シャルロッテさんの混乱
少し血などの表現があります。苦手な方はお気をつけください。
高熱に浮かされて中々眠れない。
関節痛が辛くて、枕にしがみついて、ウーウー唸っていたら、何か、私の体が光ったような気がした。
そのあと、全身に温かいものを感じる。
熱はまだあるようだが、痛みが引いた。
痛みが落ち着くと急激に眠気が来る。
しばらく夢うつつの中を彷徨っていたが、体中にドーンとした痛みを感じ、否応なく起こされる。
あのキースとのデートの日の再来ような痛みがやってきた。
これ、嫌だ……。
痛い……痛い……痛い……辛い……もう嫌だ……。
喉に生温かいものが何度も通る。
過呼吸か? 息ができない。キース、助けて。
どうやら私は痛い痛いと口にでていたようで、異変に気づいたサーム先生がやってきてくれた。
エイミーが呼ばれ、
「ミリー様……ミリー様」と泣きそうな声で、体をさすってくれる。
目を開けると私は血みどろになっていた。
あぁ、キースのお母様にもらったお洋服なのに。
私に寄り添ってくれたエイミーのいつも清潔なメイド服にも沢山ついている。
私血を吐いたの? そんなに悪いの? 急激に不安になる。
私が不安になったのを察してサーム先生が、まず清浄魔法をかけてくれる。
すごい。
真っ赤になったシーツも、エイミーも全部綺麗にしてくれた。
「ありがとう……ございま……」
お礼を言おうと思ったが、また痛みの波がきて、途中までしか言えない。
また何か喉を通ったような。
もう、痛みで目を開けてもいられない。
エイミーが近くで「ミリー様……」と泣いているのが聞こえる。
サーム先生の
「痛み止めの魔法をかけるから……」
という声が聞こえたら、そのまま痛みがどうにか落ち着いて、ようやく私は眠りにつけた。
※※※
……私は浮かんでいる。
死んだの?
死んだのだとしたら、キースに会えて抱きしめてもらえてからで良かったなぁと思う。
めっちゃ青春だったなぁ。嬉しかったなぁ。
あぁ、でも、もっとデートとかしたかったなぁ。
青春、エンジョイ、したかったなぁ……。
友達ときゃいきゃいワーワーも、したかったなー。
でも、死んだとして、このままってことは、ないよね?
私、ずっと知らないお屋敷の上を飛んでるんですが。
ふよふよと飛んでいると。
ビュンと何かに引き寄せられた。
ん? 天国の入り口か何か?
そのまま引き寄せられるのに任せていて、ようやく止まったと思ったら、10円玉の色のような色の髪をツインテールにした女の子が目の前に立っていた。
「ようやく会えたわね、ミリー! 私はシャルロッテよ」
彼女は、ニッコリ笑って私を見た。
「え? 私が見えるの?」
私はもっと聞くことがあるだろうに、しょうもないことを聞いてしまう。
「ええ。ミリー。私はあなたが見えるわ。だって呼んだの私だもん」
フフン、という感じの、すっごく自信たっぷりな感じで仁王立ちしてシャルロッテさんはそう言った。
「どうして私を呼んだのかって聞いてもいいですか?」
てかシャルロッテさんてあのシャルロッテさんだよね?
ききたいことが溢れまくるけど、まず聞くならコレだよね。めっちゃ低姿勢にきいちゃう。
あの、社会人経験が長いとですね。変な人とも会わなくちゃいけないっていう機会が多くてですね。
そういうわけで、しつこいほどの低姿勢と思われないくらいで、なおかつ、えらそうだな、と思われないギリギリのラインを攻める。
質問も、厳選して行う。
社会人経験の、賜物!!!
だってシャルロッテさん可愛いけどかなり変だよね?
怒らせたらめっちゃヤバい空気ブンブン出している。
「気になるわよね。まず、謝るわ! あなたに認識阻害魔法をかけたのは、私よ!」
シャルロッテさんが堂々と言う。
ちょ、待って。謝ってる? その態度。
でもシャルロッテさんが気分を害されないように、そんなことを思ったなんておくびにも出さず、慎重に言葉を選ぶ。
「あ、そうなんですか。あの、なぜ私に魔法を、かけたんですか?」
何個もききたいことあるけど、徐々に。
てか何で呼んだのかスルーされてるけど。
シャルロッテさんは話してくれた。
私の社会人経験の賜物のうまい誘導に、どんどん話してくれる。
結構これでも後輩たちの相談には乗ったので!
合いの手、めっちゃうまいのよ。数少ない、自慢かな。
まず、驚くことに、シャルロッテさんの前世は13歳。
中学生だった。
いや、驚くことはそれだけじゃない。
彼女は命を落として、そのままシャルロッテさんの16歳の体に転移した。
今は17歳だから一年間しかここで生活していない、ということだった。
私やクローディアがいわゆる異世界転生というのなら、彼女は異世界転移。
私が今の人生を生きることで、前世の記憶が朧げな部分があるのと違い、彼女は16歳以前のシャルロッテを知らないが、前世?の記憶の方が強くあると言うのだった。
彼女は続ける。
シャルロッテさんに入った13歳の女の子のお父様は数年前、事故で亡くなられたのだという。
シャルロッテさんは、このゲームのアイドルグループの子達が尊敬してやまない、事務所の先輩のアイドルが大好きだったそうだ。お父さんに面影が似てたんだって。
で、このゲームを知った。
実は、このゲーム、グループの誰それ君たちに模した攻略対象だけでなく、またみんなと仲良くなったときに現れるキースやマイロとも違い、誰とも仲良くならなかったときに現れる隠しキャラクターがいたんだそうだ。
その名も、宮廷魔導医師サーム!
シャルロッテさんが大好きだった先輩アイドルが声を当て、ご本人が衣装も考えられたそうだ。
(クローディアが衣装考えられてたらもっと格好よかったでしょうね)
なんてふと考える私は、クローディアファンなのであろう。
シャルロッテさんがまた話し出す。
「私、サーム先生のルートを何度もやったの。サーム先生と同じ世界に来れたんだから、私会いたいと思って頑張ったんだけど全然会えなくて」
シュン、とするシャルロッテさんは、もう中学生の、幼い女の子にしか見えなかった。
というか、サーム先生も、キャラクターだったのかと少し驚く。
渋めの雰囲気がたしかにお父さん感あるかも、と思ったりする。
で、なぜ私に魔法をかけたかというと。
びっくりなことに、入学から私を観察していたら、彼女の推しアイドルを模したキャラクターであるサーム先生に会うためのルート、つまり、誰とも仲良くならない選択肢を選び続けてたというのだ。
この私が!
えっ私いわゆるサーム先生ルートに行ってしまってたの?
私、よくよく考えたらキースルート全然進んでないんじゃない?!
キースとの婚約、無事にできたと言ってたけど、この先大丈夫なんだろうか?
私はそもそも生きてるか死んでるかもわからないけど、そんなことを思った。
シャルロッテさんの秘密が!!!
マイロのことを未だ知らないミリーさんでした。




