私と同い年じゃないわよね?」

 キースのお母様が言った。

 キースのお母様は、亡くなった年とまさに同い年だった。


 キースの女性版で、もうキースのお姉さんといっても通ると私は思う。

 キースみたいにいい匂いがしてすごく素敵な女性である。

 キースとご結婚される方は、お母様もすばらしくて最高よね。


 「ミリー、アナタもう部屋に帰ってなさいな。お母様の楽しい時間を邪魔しないでくださいませ」

 お母様が言った。


 お母様は私含め子供を3人も産み育てているにもかかわらず美魔女である。

 不惑である。


 お父様はお母様のことをベタ惚れで何でもいうこと聞いちゃっている。わかる気がする。


 「お母様。もうお邪魔しますけど、いつも謎のままの皆様の美の秘訣を今日こそお聞きしたいですわ」

 前世のアラフォーの私、抗うことを諦めたらドンドン老けてしまって、ご婦人方のようなかわいさ美しさを兼ね備えていなかった。


 だから別に望んでもないのに独身だったのよね。きっと。

 もっと抗ってたらよかった。

 頑張ってあげたらよかった。


 私も今度こそ年齢を重ねても美しくいるための秘訣を聞いていつまでも若々しくいるのである!


 「もうミリーちゃんはいつも嬉しくなることをいってくださるわね! 私は最近テリー商会の化粧品を使ってるのだけど、お安い値段の割になかなかよいのでございますわ」

 「まぁ!私もその化粧品かいましたわ!」


 「なかなか高コスパな化粧品ですのね!」

 わたしは手帳にメモした。


 「高コスパ? とはなんですの?」


「値段以上の価値があるというような意味ですわ!」

 絶対買う!


 「ミリー。お母様も買っているのよ。でもお母様には合わなかったからアナタ使う?」

 お母様が言った。

 「ぜひ! ありがとうお母様!」


 私は肌も強いしがたいもいいけど、お母様は華奢で小柄で肌も弱い。

 お父様は背も高いしガッシリしていて私はお父様似だ。


 娘はお父様に似る方が幸せになれる、というジンクスがあるが、やはり華奢で小柄な女の子に憧れるわたしは、ヒロインなはずなのに残念ミリーなのだった。


 ご婦人の一人が

 「ハっ、思い出しましたわ! テリー商会の一人娘のシャルロッテさんですわ。浮気相手!」


 「そうですわ、シャルロッテさんですわ! いろいろな殿方と、婚約者がいるいないに関わらずいい関係になってらっしゃるっておききしましたわ」


 でてこなかった名前が出てきてご婦人方のスッキリした顔に私も話の内容よりも嬉しくなってしまう。


 「お名前がでてきてよかったですわ。スッキリしますわよね。でもシャルロッテさん。覚えていられるかしら。

私すぐ忘れてしまいそうですわ。本当最近名前も顔もすぐ忘れてしまいますの」

 私はしみじみ言った。


 「ミリーちゃんちょっと17歳よね?ヤバいわよ。記憶力。私もさすがに17歳の時は覚えられたと思うわよ」

 ご婦人方、シャルロッテさんの話題から速攻で切り替わる。


 「そうかしら?」

 「何か呪いでもかかってるんじゃありません?」

 「呪いとか怖いですわ。でも私も興味ないことは結構忘れる方でしたわ」

 和やかな空気にもっといたくなるが、もう勉強しないと寝る時間が遅くなる。

 睡眠は大事である。


 「そろそろ失礼しますわね…もう少しいたいですが。ごゆっくりなさってくださいねー」

 私はそう言って、席を外した。


 たしかに、そうだ。

 私の前世はアラフォーだったが、今のミリーは17歳なのに、本来の同世代の男の子顔が把握できないのも、すぐ名前を覚えられないのも、何か不思議な気がする。


 本当に何か呪いでも?


 すこし浮かんだ嫌な想像を、私は振り払った。




※※※




 本日は学園は創立記念日で、お休みである。

 週末にさしかかったので、三連休になる。


 私は今日は庭で一人キャンプごっこをすると決めていた。

 連休にも友達と遊ぶというような、楽しいイベントが起きない残念なヒロイン、それが私。

 ヒロインを活かせなくて申し訳ない。


 クローディア様は、少し話すようになったのだが、忙しい上に、さらにピンク君が常に隣にいてゲームの話もできない。

 仲直りした上に、さらに親密度が上がっている気がするのは気のせいだろうか。


 今日話せたらと思ってお誘いしてみたのだが、妃教育だそうで、しかも一日中みっちりとのことで、げんなりした顔をしていた。


 可愛いクローディア様のことを考えるとにやけてしまう。きっと妃教育の合間にピンク君と会ってさらに親密度を深めているに違いない。


 前世で報われない恋をしていたはずの彼女が、幸せそうなのはだだ嬉しいことだ。


 テントは野営セットという騎士の方々が使われているものを取り寄せた。

 一人で設営するのは難しいが、本日の夜はここで寝るつもりなので、できたらたてたい。


 四苦八苦して組み立てるがうまくいかない。


 うーん。やはり不器用すぎだ。

 前世のテントは簡単だったが、やはり今世のテント設営は難しい。


 テントは諦めるか、と思って、屋敷でテラスで使ってる椅子とテーブルを一つ拝借し、置いた。

 クッションでフカフカにして、エールの瓶の栓を開けてグラスに注ぐ。

 ビールをここではそういうらしい。17歳は成人とされるから飲めるのだ。


 テントが大変だろうから、今日はサンドイッチを料理長に作ってもらって、野営セットの簡易コンロのような魔法道具を取り出して、鍛冶屋に作らせたホットサンドメーカーを取り出す。

