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第22話 訓練準備


 訓練室は整備ハンガーの真横に位置していた。

 メイン整備士と二人で訓練室を使うことも多いらしい。

 主に機体の再モデリングや新武装の創造訓練だ。

 デジャイヴァーはパイロットの意思によって、自由に物質を創造できる。

 しかしそれは、なんでもできるわけではない。

 パイロットが正確にイメージできないものは中途半端な状態で創造される。

 すなわち、武装を創造するにはその武装がどのような構造になっているかを正確に知っておく必要がある。

 整備班はパイロットがイメージできるように最初は武装を実際に作り上げる。

 メイン整備士は、最初の設計図をもとにパイロットとイメージを共有し何度もバージョンアップを重ねる。

 そうして整備班が作った武装を原型としたパイロット専用の武装が出来上がっていく。

 このようにバージョンアップを重ねてパイロット固有のものにカスタマイズする過程や、完全なイメージができるまで訓練することを調整と呼ぶらしい。

 全部、緋月さんが教えてくれた。

 訓練室に来る途中、マリは無視され続けていた。

 しかしマリが雪乃の名前をだし、半分脅すように聞いたところ渋々と答えはじめた。

 マリが聞いたことに緋月がただ答えるという一問一答形式で聞き出すには苦労した。

 訓練室の前に着いたとき、緋月がいった。


「これで気が済んだか化け物め。つぎ、雪乃をだしにしたら機体ごと戦場で壊してやる」


 緋月のこめかみに血管が浮き出ていた。

 さすがにやりすぎたらしい。

 しかし、強くなるために手段を選んでいられない。

 そもそもマリの乗るデジャイヴァーに早川守という人間が喰われたことなど、マリの意思で行われたわけではない。

 非難されるいわれはない。

 文句を言いたい気持ちもあるが、いまは藪蛇やぶへびだろう。

 それよりもまずは訓練だ。


 訓練室の中は思っていたよりずっと狭かった。

 天井につるされた全方位モニターと円状に並んだ七個の巨大な鉄製の箱が部屋のほとんどを占めていた。

 箱は人ひとりがちょうど収まるくらいの大きさで、西洋の棺桶の形に似ていた。

 人体にあわせて肘部分が張り出したようなコフィン型と呼ばれる形。

 蓋に当たる部分は透明な硬いプラスチックで、曲線を描いて箱を覆っていた。

 箱の中は、黒い布のようなもので覆われていた。

 ちょうどヒトの形に穴が開いているのが不気味な感じね。

 初めて見るマリにも、この中に入ってイメージ訓練を行うことがわかった。

 箱の数——七という数は昨日聞いた精霊の数に合わせているのだろう。

 他の世界にいる精霊がどうやってこの世界に来るのかはわからないが、いつかこの箱が埋まる日が来るのだろうか。

 箱をじろじろと見ていたマリに緋月が声をかけた。


「どれでもいいからさっさと入れ、はじめるぞ。

 そうそう、実はな俺もお前と訓練する予定だったんだ。

 きてくれてちょうどよかったよ」


 緋月は酷薄な笑みを浮かべた後に箱の横についていたスイッチを押した。

 蓋がパカッと開き、緋月がその中に入っていく。

 入った緋月は思いのほか沈み、顔だけを残して身体は黒い布で覆われてしまった。

 蓋がゆっくりと閉じた。

 やがて透明だった蓋にスモークがかかり内部の様子は全く見えなくなった。

 そして横倒しだった箱は、うぃんという音とともに立ち上がっていく。

 完全に垂直になったときに箱は止まった。

 マリは先ほどの緋月の言葉と表情にこれから起こることを想像した。

 むしろ望むところよ。

 素人考えだけど、より実践に近い方が訓練になるに決まってる。

 それに所詮はイメージ訓練でしょ?

 昨日の戦闘はすごく痛かったけど、あの痛みがないなら大したことないわ。

 マリは意気込んで箱の中に入っていった。

 箱に入るとマリの身体を優しく締め付けるように黒い布が動いているのがわかった。

 あ、これ血圧を測るときに似ている。

 全身があらゆる方向から締め付けられ、指一本動かすことができない。

 ちょっと怖いけど、はじめて体験する感覚で面白い。

 思っていたより、訓練は楽しいものになりそう。

 透明な蓋がゆっくりと閉じていく。

 完全に閉じたとき、蓋の裏に付属していたヘルメットのようなものが顔を覆った。

 ヘッドマウントディスプレイだ。

 ディスプレイに映る青色の背景にConnectingという文字が浮かんでいる。

 同時に箱が立ち上がっていくのがわかる。

 完全に立ち上がったとき、ディスプレイの文字がJoint Practice? へと変化した。

 その下にはYes/Noの表示。

 

「…………え? どうするのこれ?」


 自然と疑問が口に出た。

 マリの身体はいま指一本動かすことができない。

 当然、ディスプレイにタッチして選択することなどできやしない。

 そうだ、音声認識だ!

 そう思って、Yes、イエース! イヤェ~スと色々と言い方を変えても反応しない。

 緋月さん、やってくれたわね。

 使い方教えてくれないと何もできないじゃない。

 緋月に確認したいが出る方法もわからない。

 完全に手詰まりだった。

 シュピーゲルさんなら丁寧に教えてくれただろうにな。

 そういえばシュピーゲルさん、デジャイヴァーを動かすために最も重要なイメージ訓練が可能っていってたな。

 イメージ訓練。だとしたら、もしかして。

 マリはそっと目を閉じ、意識を集中させる。

 訓練開始、訓練開始、訓練開始——。

 ピッという機械音が聞こえた。

 目を開けるとYesの文字色が変わり、選択されたことがわかる。

 ディスプレイの表示が変わりLodingとなった。

 すると甘ったるい匂いが充満し、マリは自然と眠るように目を閉じた。

 十秒ほど経ったとき、目を開けたつもりがないのに急に視界が開けた。

 目の前に広がるのは荒野。

 そして自分はなぜかデジャイヴァーのコックピットの中にいた。


「身体も自由に動く……」


 先程まで全身が締め付けられていたのが嘘みたいだった。

 たしかにあの箱の中にいるはずなのに、みじんもそれを感じさせない。

 マリはコックピットを見回した。

 恐ろしいほど完全に再現されている。

 手に収まる操縦桿——丸いピンク色の水晶。

 三百六十度に展開されるモニター。

 なにより、身に纏う服が、制服からタイトな白いパイロットスーツに変わっていた。

 ふと視界に入るモニターの一角に、いまの機体の状態を示すモニターがあった。

 外観も映っているが、昨日よりややスリムになっている気がする。

 クララが何かしたのだろうか。

 モニター越しにきょろきょろと辺りを見回す。

 遮蔽物がなにもない、ただ開けた場所。

 遠くに一体の巨人がいた。

 緋月の操る赤い機体。名前は覚えていない。

 その機体から声が響いてきた。

 

「ほう。思っていたよりずっと早いな。

 三十分くらいは右往左往するかと思ったが」

「わかってて教えてくれなかったんですね。

 いい性格していらっしゃいますね。

 それにお優しいことで。三十分も待ってくださるつもりだったなんて」


 マリは眉間にしわを寄せて、できる限りの嫌味をいい放った。


「馬鹿か。お前なんかを待つはずないだろう。

 割り込み可能の設定で、単独戦闘訓練を行っていたところだ」

「…………」

「さて、訓練開始だ」


 ひどく楽しそうな緋月の声が響き渡った。

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