第18話 希望?
こちらを振り向いた男は雪乃と同様のラボの制服の上から白衣を羽織っていた
問題はその顔——まるで鳥人間のようだ。
顔に仮面がかけられている。
目と鼻が隠され、鼻の部分は鳥のくちばしを模して作られた黒い仮面。
黒髪のショートヘアがまるで羽のように見えた。
黒い仮面の両目の端からは真っ赤な大粒の涙が描かれていた。
仮面は確かに怖いが、その涙の絵からはどことなく悲しさが漂っていた。
仮面の男は口を開いた。
「神喰マリさんだね。 驚かせてすまない。
私はシュピーゲル・アイズという。
ラボの研究員のひとりで、デジャイヴァーのパイロットでもある」
——優しい声だな。
どことなくパパの声に似ている。
仮面は怖いしびっくりしたけど、なんだか安心する。
「あ、こちらこそ声をあげちゃってすみません。
神喰マリです。
シュピーゲルさんは、さっきの戦いにいませんでしたよね?」
「ああ、すまなかったね。
どうしてもやらなきゃいけないことがあって。
私へ出動要請をしないよう、あらかじめいってあったんだ」
よく見ると口元もパパに似ている気がする。
なんでだろう。パパより全然若いのに。
たぶん二十代だよね。
父であるユウキを思いだして、マリは頬が緩んでいくのを感じた。
「あの」
マリは微笑んだ。
「わたしも、パイロットになっちゃったんです。
同じパイロットとして仲良くしてください。
もうひとりの……その……緋月さんとは仲良くなれそうになくて」
総司のことを思い出して、後半は声のトーンが下がっていった。
シュピーゲルは「もちろん」といって、にこりと微笑んだ。
マリはその姿をやはり父であるユウキに重ねた。
嬉しさと同時に、未だユウキの所在も掴めていない現状を思い出し涙がでそうになる。
すると気をつかってくれたのだろうか。
シュピーゲルは少し間を置いてから、話しだした。
「さて、検査をしてしまおう。
もう夜も遅い。早く終わらせて身体を休めないとね。
桐原くん、手伝ってくれ」
「了解しました主任」
検査は手早く行われた。
検査中、シュピーゲルはマリに検査の内容を細やかに説明していた。
しかし、マリはろくに話を理解できなかった。
お腹がいっぱいで眠気がピークに達していたうえ、専門用語が乱立したためだ。
シュピーゲルはマリをみて「わからなくても大丈夫だよ」と声をかけていた。
三十分ほど経ったとき、
「よし、検査はこれで終了だ。
桐原くん、取得したデータを解析に回してくれ。
私はマリさんを仮眠室に送ってくるよ」
桐原は眉をひそめた。
「ふつう、それ逆じゃありません?
神喰さんは女の子ですよ。主任が仮眠室に送るって……。
手を出したりしないでくださいよ?」
「はは。
何をいっているんだい。
パイロットとして少し話しておきたいことがあるだけさ」
パイロットの話っていったいなんだろう?
マリは警戒心などまったく抱いていなかった。
メディカルセンターの出口に向かう途中、多くの研究員がシュピーゲルに挨拶をしていた。
シュピーゲルが気まずそうに返事をしているのが印象的だった。
メディカルセンターを出たあと、シュピーゲルは、ほっ、と安心したように息を吐いた。
「マリさん。
仮眠室にいく前に、見てもらいたいものがある。
寄り道してもいいかい?」
「大丈夫です。眠いので、難しい話は無理ですけど」
マリは苦笑いして答えた。
「ありがとう」
◆◆◆
「ここだよ。このラボの……主任の部屋だ」
シュピーゲルに招かれて入った部屋を見て、マリは既視感を覚えた。
天井まで届く壁一面の本棚。
分厚い本がところ狭しと敷き詰められている。
横長の机に、巨大なデスクトップタイプのパソコンと複数のモニターが置かれていた。
まるでこれは——
「パパの部屋?」
シュピーゲルは目を瞠った。
「……すごいね。そんなに似ているのかい?
正解だよ、ここはラボの主任である君の父親——神喰ユウキさんの部屋だ」
マリはその場に凍りついた。
いまたしかにシュピーゲルはユウキのことを話した。
その事実がだんだんと胸に染みてくる。
そして堰を切ったように言葉が出てきた。
「パパを知ってる、それに覚えてるんだよね!?
そうでしょ?
パパはいるよね。
最初からいるよね? いままで私をずっとずっと守ってくれてた。
絶対、絶対これからもそうなんだから。
教えてください! パパはどこにいるんですか?
なんで他の人の記憶からパパはいなくなっちゃったんですか?」
マリは肩を激しく上下させていいきった。
シュピーゲルの唇は震えていた。
それを抑えるように、下唇を嚙みしめてから口を開いた。
「ひとつひとつ答えよう。
まず君の父親は——神喰主任はラボにいるよ。
ただ……」
「ただ?」
「自分の目で見た方がいい」
シュピーゲルは何もない壁の一面に近づいていく。
するとなかったはずのタッチパネルが壁の中から出てきた。
シュピーゲルはタッチパネルに素早く入力していく。
最後のキーを押したとき、壁の一部にドア状の切れ目が入り、その部分が床に埋まっていった。
壁の中に現れたのは下に続く階段。
「いこう、神喰主任はこの下だ」
マリは頷いた。
やっぱりパパはいなくなってなんかいなかった。
それがわかったのは嬉しい。
だけど、シュピーゲルさんの態度が気になる。
パパに何かあったのは間違いない……。
マリはシュピーゲルにつづいて薄暗い階段に足を踏み入れた。
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