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第9話 夢オチではないみたいだ


 天井に埋め込められた照明。

 ベッドを区切るために用意されたベージュ色の簡素なカーテン。


 神喰(かんじき)マリは、保健室のベッドで目を覚ました。


「……保健室」


 マリのつぶやきに反応したように、女性の声がした。


「あっ。起きたかもしれません。すいません。ちょっと待ってもらっていいですか?」


 女性がカーテンを開いた。

 白衣をきた保健室の先生。年齢は二十代前半。

 ネームプレートには、桐原(きりはら)(あんず)と書かれていた。

 桐原は手にもつ受話器の口を手で押さえながらマリにたずねた。


「大丈夫? ……目の充血は治ったみたいね。頭が痛いとか、身体が動かないとか、他の症状はあるかな?」


 マリはかけられていた布団を外し、身体を起こした。


 着ているのは制服。ルシフェル女学院中学校の白い服だ。

 あのピタリと張りつく白いライダースーツではなかった。


 そして身体の調子を確認した。

 頭は混乱している。

 だが身体のどこにも痛みは感じなかった。


「……大丈夫、みたいです」

「そう。よかったわ。じゃあ……救急車、呼ぶのやめるわね」


 桐原はそういって、受話器に向かって話し出した。


 やがて、がちゃんと電話が切れる音がした。


「さて」


 桐原はベッドの横に座った。


「念のため、確認しときましょう。今の状況はわかる?」

「……よくわかりません」

「そっか。あなたね、教室で気絶したのよ。それを友達が教えてくれたの。えーと」


 桐原は机の上に置いてあったメモに手を伸ばした。


「そうそう。石山さん。彼女と勉強しているとき急に倒れて痙攣し始めたらしいの。わたしが着いた時にはもう治まってたけど」

「どれくらい……気絶してたんですか?」

「えっと」

 

 桐原は腕時計を見た。


「十分くらいね。体に問題はなさそうだったけど、目を覚まさないから救急車を呼ぼうとしてたってわけ」

「十分?……」


 マリは目を点にした。


 たった十分の間に、あれだけの夢をみたなんて思えない。

 巨大なロボットはゲームのように感じたが、肩を貫く痛みは本物だった。


 それにロボットに乗る前に見た白い化け物。

 あんなリアルな怪物の夢を見るわけがない。


 そこまで思い出したところでマリは、はっと気づいた。


 右手。


 あの白い化け物に食べられたはず。

 そういえば、ロボットに乗っているときには右手はあった。


 やはり夢だったのだろうか。


 思考にふけっていたとき、マリの視界の端にきらりと光る線が走る。

 マリはそちらに視線を滑らせた。


「っひああああ!」


 マリは絶叫とともに、外していた布団を手早くよせて隠れた。

 なにやらメモを取っていたらしい桐原はびくりと身体を震わせペンを落とし、マリを見て心配そうにたずねた。


「ど、どうしたの……やっぱりどこか痛む?」


 マリは布団から顔をだし、無言のまま首をふった。

 

「そう……よかったわ。念のためもう少し休んでおきなさい」


 桐原はそういって、ペンを拾ってからカーテンを閉めた。


 横になったマリの視線の先には光る線——銀髪の持ち主がいた。


 体長は約三十センチメートル。

 知った顔でなければ、人形が浮かんでいると勘違いするところだ。 

 アメジスト色の瞳。

 ダークブルーのローブ。


 間違いなく、精霊ベルゼブブだった。

 ベルゼブブが真顔でいった。


『ここ学校ですよね。知ってます。

 小さい人間が大きい人間になるまで入っている保育所。マリさんって何歳なんですか?』


 ベルゼブブは当たり前のようにマリに質問した。


「やっぱり夢じゃなかった!」


 マリはおもわず叫んだ。


 とたんにカーテンが開けられ、桐原が心配そうな顔をのぞかせた。


「ちょっと。本当にだいじょうぶなの?」

「は、はい。ごめんなさい」

「気絶なんて初めてだろうから混乱しちゃったかな? まあ、最近の子は多いから気にしなくていいわよ。始業式なんか誰も倒れない方が珍しいくらいだし」

「あ……ありがとうございます」


 再び閉められたカーテン。

 マリはベルゼブブを手招きする。

 すーっと音もなくベルゼブブがマリの枕の横に立った。


 マリは声を小さくしていった。


「なにがどうなってるの?」


 ベルゼブブは張りついた笑みを作った。


(どうなってるって、何についてですか?)


 マリはいきなり頭の中に響いた声に三回目の叫び声をあげそうになった。

 しかし何とか両手で口をふさぎ、声が漏れるのを防ぐ。

 そのまま小さく声を出した。


「頭の中に声が聞こえるの、なに?」


 ベルゼブブは真顔でぽんと手を打った。


(宿主と話すことが久しぶりだったので説明を忘れていました。

 宿主に精霊が宿ると、魂の回廊がつながります。

 回廊といってもわからないでしょうから、赤い糸がつながったと思ってください。

 糸がつながっている相手とは心に念じるだけで話ができるのですよ。

 糸電話です)


 マリはジト目でベルゼブブをみて、心の中で念じてみた。


(やめてよ。赤い糸なんて。それは運命の人相手に使う言葉でしょ)


(お、マリさんは上手ですね。一発で念話が使えるようになるとは。

 やはり意識を集中させる能力に長けています。ぱちぱち。

 それと赤色がイヤなら、青色にしましょう。私とマリさんは青い糸で結ばれているので念話ができます。

 これでいいですか?)


 マリは両手で顔を覆った。


 なんなんだろうこの人。ふざけているのかな。ぱちぱちって、またいってるし……。


(人じゃないですし、ふざけてもいないですよ)


 マリは指の隙間から鋭くベルゼブブを見た。


(ちょっと、念話って思ったこと全部わかっちゃうの?)

(いえ? マリさんがつなげてたんでしょ。無意識ですか……順応性も高そうですね。ぱちぱちぱち)


 真顔のまま手を叩いているベルゼブブをみて、マリはふんと鼻を鳴らした。

 ためしに、心の中でつながった糸を断ち切るようなイメージを作ってみる。

 やがて、何かが切れたことを感じた。


『お、もうそんなことができますか。この先必要な能力ですからね。早いところ身につけてもらえてなにより』


 ベルゼブブはボリュームを小さくすることなく声をだした。

 マリは慌ててカーテンを見た。


 桐原先生がきちゃう。

 しかも、わたししかいないはずのベッドから響いた男性の声。パニックになりかねない。


 ……。


 予想は裏切られる。

 カーテンは開けられなかった。


 ベルゼブブが不思議そうな声でたずねた。


『マリさんはなんでカーテンを見つめているんですか? なにか変なものでも見えているんですか?』


 見えている変なものはアンタだ、といいたくなるのをこらえてマリはひそひそと話した。


「あなたの声って、わたしにしか聞こえなかったりする?」

『……最初からあなたにしか認識できないように調整していますが』

「……あっ」


 そういえばベルゼブブは、最初に声をだしていた。

 そもそも小さいとはいえ人型のものが浮かんでいるのだ。

 見えているなら桐原がベルゼブブに気づかないはずはなかった。

 

 マリは疑問を感じて聞いた。


「じゃあ、なんで念話にしたの?」

『マリさんが声をださなくてすむように。決まっているでしょう。それ以外なにかありますか?』


 この精霊は余計な一言を加えないと、話すことができないらしい。


 マリはため息をつき、改めてベルゼブブに状況を聞こうとした。


「ねぇ、ベルゼ……」


 がららら!


 ふいに保健室の引戸を乱暴に開く音が聞こえた。



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