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第23話 見返してやる


破壊の羽根(デストロイフェザー)


 緋月の声が荒野に響き渡る。

 空中に停止した紅蓮色の機体から絶え間なく放たれる、鋭利な刃のついた赤い羽根。

 それを不格好に走っては避けるケルベロス。

 ケルベロスの外観のせいで、犬がきゃいんきゃいんと鳴きながら逃げているように見える。

 マリはそんな情けない姿が映るモニターを横目に、「わわわ」と声を上げながらなんとか回避していた。

 しかし、回避しきれなかった一本がケルベロスの大腿だいたいに突き刺ささる。


「痛いっ! え? なんで!?」


 マリの太ももに鈍い痛みが走った。

 フィードバック。

 まさかただの訓練でここまで再現されているとは思わなかった。

 緋月が浮かべた酷薄な笑みを思い出す。

 自然と身震いが起きた。

 まずい。

 このままだと、ただ一方的になぶられてしまう。。

 訓練どころの話ではない。

 

「はっ。まだまだだ。破壊の羽根(デストロイフェザー)


 ひどくたのしそうな緋月の声が響く。

 赤い羽根が再び放たれた。

 マリは太ももの痛みを無視して、意識を集中させた。

 こちらも武器を作らないとダメだ。

 イメージは大鎌。

 柄の部分は瞬時に生成された。しかし、刃が形成される前に赤い羽根が流星雨のように襲い掛かる。

 ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ。

 ケルベロスに次から次へと突き刺さっていく。

 

「うぐぅ」


 マリはくぐもったうめき声をもらす。

 痛い。全身のいたるところを注射器で刺されたような感覚。

 痛みに身を縮めたマリはモニターから目を離した。

 直後、顎に鈍い痛みが生じた。

 いつの間にか近づいてきた赤い機体に、ケルベロスの顎が蹴り上げられていた。

 ケルベロスは衝撃で宙を舞い、三十メートルほど吹き飛んだ。

 悔しい。このまま何もしないで終わってしまうのだろうか。

 そこに紅蓮色の機体がゆっくりと歩いて近づいてくる。


「俺のアインホーンと、お前のケルベロス。

 機体の方向性は違えど基本性能に大きな差があるわけではない。

 わかるな? お前が化け物のくせに脆弱すぎるんだ。これでは俺の訓練にならん。

 もういい、死ね」


 アインホーンが手を宙にかかげた。

 そこに光が集まっていく。


神殺しの槍(ロンギヌス)


 緋月が言葉にすると同時に槍が形成された。

 あのゴリラのような化け物を殺した槍だ。

 十メートルはある紅蓮色の機体よりもさらに2,3メートルは大きいであろう巨大なランス。

 銀色に鈍く光る鉄の塊がマリに向けられた。

 冗談でしょ? まさかあのゴリラ型と同じように串刺しにする気?

 マリの脳裏に浮かぶのは、昨日の戦いで蜂の巣のように穴だらけになったゴリラ型の姿。

 いやだ。怖い。

 マリは必死に逃げようと地を這う。

 敵に背中を見せて逃げるなど、致命的なミスだと思う。

 しかし、ただの中学生であるマリは恐怖に打ち勝てなかった。

 

「ごふっ」


 マリの口から吐くような音が漏れる。

 同時に動けなくなった。

 モニターを横目に見やる。

 ケルベロスが串刺しにされ、地面に縫いつけられていた。

 もはやマリにはモニターを呆然と見ていることしかできなかった。

 アインホーンは槍を巧みに使い、串刺しのままのケルベロスを宙に浮かべた。

 そのままゴミを払うようにケルベロスを地面にたたきつけた。

 マリは再びうめき声を漏らす。全身の痛みのせいで抗議することさえできなかった。

 アインホーンは槍を振り上げ、ケルベロスの頭部を突き刺した。


「いあああああ」


 マリの頭の内部に激しい痛みが走る。

 すると急に景色が消え、目の前にEmergencyの文字が映しだされた。

 

 目の前がパッと明るくなった。

 灯りはあるはずなのに、なんだか視界がぼやけていた。

 目の前に、誰かがいる?

