妖精の森に迷う
空の空気が冷たくなって、
なのに生暖かい風が顔を撫でる。
(幽体だけど)
……何か起こりそう。
私の無意識の部分が、そう警告してる。
横に同じようにフヨフヨ漂ってるシャルロッテが、
「ゲームではこんなのなかったと思うんだけど……」
と顔を強張らせた。
シャルロッテは、ミニゲームを数個クリアして聖女になれるような話をしていた。
今やったミニゲームは一つ。
総合的に判断しても、
まだ終わってないと見たほうが良さそうだ。
すると、
急に自分の体がブワンと持ち上がった。
なんだか、私の周りだけ変な風がある。
「シャルロッテ!」
シャルロッテに助けを求めると、
腕を伸ばしてくれた。
シャルロッテって案外優しいとこあるよね。
会って少ししかたってないけれど、彼女がもう悪い子じゃないのはわかる。
私もシャルロッテに手を伸ばしたが、
その腕をつかもうとしたその途端、
さらにグルグルと風が体にまとわりつき、
どこかへ飛ばされた。
「ミリー!!!」シャルロッテの声が遠くから聞こえる。
そして、勢いよく上へあがって、
そのまま私は意識を手放していた。
※※※
私は目を開けると、
冷たい床に寝そべっていた。
意識が戻って速攻思ったことは、
幽体なのに意識を手放せるっておかしくない?ってことだったが、
私はふよふよしてなかった。
冷たい床の感覚がある。
今、私はきちんと自分の体に戻ってるようだ。
私の体は家にいたと思うのだけど。
周りを見ると、王座みたいなところの下手にいた。
王様に謁見を願う時に王様に見下ろされる場所っていったらわかるかな?
そういえば、私は死にかけていたはずだと思うのだけど、
今はしんどくない。
立ち上がって、ぴょんぴょん飛んでみる。
ハァハァもしない。
信じられないが、私元気になっている。
でも一体ここはどこ?
とりあえず王座の場所を見てみた。
すると、そこには青みがかった銀髪を束ねた、
精悍な顔をした、騎士みたいな格好をした人が座っていた。
コチラをチラリとみる。
「おきたようだな」
よかった。喋ってくれる人だった。
そう思ってしまう私は、ゲーム脳になってるかもしれない。
「あの……ここは?」
私は、おそるおそる訪ねる。
「ここは妖精国の王城だ。私は王だ。先程は妻が失礼した」
彼はそう話した。
さきほどの美しい妖精さんが、この精悍な騎士風の王様の奥様らしかった。
「聖女の力が欲しいと言ったそうだな。さすがにそれは認められない。妻は遊びに付き合ってもらえたら、授けようと思っていたらしいが……全く」
どうやら王様は奥様に振り回されているらしい。
ちょっとおもしろい。
こんな凛々しいお顔をしつつ奥様に完全デレデレなんて。
妻が、とかいうたびに奥様大好きなんだなーってわかる。
「いえ、なんでだか元気になってるのでそれは問題ありません。こちらこそご迷惑をおかけしました」
私はサラリと言った。
私の目的は、聖女になる、ではない。
元気になってバッドエンドを回避する、である!
聖女になるのが最良の結果というならば、
この結果は、最善ということではないだろうか。
聖女なんでさすがに私には荷が重そうだし。
そりゃ、あんな簡単なゲームしただけでもらえる能力ではないよね、って思っていた。
だからできるならば私はご遠慮して、
代わりにシャルロッテになってもらおうかなーと思ったくらい。
でもハナから、回復させてください、
って言ってもよかったのかもね。
今更だけど。
ゲームみたいにしなきゃって思いすぎてたかも。
ゲーム脳にやっぱりなってる気がする。
「あまりにボロボロだったので流石に回復させてもらった」
王様はそう言った。
「え!そうだったんですね!ありがとうございます。聖女の力というより、元気になりたかったので、むしろ嬉しいです!」
王様すごい!私は心の底から感謝した。
「いや、たいしたことではない。もし何か困ったことがあったら力になろう。妻が喜ぶだろう」
そう言って王様は笑った。
「王様、ありがとうございます。お妃様にもどうぞよろしくお伝えください」
私はそう伝えた。
妖精の王様、優しいなぁ……。
と考えていたら。
気がついたらサラマンドラの森に立っていた。
帰してもらえたのか。私。
いや、でもここはどこ?
そもそもシャルロッテに連れてきてもらったから、
私はこの森から出る方法がわからない。
そして、私は自慢ではないが、前世から壊滅的に方向が音痴だった。
ちょっと、ミリーになったら多少は大丈夫になってるんじゃない?
なんて期待したけど、
やっぱりだめな感じだ。
そりゃそうだよね。
今までミリーとして生きてきても方向感覚鋭いって思ったことないもんね。
いつも屋敷でも学園でも、たまにここはどこ?
ってなるもんね。
いや、さっき力になるとか王様いってなかったっけ?
ちょい早く助けを求めすぎかもだけど、
もう今危険だよね?
「たーすけーてくーださーい!!!」
とか上に向かって叫んでみたりしたけど、
シーンだった。
おい、力になるんじゃないのかい。
森とか怖いし、虫いるし、なんか動物みたいな気配もあるし、どうにか暗くなる前までには帰りたい……って思ったけど無理だった。
あっという間に、あたりは真っ暗になってしまった。
あー本当方向音痴だな!私。
なんか元気になったから、きちんとお腹も空くし、
なんか悲しくなってきた。
完全な精神は健全な肉体に宿る。
そう、私はお腹すいたらだめな人だった。
アラフォーなのでいい年して、
恥ずかしいのだけど、お腹がすいたし、
暗いし怖いし。お腹すいたし。
そう、お腹すいたし。
お腹がすいたらもう心細すぎて、
涙が溢れて止まらなかった。
エグエグないて、でも足を止めるなんてできなくて。
「お腹すいたよ……だれか助けて……」って泣きながら歩いていたけど、
もう、そもそも今いる場所が、
出口に近いのか、遠いのかもわからないくらい真っ暗で、
不安が募る。
もしかして、私明るくなるまでどこかに止まっておいた方がいいかな?ともう止まる方がいいんじゃないか、
と思ったその時、
私は崖に足を滑らせてしまった。
怖さで目を瞑ってしまう。
自分の体がドンドン落ちている感覚がある。
あぁ、せっかく元気になったのに……。
どうかどうか、落ちてもできたら怪我ひとつなく無事でありますように。
いや、軽症でもいいです!
私は神に祈りながら落ちていった。
妖精さんの助けが得られる確約をもらったのに助けてもらえない残念なミリーさんでした。




