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第17話 納得いかない


「はあ~。まんぷく、まんぷく」

「そりゃあ、メインディッシュを五品も食べれば満腹でしょうよ……」

「あ、デザートビュッフェあるんだよね? いこいこ」


 マリは椅子から立ち上がり、目を丸くしたクララの手をとって鼻歌まじりで進む。

 食べながら話を弾ませていた二人はすっかり意気投合していた。

 やがて大量のデザートを取り、テーブルにもどってたいらげたあと、


「いやあ、料理最高だったよ。特にビーフシチューね。

 口にいれたらほろほろと溶けていくあのお肉。

 上品なワインと濃厚な肉のうまみをぎゅぎゅっと濃縮した鼻孔をくすぐってくるあのルー。

 はあ……また食べたい」

「アタシはもう食べ物の話するのもイヤだよ……」

 

 クララは口を抑えて、大小の皿で埋め尽くされたテーブルから目を逸らしていた。

 マリは満腹になったことで眠気に襲われ「ふわぁ」とあくびをしながら腕時計を確認する。

 時間は、夜中の十二時を指していた。

 ふと目の端に、小包をもって歩く自分と同年代の女の子が映った。

 

「クララもそうだけどさ、こんなところに同年代の女の子がけっこういるんだね?」

「ん?」

 

 クララはマリと同じ方に目を向ける。

 その目がぎょっと見開いた。

 クララは慌てて立ち上がり、女の子の方に駆けていく。

 ——どうしたんだろう?


「ちょ、ちょっと雪乃ゆきの

 なんでこんな時間に起きてるの?

 寝てないと身体に悪いよ」

「クララちゃん。ありがとう、心配してくれて。

 でも、お兄ちゃんが心配で」


 雪乃は手に持った小包を持ち上げて、


「お夜食つくったの」

「そっかぁ。

 それ届けたら、雪乃は早く寝てね?」

「うん。ありがとう、クララちゃん」


 笑顔で手を振って食堂を出ていく雪乃。

 クララは目を潤わせながら雪乃のうしろ姿を見ていた。

 マリはその様子が気になり、椅子から立ち上がってクララへ歩みよった。


「あのこがどうかしたの?」

「うん」


 クララはうつむいて、ツナギを握りしめた。


「雪乃ね、がんなの」


 マリの顔が強張る。

 クララは続けていった。


「よくわかんないけど、五年生存率が三十%なんだって。

 そりゃあ、この世界自体があと一年でなくなるかもしれないよ。

 でもさ、雪乃はいつどうなるかわからないんだ。

 だからできるだけ安静にしてなきゃいけないのに」

「そう……なんだ」


 そうとしか言えなかった。

 自分と同じ年頃の女の子が癌に苦しんでる。

 事実を目の前にしても、簡単に気持ちを想像することはできなかった。

 ただマリの胸にちくりと痛むものがあった。

 いま、わたしにできることは——

 

「じゃあさ、今度一緒にトランプでもしようよ」

「え?」

「トランプじゃなくてもいいよ。一緒に遊ぼう? 少しでも楽しもう」

「ありがとう、マリ」


 クララの頬を一筋の涙が伝わる。

 ——きっと、雪乃とクララは親友なんだろうな。

 親友……わたしはあずさと仲直りできるかな。

 クララはツナギの袖で目をこすると、


「整備ハンガーにもどるね。

 あ、マリはメディカルセンター行かなきゃダメだからね」


 クララはポケットから折りたたまれた紙を取り出した。


「ラボの地図あげるね。

 メディカルセンターはここ」


 そういってメディカルセンターの場所にペンで赤丸をつけたあと、整備ハンガーに戻っていった。

 マリはテーブルに残った食器を片付けて、メディカルセンターへと歩き出した。


◆◆◆


 Medical Centerと書かれたドアの前に立つと、自動でドアが開いた。


「失礼しまーす」


 マリは、目をみはった。

 医務室のようなものを想像していたが、まるで違う。

 ドアのすぐ近くに、治療室にあった酸素カプセルのようなものがあった。

 隣には空港のゲートに似た装置。金属検査でもするのだろうか?

 他にもよくわからないものが色々と置いてある。

 それらの機材に多くのモニターが接続されていた。

 そのモニターの周りに白衣を着た医者——あるいは研究者——が何人もいた。

 マリはどうしていいかわからず、目をきょろきょろと動かして部屋を見渡していた。


「きたのね、こっちよ」


 若い女性の声が、マリに呼びかけた。

 マリは声の方を振り向き、口を開けたまま固まった。

 白衣を着た女性はそんなマリをみて「ふふ」と笑い、再び声をかけてくる。


「どうしたの?」

「え、だって……。え? き、桐原先生?」

「ふふ、そうよ」


 ルシフェル女学院中学校の保健教諭——桐原(きりはら)(あんず)が目の前にいた。


「え? なんで?」

「精霊が貴方に宿るということはラボの人間は知っていたのよ。

 私は監視役。

 貴方がデジャイヴァーのキーとして覚醒したら直ちに連絡できるようにね」

「監視って……。それにデジャイヴァーのキーって?」

「私じゃなくて精霊に聞いてくれない?

