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第13話 もたらされた希望

 大音量でなる警報。

 医師の机上方に設置されていた黄色いパトランプが明滅している。

 その真上にあるスピーカーから警告が放たれた。


「世界線γ(ガンマ)との接触が予測されました。

 接触は一時間後。総員、第一種観測配置。

 緋月総司(ひづきそうじ)および精霊サタンは直ちに戦闘準備へ入ってください」


 マリはサタンと総司を交互に見た。

 総司は跳ねるようにベッドから腰をあげた。

 目を半眼にしてスピーカーをねめつける。拳は強く握られていた。

 身体はわずかに震えているように見えた。


「サタン、いくぞ。

 整備ハンガーでデジャイヴァーを出す」

『ったく。ついてないね。

 こんな連続で発生するなんて』


 サタンは腕を組み、豊満な胸を上下させる。

 ベルゼブブに視線を送ったあとマリへと向き合った。


『マリ、あんたも一緒においで。少しでも戦い方を学んでおかないと』


 マリの顔は強張る。

 スカートのすそを握り、足を絡ませ身を縮こませた。

 なんとなく想像はついた。

 きっとまたあのロボットに乗れというのだろう。

 でも、乗りたくない。

 あんなものに乗ったら死んでしまう。

 なにより、いまはパパを捜さなきゃいけない。

 寄り道している暇はない。


「いやよ。あんなロボットもう乗りたくない。

 どうせまた戦うんでしょ。他の人が乗ればいいじゃない」


 サタンは頭をぽりぽりとかき、目を細めてベルゼブブに視線を送った。


『ベルゼブブ、アンタなにも話してないみたいだねぇ……』


 ベルゼブブは鼻をならした。


『単に、時間がなかっただけですよ。マリさんにとってそれどころではなかったので』

 

 サタンは言い返そうと口を開く。

 そのとき、総司の手が伸びてサタンの身体を無理矢理つかんだ。


「その化け物は放っておけ、さっさとハンガーにいくぞ」

『はあ。わかったよ。

 ベルゼブブ、整備ハンガーの場所はここだ。あとでマリを連れてきな』


 サタンが宙に手を差し伸べる。サタンとベルゼブブの間に一瞬光る線が走った。


 『もっと丁寧に!』と叫ぶサタンをぶんぶんと振りながら、総司は医務室をでていった。

 医師も準備があるらしい、「お大事に」といって医務室をあとにした。


 自動ドアが閉まると、マリは、ほっとため息をついた。

 身体の緊張が和らいでいく。

 手をベッドに添える。意外と柔らかい。

 そういえば、医務室にも関わらずアロマの匂いが漂っていた。そんなことに、いまさら気づいた。


 非日常的な出来事が連続でおきて心が張りつめていた。

 もちろん、まだ何も解決してないが、一人になることで少し安心した。

 なお、ベルゼブブはマリの中でカウント外。


『戦った方がいいですよ』


 マリは目をつむって、アロマの匂いに集中する。自然と鼻が、すんすんと動いた。


『豚みたいで可愛らしいですね』

「……人間好きって、絶対ウソだよね」


 ベルゼブブはにやりと笑う。口角が不自然にあがりすぎて、逆に怖かった。


『私、人間大好きですよ。

 なんせ無限の可能性を秘めている。

 存在が確立された精霊では決して到達できないところにいける。

 ああ……素晴らしい』

「表情と言葉のギャップが酷いね……。とにかく、パパを捜すこと優先なの。

 必ず見つけ出す。

 パパを覚えていない他の人なんか頼れないから……。

 あんなロボットに乗っている場合じゃない」


 ベルゼブブは掌をマリに突き出した。


『わからないんですか?

 だからこそ、戦うべきだといっているんです』


 マリは首を傾げた。


「なにをいってるの?」


 ベルゼブブはマリの頭をつんつんとつつく。


『この中、ちゃんと入ってますか?

