第27話 未熟
「っち!」
総司が舌打ちをした。
再び放たれた極太の光が、ケルベロスではなくアインホーンを狙う。
総司はそれを察知して機体をひるがえすが、攻撃が速すぎた。
空中に浮かんでいたアインホーンの翼が貫かれる。
「総司くん、地上に降りるんだ!
マリさんは——」
シュピーゲルの指示より早くケルベロスは動き出していた。
マリは焦っていた。
緋月さんのアインホーンもやられた。
とにかくあの光の攻撃をなんとかしないとまずい。
わたしはともかく、二人に重傷を負わせるわけにはいかない。
本体の気を逸らして、光を放つものが何か突き止めないと。
ケルベロスは大鎌を敵のデジャイヴァーに向かって投擲。
つづけて鬣を引き抜き、両手に持つ。ブーメランのような武器が二本となった。
そのブーメランを極太の光の根元に向かって投げつけた。
敵のデジャイヴァーは高速回転しながら肉薄した大鎌をかぎ爪で弾き飛ばす。
意識を大鎌に向けさせたおかげか、ブーメランの一本が光を放つなにかに届いた。
モニターに映るのは菱形の分厚い鏡、これが光を放つものの正体だ。
ブーメランが鏡に当たると、ぱりん、と音を立てて割れた。
もろい。
攻撃力と引き換えに防御力はほとんどない。
これなら——
「フロートミラーを壊したか。
お前はなぜ戦い慣れている?
裕福な世界のお前らはほとんど戦争を経験していないはず」
敵の声が響き渡る。
この敵の厄介なところは、話している最中に攻撃の手を全くゆるめないことだ。
デジャイヴァーは意思で動かす以上、それは並大抵のことではない。
マリは降り注ぐ光を必死に避けながらも思考した。
パイロットが優秀ってだけじゃないよね。たぶん、わたし以上に戦争慣れしている。
あちらも精霊がいる以上、世界線γとの接触はそう多くはないはずなのに。
考えているうちに敵デジャイヴァーの翼の一部が剥がれ、菱形の分厚い鏡となり四方に飛び散ったのが見えた。
飛び散った鏡——フロートミラーから縦横無人の光の攻撃が追加され、マリたちを追い詰める。
ドワーフは表面装甲を削られる程度で済んでいるが、アインホーンは機体に穴をあけられていった。
致命的な攻撃は受けていないが、これ以上は危険だ。
マリはインフィニティを駆使してなんとか攻撃を読み取り、ギリギリのところで躱すことができていたが、反撃する暇がない。
たまりかねたシュピーゲルが声を張り上げた。
「二人ともドワーフに近づけ!」
「了解!」
「わかりました!」
アインホーンとケルベロスは素早くドワーフのそばに駆けよる。
ドワーフは持っていた戦斧の柄を大地に深く突き刺した。
その戦斧を両手で握りしめ、シュピーゲルが叫ぶ。
「大地の加護!」
シュピーゲルの声とともに戦斧の頂点から真上に向かって赤い光の筋が伸びた。
高さ十五メートルほどで止まり、そこを頂点とするようにピラミッド型のバリアーが展開される。
三機のデジャイヴァーはバリアー内に収まり、光の攻撃はバリアーに当たると霧散した。
「へぇ。
フロートミラーのオールレンジビームが効かないのか。
流石にあっさりとはいかないな。
だけど、それ。単なるデジャイヴァーの機能じゃないだろ?
インフィニティを使っているな。
拒絶の力か無効化の力か知らないが、かなり強い力だ。
維持するのも楽じゃないだろう?」
その言葉にドワーフがたじろいだ。
敵のデジャイヴァーはそれを見て確信を得たかのように口の部分をにぃっと開いた。
パイロットの表情そのものを反映しているかのようだ。
「ほら、フロートミラーはもっと増やせるぞ?
いつまでもつかな」
さらに増える極太の光の攻撃。
光が当たるたびにバリアーは赤く光っていたが、徐々にその赤みが弱くなっているのがわかる。
幸いにも稼いだ時間でアインホーンとドワーフの修復は終わっていた。
しかし、このままではまずい。
敵デジャイヴァーに近づける可能性があるのは、地上での機動性に優れたケルベロスだけだろう。
ここまでの戦いで自分が十分に戦えることはわかった。
自分一人でなんとかやってやる。
「シュピーゲルさん、バリアーの解除と同時に私が敵デジャイヴァーに向かいます。
二人はなんとか凌いでください」
「マリさん、一人で突っ込むなんて無謀すぎる。作戦を立てて連携するんだ」
「そんな時間はありません。それに、ケルベロスしか相手に近づくことができません。
わたし一人でやるしかないんです」
「はっ。なんだこの化け物は。
いっちょ前にエース気取りか? どうしてだか二週間前に比べれば強くなったようだが、敵を舐めすぎだ。
なぜアイツが姿を現しているか、考えもしないのか?」
「総司くんのいう通りだ。
敵はまだ何かを隠しもっているはず」
「シュピーゲルさんまでわたしを化け物よばわりする人の肩を持つんですね……」
「肩を持つわけじゃない。
よく考えるんだ。敵が姿を現すメリットが——」
「もういい!