 鍛冶屋だけに取っ手の部分に鞘みたいなのをつけてもらって、熱くならないようにしてもらった。


 こんなの頼む人いないとか言われるが、前に頼んだ焚き火台も商品化してなかなか売れているらしい。


 マージンの話をしようとしたらホットサンドメーカーをただで作ってもらうことになってしまった。


 とりあえず、これからホットサンドメーカーは商品化したらマージンをもらうことでどうにか決着がついた。

 焚き火台は、勉強代になったと思おう。


 ホットサンドメーカーを簡易コンロに似た魔道具で温めて、バターを塗る。

 サンドイッチ(ローストビーフを挟んでもらった)を、中に入れる。


 ビール(エールだけど)を飲みながら、ホットサンドが焼き上がるのを待つのは至高の時間である。


 ホットサンドができる前にビールもう一本あけてしまった。

 ミリーはヒロインだが、なかなかお酒が強い。


 さすがに飲み過ぎなのだが、

 「ホットサンドができたら、もう一本だけっ」

 と許すことにした。


 バター薫るローストビーフのホットサンドは、外側はカリっと、中はホッカホッカに仕上がった。

 小さなナイフで斜めに切る。


 熱いのだが、どうしても我慢できず一口齧る。

 バターの香りとマスタードが効いたローストビーフは最高だ。

 パンも料理長の自家製酵母で手作りした食パンなので、半端なくうまい。

 モチモチとサクサクのいいとこどり。


 料理長にパン屋さんの開業を勧めたいくらいだ。

 さすが料理長。 


 「ミリー! ここにいたの」

 誰かが、声をかけてきたのでわたしは前を見る


 キースだった。


「キース! いらっしゃってたのですか? 先日はフローレス侯爵夫人とお会いしましたよ」

 キース、最近何か頻繁にいらしている。


 なお、キースはキース・フローレスという名前で、侯爵家であった。


 こうして侯爵家の御子息であるキースをこんな気兼ねなく呼べるのはお母様とフローレス夫人が仲が良く、私は幼馴染のように過ごせたからである。


 「こないだおでかけしようと言ったのでお誘いにきたんですが、とても楽しそうだね?」

 キースが言った。


 「お酒が入ってるね」

 キースは少し呆れ顔だ。


 「もう少ししたら酔いも覚めますわ!」

 わたしは笑う。

 結構酔っ払ってしまったかも。

 まだ飲みたいけどもうやめよう。


 「キースも半分食べますか? かなりの絶品です」

 おいしいものはみんなで美味しいねって食べる方ががおいしい、が持論な私なのでキースに勧める。


 「いいの? ではいただきます。わっコレめっちゃ美味しいね。でも、ミリーってまだ友達少ないんだね」

 キースはホットサンドをアツっアツっと頬張りながら残念そうに私を見る。


 「そうなんです。何故だか昔からお友達ができないんですよね。寂しかったのでキースが来てくれて嬉しいです。あっキース、エール飲みます?」

 ビールを勧める。


 「いや、今はいいかな。ミリーもほどほどにね。今日は突然だったもんね。もっと早く言えばよかったんだけどギリギリまで休みが取れるかわからなくて。だから朝一からきたんだけどまさかもう始めちゃってるとは」

 キースは残念そうながらも、なんだかめっちゃ嬉しそう。

 キースもたしか三連休なはず。

 休みは嬉しいよね。


 「せっかくのお誘いだったのにごめんなさい。でもせっかくのおやすみに来てくださったのですね。嬉しいな。キースありがとう!」

 キースは優しいので、私がせっかくの三連休を友達がいなくて寂しいだろうと思って来てくれたのかもしれない。


 食べ終わり、キースが1人キャンプの片付けを手伝ってくれる。


 仕事で野営の経験があるキースにテントの設営をお願いしたのたが、私を連れていきたいところがあるのだというので断れたのだ。


 というわけで私はキースの準備した馬車に揺られていた。


 街に向かっている、のかな?


 一体キースは私をどこへ連れていってくれるんだろう。


 なんだかデートのようで、気恥ずかしい。

 隣に座ってくれるキースがいつものように良い匂いがして、体も大きくなって、小さい頃の面影を残しつつも、ガッシリしていて、ドキドキする。


 もう私はキースのことを小さな男の子なんて思えなくなっていた。

ミリーは本人気づいていませんが、

彼女の好ましい人は彼女にとっていい匂いがしています。


なお、家族は同じ匂いなので好きですが普通です。

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