 戦いの先に、パパさんを取り戻す可能性があるということですよ』


 マリは宙に浮かぶベルゼブブを慌ててつかんだ。


「嘘だったら、ひどいからね。わさび、顔に塗りたくるから」

『私、嘘つかないので。パパさんの話をする前にまずこの世界の状況をご説明しましょう』


 マリは眉をひそめた。

 世界の話なんかどうでもいい、


「そんなことより——」


 マリの言葉を遮ってベルゼブブは、ちっちっちと指を振った。

 普通ならドヤ顔とセットになりそうな仕草だが、生憎とこの精霊は真顔だった。


『パパさんの話をするために必要なんですよ。

 ま、聞いてください。

……大前提としてこの世界はあと一年で終わります』


 世界が終わる?

 マリが想像したのはノストラダムスの大予言。

 現実味がない妄言。

 ベルゼブブが何をいっているのか理解ができず、マリは固まった。


『驚かないんですね?』

「あ、いや。そうじゃなくて、なにいってるの? 世界が終わるって……どういう意味?」

『そのままの意味ですよ。

 西暦六百六十六年十二月三十一日。

 この世界は<虚無の瞳>と名付けられた天使によって喰われて消えます』


 マリは口をぽかんと開けたまま、頭の中で状況を整理しようと試みた。

 しかし、自分のこととして捉えることはできなかった。


「そう……なんだ?」

『あっさりしてますね』

「だって、現実味がないじゃない。

 外国の戦争でこどもが死んだって聞いたら、可哀想だとは思うけど実感なんて湧かないでしょ?」

『……ふむ。ま、いまはそんなものですか。

 <虚無の瞳>と対峙したあとは意識も変わるでしょう』


 ベルゼブブは宙に手を掲げる。

 手の先に光が集まり、形を成していく。

 そこに現れたのは、プラモデル。

 マリが乗った機体——ケルベロスの立体映像だった。

 それともう一つ巨大な目玉の化け物。

 これが<虚無の瞳>だろうか。

 ベルゼブブはケルベロスを指さした。


『世界の終わりを防ぐために在るのがこの人型機動兵器デジャイヴァー。

 そして、デジャイヴァーを顕現けんげんできるのは精霊の宿主だけ。

 マリさん……あなたしかケルベロスに乗ることができないのです』

「ふん。だから乗れって? なりたくてなったわけでもないのに?」

『精霊の宿主は精霊が決めます。

 これだけだと宿主に利点がありません。

 世界を守るために戦う、なんて理想論だけで戦いつづけられる人はまれですからね。

 よって宿主は、戦いの宿命を課せられる代わりに権利を得ます』

「権利?」


 ベルゼブブは映し出されているケルベロスと巨大な目玉の化け物を巧みに動かす。

 ケルベロスが生きているかのように動き回り、巨大な目玉の化け物に、殴る蹴るの猛攻。

 やがて巨大な目玉の化け物は弱り、最後にはケルベロスの拳によって貫かれる。

 ケルベロスは光のベールにつつまれた。


『宿主に与えられるのは——願いを一つ叶える権利。

 <虚無の瞳>を倒したとき、その願いが叶います。

 ただし、精霊の力がおよぶものに限られますが』


 マリの口角がわずかに上がる。

 この話が本当なら、確かにパパを取り戻せるかもしれない。

 ただ、


「信じていいんだよね?」


 ベルゼブブと信頼関係なんてまるで築けていない。

 それでも、可能性を見過ごすことはできない。

 

 ベルゼブブはマリを見つめたあと、しっかりと深くうなずいた。


「わかった。戦ってみる。それがいま、わたしにできる一歩だから。

 けど、戦いがおわったらパパを捜すことも続ける。それでいい?」

『十分です。私なりにパパさん捜しのお手伝いもしますよ』

「ありがとう」


 マリはわずかな希望を胸に、医務室をあとにした。


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