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第16話 もう一人のパートナー

 

 整備ハンガーにもどった瞬間、胸部だけとなっていたケルベロスごと空中から転げ落ちた。

 どしん、と大きな音が響き渡る。

 コックピットの中にいたマリは、怪我こそないものの、いきなりのことに二重の意味で衝撃を受ける。


「いったぁ……くわないけど、なんなの一体」

『狭間の世界から帰ったときは元の位置に戻るだけですからね』


 ベルゼブブの話を聞いて、マリはなるほどと思う。

 元の位置に戻るならコックプットだけがいきなり空中に現れたってことかな。

 それはまあ——落ちるよね。

 そのとき、マリの腹部から大音響が鳴り響く。 


 ぐうううううううううううう。


『お腹で返事するのやめてもらえます?』


 マリは顔をふくらませて、


「夜ごはん食べてないんだからしょうがないじゃない! いじわる!」


 コックピット内とは打って変わって、モニターに映るハンガーは大騒動となっていた。


「やべぇぞ! いきなりボロボロじゃねえか。パイロットは大丈夫か!」

「救護班! 早く!」

「集まって、コックピットこじ開けて担架に運ぶよ!」


 ツナギを着た整備工たちが次々と声を上げる。

 医者や看護師が担架を持ってこちらに駆けていた。

 マリは自分に怪我がないことを伝えようと口を開けかけたが、


「慌てんじゃねえ! ちゃんとメディカルモニター見ろあほんだらぁ!

 機体はボロボロでもパイロットに問題はねえ。

 呼びかけたら出てくらぁ。

 アインホーンの方は——翼がやられちまってるなあ。

 ったく未調整なのに荒く使いやがって。

 緋月の小僧! さっさと出てこい!」

 

 野太くよく通る声が響いた。

 声の主をモニターで確認した。

 他の整備工とは違う。

 ツナギは同じだが、片腕にやたら派手な腕章を着ている人物がいた。

 額にはゴーグル。手は分厚いグローブで包まれていた。

 年齢は五十後半。

 白髪交じりの黒髪は、全体的に灰色に見える。

 筋骨隆々の昔気質の職人さん。

 マリはそんな印象を受けた。


「あの」


 マリの声が外部スピーカーに乗ってハンガーに響き渡る。

 多くの視線がケルベロスに向き、モニターはそのすべての人物を拡大して捉える。


「わたし、大丈夫です。

 ちょっと身体を打っただけなんで。

 いまからでます」


 ハンガーは一気に明るくなった。


「よかったあ」

「いやあ、女の子が怪我してないかとヒヤヒヤしたな」

「疲れてるだろうから、ゆっくりでておいで~」


 その中に、甲高い声が混じる。


「まって、まって~」


 マリはモニターに拡大されたその声の主を見て驚いた。

 

 金髪の女の子? 

 それに若いよね。

 私と同じくらいのとし

 ツナギを着てるし、どう見ても修理屋さんのひとりだよね。


「パイロットさん! 降りるの待って!

 元気なら先、機体修復してくれない? アタシこの日をずっと待ってたの!

 お願い! 早くいじらせて」


 女の子は祈るように両手を絡ませ懇願してくる。

 その後ろに先ほど声を上げた筋骨隆々の職人さんが、ぬっと現れ女の子に拳骨を落とした。


「いったあ……。

 ひどいですよ、キャップぅ」

「クララ! 

 てめえ、ちったあパイロットのこと考えろ。

 それにまだ顔合わせもしてねえだろうが!」

「だって、念願の三体目のデジャイヴァーですよ!

 しかもアタシがメイン整備担当。

 このロマンあふれるカッコイイやついじり放題なんですよ!?

 しかもしかもモチーフが狼ですよ!? このロマンわかりますよね!?

 あああああ、早く触りたい、分解したい、プログラム組みたい……」


 殴られたにも関わらず、じゅるり、と涎を垂らしながらこちらだけ見続けるクララ。

 マリは顔がわずかにひきつった。


 気迫に押され、マリは先に修復することにした。

 やはり機体全体をイメージするのは難しかった。

 嫌味をいうベルゼブブに立体映像を出してもらいながら修復した。

 修復が完了したあと、マリはコックピットから出ると、


「ありがと、ありがと、ありがと~」


 クララがマリの手を握って、ぴょんぴょん跳ねる。

 年齢はやはりマリと同じくらい。

 金髪のショートヘアに透き通ったソフトブルーの瞳。

 よく見るとツナギにいろんなロボットのワッペンが縫いつけられていた。

 そして……汚い。

 コックピットで見たときは気がつかなかった。

 しかし明らかに他の整備工よりもツナギが汚れていた。

 

 跳ねるクララに再び拳骨が落ちた。


「だっから!

 てめえはまず自己紹介しやがれ!」

「いったあ……」


 クララは頭をこすり涙目になりながら、


「アタシ、クララ。

 クララ・ベルハイム。

 アナタのデジャイヴァーを担当することになった整備士よ。

 アタシのことはクララって呼んでね。

 アタシもアナタのこと、マリって呼ぶからさ。

 んで、こっちの暴力じいさんが、デジャイヴァーの整備士長——キャップよ」


 三度みたび落ちる拳骨を、クララはさっとかわした。


「おめえな……。

 ま、いい。お嬢ちゃん」


 キャップはマリに視線を移す。


「俺がキャップだ。

 本名は別にあるが、キャップと呼べ。

 おまえさんのデジャイヴァーは特殊らしいな。

 面白そうだから、本当は俺がやりてえとこだが……今回はこのクララにゆずった。

 中卒の十六歳だが腕は一流よ。

 なにより、パイロットはメイン整備士と頭つきあわせて機体や武装のイメージ固めすっからな。

 女の子どうしの方がはかどるだろ」

「えっと、よくわかんないけど、よろしくお願いします」


 マリはぺこりと頭を下げる。

 そのときマリの腹部から大音量が響き渡る。


 ぐうううぅぐぐぐぅぐうううううううううううう


「あっはははは!」


 クララはゲラゲラと笑いだす。

 笑いすぎて涙目になっている。

 マリは恥ずかしさで自分の顔が火照っていくの感じ、頬を膨らませた。


「ああ、ごめんごめん。

 そんな顔しないでよ。

 メディカルセンターには必ずいくことになるけど、先に食堂いこっか?」


 マリはガシッとクララの肩を掴んだ。


「お願い! もう我慢できないの。

 お腹が空いて死んじゃう」

「よしよし。じゃあ、食堂に案内してあげよう……キャップが」


 キャップとマリは目を丸くする。


「俺かよ!?

 おめえが案内しろ。

 このが可哀想だろうが!」

「えー。だってぇ、アタシ、この子のこと見ないといけないし」


 ケルベロスの足をぽんぽんと叩きながらクララはいった。


「ふっざけんな!

 3Dスキャンとモデリングはこっちでやっとくから一緒に食堂いけ!

 ついでにてめえも夜食を食ってこい。どうせ徹夜でいじるんだろ?」

「マジで!?

 いつもは絶対許さないのに、さっすがキャップ話がわかるぅ。

 そうと決まればマリ、さっさといくよ」


 マリは引きずられるように整備ハンガーをあとにした。



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