ドワーフのバリアーはもう持たないでしょ。
わたし一人でやります!」
どう考えてもこれ以上の答えはない。
なぜ二人ともそれをわかってくれないのだろう。
マリは自分自身の思考が絶対的に正しいと信じて疑っていなかった。
自分が急に強くなったせいで嫉妬しているのだとさえ思っていた。
だから本来仲間であるはずの二人の意見を蔑ろにした。
その様子を見ていたベルゼブブは、
「あきれてものがいえませんね……」
なにかつぶやいたが、必死に敵を見るマリの耳には届かなかった。
一方、同じようにケルベロスのコックピット内に浮かんでいた法眼は厳しい顔でモニターを注視し、なにかを準備しているようだった。
しかしそれを聞いている余裕はない。
バリアーの明滅状態を見るに、もう間もなく破壊されるのは間違いない。
マリは覚悟を決めた。
「ぐっ。すまない二人とも、もう限界だ」
シュピーゲルの悔しそうな声とともに、ばりばり、と音を立ててバリアーが破られた。
マリは敵に向かって駆けだした。
インフィニティを駆使して敵の攻撃を予測し、光の牢獄をすり抜ける。
あと一歩で敵に届くというところで、ケルベロスの左腕が光に撃ち抜かれた。
マリはひるまず突進して右腕に大鎌を生成、敵デジャイヴァーの胴体めがけて横薙ぎに振り払った。
敵デジャイヴァーが両手のかぎづめで防ごうとするが、渾身の力を込めたケルベロスの一撃を防ぐことはできなかった。
「しまっ——」
敵の声が響くがもう遅い。
勝った。
敵デジャイヴァーが上下に分断され、コックピット部分があらわになる。
そこには無残なパイロットの死体が転がり、座席は血で塗りつぶされていた。
——はずだった。
マリの考えとは裏腹に、コックピットの中には誰もいなかった。
「うそ。
なんで、そんなはずがない。
だってしゃべっていたじゃない」
「馬鹿な敵は百の味方にも勝るな」
空のコックピットを見て呆然と立ち尽くすケルベロスの後ろから斬撃が放たれた。
目の前で上下に分断され横たわっているデジャイヴァーと全くおなじ敵デジャイヴァーが後ろにいた。
敵デジャイヴァーのかぎ爪がケルベロスの装甲を引き剥がし、機体の修復が始まる前に、かぎ爪の切っ先をマリに突きつけた。
「動いたり修復を始めたりしたらグリフォンの爪でこのまま切り裂いてやる」
無機質で冷徹な声が淡々といった。
マリは口を開くことができなかった。
おそらく自分は、死にさえしなければ傷をなかったことにできる。
いや、される。
ただ、即死するような傷の場合はどうなるかわからない。
人質にされるわけにはいかない、死ぬわけにもいかない。
マリにできるのは、一瞬の隙も見逃さないように状況に注視することだけだった。
「そこの二体のデジャイヴァー。
どういう状況かわかるな?
余計な動きをすればこいつを殺す」
グリフォンのパイロットは宣言と同時にフロートミラーを動かしてドワーフとアインホーンに狙いをつけていた。
「はっ。
そんなものが脅しになるとでも思っているのか?
最終的には俺たち全員を殺すつもりだろうが。
それにそいつは仲間殺しの化け物だ。好きにすればいい」
総司があざけるようにいい放った。
「やめろ。
マリさんを失うわけにはいかない」
シュピーゲルの言葉はグリフォンのパイロットに向けられたのか、それとも総司に向けられたものなのかはわからない。
「さて、フロートミラーで攻撃を始めるぞ。
お前たちが避ければこの女を殺す」
アインホーンが動こうとするが、ドワーフがそれを制止した。
おそらくコックピットの中では秘匿回線によるやり取りがされているのだろう。
コックピットの中で行われている総司の抗議がアインホーンの動きに現れていた。
「そら」
二体の機体が動くかを見極めるかのようにわざわざ声を出してから攻撃を始めるグリフォン。
二体のデジャイヴァーは身動き一つせず光の攻撃をくらっている。
総司が動き出したら、同時に動き出そうとしていたマリは目の前の状況に面をくらった。
ドワーフの装甲が次々と剥がれ、アインホーンは比較的もろい翼がすでに崩れ落ちていた。
このままでは、わたしのせいで二人が死んでしまう。
マリが一か八か動き出そうとしたとき、法眼がいった。
「準備が整った。逃げるよ」
その言葉とともに世界が歪み、狭間の世界が崩れ去っていった。
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