 

「マリ、マリ? 大丈夫!?」


 クララ? そう言おうとしたが咳き込んでしまう。

 どうやら訓練が終わったらしい。

 いつの間にか、訓練用の箱は横たわり、蓋が開いていた。

 全身を締め付けるものもない。

 汗をびっしょりとかいて制服のブラウスが湿っていた。

 はあ、はあ、と速い呼吸音が聞こえる。

 それが自分のものだと気づいたのは、視界のぼやけがなくなったときだった。

 ようやく声が出せるようになったマリは確かめるように口を開いた。


「クララ…?」

「よかったぁ。マリ、ここがどこだかわかる?」

「訓練室……だよね? クララはなんでここにいるの?」

「総司とマリが訓練室に入っていくのが見えてさ、心配になってついてきたのよ。

 そしたら案の定……」


 クララはマリから視線を外し、後ろを向いた。

 マリも視線の先が気になり、なんとか上半身を起こした。

 クララの視線の先にいたのはやはり緋月だった。

 

「ちょっと総司、ここまでする必要ないでしょ」


 クララの声は非難のいろが前面にでていた。

 緋月はクララを一瞥(いちべつ)したあと、マリに視線を移してから口を開いた。


「どうしてだ? これは訓練だぞ。

 実践と同じようにやらねば意味がない。

 戦場で敵が待ってくれるのか? 情けをかけてくれるのか?

 そんな甘ったるい考えでは死ぬだけだ。

 ああ、すまない。お前は死ぬ側ではなくて殺す側だったな」

 

 総司は「はっ」とくだらなそうにため息をついて訓練室を出ていった。

 悔しかった。

 何もできず一方的に嬲られたことより、自分の甘さを正しく指摘されて。

 その通りだった。戦場で敵が待ってくれるはずはない。

 訓練だからといって舐めていた。

 いい教訓になった。ただ、これで総司への反抗心が消えたわけではない。

 むしろ増えた。

 絶対に見返してやる。

 今度はわたしが叩きのめしてやる。そのために、できることは何でもするんだ。

 マリはクララの手を掴んだ。

 

「クララ、一緒にケルベロスを強くして」

「もちろんだよ!」


 クララはマリをまっすぐ見つめ、こどものように無邪気な笑顔で応えた。

 

 少し休憩を取ったあと、マリとクララは訓練室で調整を始めた。

 まずは機体のモデリング。

 他のデジャイヴァーと違い、ケルベロスの原型はパイロットであるマリの意思が反映されていない。

 そのせいで機体の正確になイメージが持つことができず、操縦が精彩に欠いていた。


「そもそもさ、マリの意思じゃないなら、誰の意思が反映して原型ができたの?」

「……考えてもいなかった。ベルさんなら知ってるよね?」

 

 マリの声に反応して、人形サイズのベルゼブブが現れる。


「教えてもいいですが、

 この頭で考えてはどうです? そう難しいことではないはず」

 

 ベルゼブブはマリの頭をこんこんと叩いた。

 考えろ、か。

 答えは一つしかない。デジャイヴァーのパイロットがわたしで、その精霊がベルさん。

 デジャイヴァーの原型を決めるのはパイロット——精霊の宿主なんだ。

 宿主の定義はよくわからない。

 ただ、わたしが宿主になったことで、ベルさんとわたしの間に魂の回廊がつながったらしい。

 逆にいえば、魂の回廊がつながっていれば、宿主としての資格はあるんじゃないだろうか。

 ベルさんと魂がつながっている人が、わたし以外にもいる。

 

「パパ……だよね」

「ぱちぱち。よくできました。

 頭でも撫でてあげましょうか?」

「いらない。

 でも、そっか。パパがわたしを守るために作ってくれたんだよね。

 ね、クララ。なるべくいまの形を残したままモデリングしていこう」


 クララが返そうとする前に、ベルゼブブがいい放った。


「そもそも原型を大きく変えることなんてできないです。

 もう潜在意識に固定されていますからね。

 さ、さっさと精緻なイメージができるようになってください。

 それができてからまた話しましょう」


 ベルゼブブはそういった直後、光の粒子となって霧散した。

 マリはクララに視線を向け、


「原型を大きく変えられないって、そうなの、クララ?」

「うん。潜在意識ってのはよくわかんないけど、いまの機体に新しいパーツを追加したり、武装に合わせて関わる部位を少し変えたりするくらいしかできないの。

 ただ、マリはいまの機体のイメージさえ曖昧でしょ? まずはモデリングしながらイメージづくりしていこう。長く時間がかかるからね。キャップじゃなくてよかったでしょ?」


 クララは、にしし、と笑いながらいった。

 それからマリとクララはみっちり四時間モデリングとイメージづくりを行った。

 以前はデジャイヴァーを召喚するためにベルゼブブに立体映像を投影してもらった。

 しかし訓練の結果、モデルを見ることなく召喚することに成功したのであった。

 

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