 私の仕事は貴方の身体の検査。

 さ、いきましょう」


 ベルさんに聞くと馬鹿にされるから聞きたかったのに。

 やや不満に思いながらも、眠かったのでさっさと検査とやらを終わらせることにした。

 桐原に連れられ部屋の奥に行く途中に、また別の酸素カプセルのような装置があった。

 その横のイスに先ほど食堂で見た女の子が小包を膝に乗せてちょこんと座っていた。

 近くで見るとハーフのような顔立ちだ。

 ショートヘアの緑がかった黒髪に、マリーゴールドの髪飾りがついている。

 服は制服、といっても学校の制服ではない。

 ラボの制服なのだろう。上はジャケット、下は短めのタイトスカート。

 映画で見る軍服を思いっきりおしゃれにして、うすい水色に変えたような服だった。

 名前はたしか——


「雪乃ちゃん?」

「はっ、はひ」


 雪乃はびく、と肩を震わせ、マリの方を見た。


「わたし、神喰かんじきマリ。

 さっき食堂で、クララと話しているの聞いちゃったんだ。

 いちおう、デジャイヴァーのパイロット……かな。

 これからよろしくね!」


 にこりと笑いながらマリは手を差し出した。

 雪乃は一瞬戸惑いながら、しかしすぐに頬を緩ませてマリの手を取った。


「うん、よろしくね。神喰かんじきさん」

「マリでいいよ。

 わたしも雪乃ちゃんって呼んでいい?」

「いいよ……マリちゃん」


 雪乃は頬を赤く染めて恥ずかしそうに俯く。

 

「ごめんねごめんね。私、同年代の子と話すの慣れなくて……」


 ……あまり学校に行くことができないのかな。

 はじめてあったわたしに変な同情をされたくもないだろうし……。

 マリは話題を変えようと目を動かした。

 その視界に、カプセルの中に目をつぶって横たわる一人の男を捉えた。


「うわっ! この人、たしか緋月……さん」


 呼び捨てにしてしまおうか一瞬迷ったが、年上を呼び捨てにするには抵抗があった。


「お兄ちゃんなの」

「……え?」

「私の名前、緋月(ひづき)雪乃(ゆきの)

 お兄ちゃんは緋月総司(そうじ)

 マリちゃんと同じデジャイヴァーのパイロットなの。

 たぶん、一緒に戦ったんだよね?」

「う、うん」


 一緒に戦ったとは言い難いが、雪乃の言葉を否定するのもためらわれた。

 なにより、自分を化け物よばわりする総司と雪乃が兄妹きょうだいであることに戸惑う。

 雪乃ちゃん、たしかお夜食作ったんだよね……。

 あんな人のために?

 いや、たしかにお兄ちゃんなんだろうけど、いきなり化け物よばわりしてくる人だよ?


「お兄ちゃんはね」


 雪乃は頬を赤く染めながら、誇らしげに話し始めた。


「とっても優しいの。

 いつも私の身体を心配してくれる。

 重いものを持ってくれたり、美味しいお料理を作ってくれたり。

 デジャイヴァーのパイロットに志願したのもそう。

 詳しくは聞いてないけど、もしかしたら私の癌を直せるかもって……」


 <虚無の瞳>を倒したときの願いだ。

 雪乃ちゃんの身体を治すつもりなんだ。

 良いお兄ちゃんなのかもしれないけど、納得いかないなあ。

 マリが複雑な表情で総司を見ていたとき、ぱんぱんと手を叩く音が響いた。


「話はあとにしてくれない?

 貴方の検査の準備はもう整っているのよ。

 食堂にいったのはかまわないけど、この部屋に入った以上、さっさとやりましょう」


 桐原が言い聞かせるように、マリと雪乃に視線を送った。


「マリちゃん、桐原先生、ごめんなさい邪魔しちゃって。あの、またね?」

「こっちこそ急に話しかけたのにごめんね。また今度いっぱい話そうね、雪乃ちゃん」


 その場をあとにして、マリと桐原はさらに奥へと進む。

 進んだ先にあったのは奇妙なイスだった。

 マッサージチェアの様に人がすっぽりと収まる形状で、大量のコードがつなげられていた。

 イスの直上には、同じくコードだらけの巨大なヘルメットが吊り下げられていた。

 ——まるで拷問具みたいだな。

 イスからつながっているモニターの前に一人の男がいた。

 その男がこちらを振り向く。

 

「っひ!」


 マリは思わず声をあげた。









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