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ラポール

 空白の空間に戻ってくる神様の上司。主人公は彼から転生を強要された真の理由を知ることに。

 という訳で神様とその上司が消えた空白の空間にはボクだけが一人残されていた。


 うーん、どうしよう?でも色々あがいた所でここから出られるとも思えないし、とりあえず何か起こるまで待つしかないか。幸い(?)にもボクは死んでるから暑くも寒くもないし、お腹もすかない。我ながら呑気とは思うけど、ここまで来たら気長にやろう。


 それはそうとやっぱり神様、嘘ついてたんだ。「課長」さん、ノルマなんて無いって言ってたし。ヒドいヤツだよなぁ、全く。でもだったら何でボクを転生させたかったのかな?うーん、謎だ。


 しかし「課長」さんが話を聞いてると分かった時のあいつの慌てっぷりは見事だったなぁ。ああいう普段飄々としたタイプは怒らせるとすごくおっかないから、今頃こっぴどく怒られてるんじゃないかな。ちょっといい気味だな。


 そんな事を考えていると、ふいにポコンと音がして、足元にあの「課長」さんの頭が飛び出してきた。そのまま首、次いで両肩がエレベーターに乗ってるように床(?)から垂直にせり出してきて、程なく長身の壮年男性の全身が現れた。


 「や、どーも。お待たせしました、越方遥くん。うちの部下が色々ご迷惑おかけして、本当に申し訳ない。」

 「あ、いえ、大丈夫です。改めてはじめまして。」

 「いえいえこちらこそ、はじめまして。キミ若いのに折り目正しいんだね。結構、結構。」

 「課長」さんはニッコリ笑って、それから急に真剣な顔になると深々と頭を下げた。


 「で、まずはこちらの手違いでキミが命をおとすことになった件について心からお詫びします。場合によっては上に掛け合って、元の世界に戻れるよう交渉してみようと思うんだが、どうかな?ま、同じ体というわけにはいかないと思うけど。」

 「え、本当に!?でも、もういいんです。あの人にも言いましたけど、ボク生きるのがイヤになったんで。」

 「遠慮はしなくていいんだよ。悪いのはこっちなんだから。」

 「いえ、ご心配なく。よく考えてみての事ですから。」

 「そうか、若いのに淡白だねぇ(笑)。まぁ君自身が決めるべき事だからね。」


 ほっ。取り敢えず無理やり転生させられなくてすみそうだ。でもあんなに転生推しだった理由って何なんだろう?


 「それはそうと、あの人、何であんなにボクを転生させたかったんですか?」

 「いや、まぁ、ぶっちゃけ、自分のミスを隠したかったって事らしい。お恥ずかしい限り。」

 というと「課長」さんはまた頭を下げた。

 「そんな、頭を上げてください。あなたが悪い訳じゃないんですから。」

 「いやまぁ管理者に責任てのはついて回るもんだからね。結局責任とるのが1番の仕事なのさ。」

 

 うーん、責任者の鑑って感じの答えだ。個人的に「課長」さんの信頼度大幅アップ(笑)。どっかの国のエラい人たちも見習ってはしいなぁ。あ、感心してる場合じゃないや、話を本題に戻そう。


 「それで理由を詳しく聞かせて貰えますか?」

 「実はね、彼、最近ずっと妙な動きをしてたもんで、気になって裏で色々調べてたんだよねぇ。」

 「妙な動き?」

 「そう、彼の管理する世界では異世界転生の実数が彼の報告した数よりかなり多かったんだ。」

 「異世界転生の数なんて分かるんですか?」

 「異なる世界と時間、これは時空と言い換えてもいい、その間をモノが移動する時は大量のエネルギーが発生する。大体一回のエネルギー量は決まってるから総量が分かれば、発生数はおおよそ見当がつくって寸法さ。」

 「なるほど。そうするとエネルギーの総量が、報告から計算した量より多かった訳ですね。」

 「そゆこと。で、さっきシッポをつかんで、ネタはあがってると言ったら白状したよ。」

 「で、何でそんなに報告数と実数に差があったんですか?」

 「ま、それはキミの事案と同じパターン。要するに彼の管理の不手際で、いままで何十人も人が死んじゃってたって訳。」

 「えっ、ボクだけじゃなかったんだ。」


 やれやれ呆れた。神様というのは全知全能で間違いなどしないものと思ってたんだけど、そうでもないんだ。どの世界でもエラい人が無能だと色々ヒドイ問題が起こるもんだなぁ。だけど何故転生はOKで消滅はダメだったのかな。


 「でも何で彼はボクを転生させたかったんですか?ミスの隠蔽だけなら消滅でも問題なかったでしょ?むしろボクの存在そのものが無くなるんですから、証拠隠滅もできて彼にとっては好都合なんじゃないかと。」

 「その疑問はもっともだ。実は消滅は彼のもってる権限では実行出来ないのさ。魂の消滅ってのは中級神以上でないと決済不可能なんだよ。」

 「異世界転生は大丈夫なんですか?」

 「異世界転生は生きる世界は変わるけど魂自体は増減しないからね。一応彼のような下級神でも実行可能なのさ。ま、上への報告は必要だけどね。しかし消滅はそうはいかない。」

 「つまりボクが転生しない場合、上司、つまりあなたに申請しなきゃならないと。」

 「そういうこと。申請すりゃあ当然奴さんのミスがオープンになる。そうすれば以前の事例についても、芋づる式に露見すると考えたんだろうね。」


 そんな単純な事だったのか。しかし自分のミスでボクを殺しておいて、そのミスを隠す為にボクを転生させようとか、そんな都合の良い話があるもんか。なんか改めてムカついてきたぞ。ボクの表情を見てとったらしい「課長」さんはこう続けた。


 「いや、キミが腹をたてるのもごもっとも。我々としても曲がりなりにも神の立場でそれだけの手違いを起こした者を『てへぺろ』で済ますわけにはいかない。神というシステムの信頼性に関わる大変な不祥事だからね。

 そんな訳で上は彼の神籍を剥奪した上で、下界へ落とすことにしたんだ。もちろん神としての能力も剥奪してね。いわばキミ達人間や他の生き物のように輪廻の苦労を身をもって一から学ばせるという矯正プログラムってとこかな。

 天界に戻れる道も全く無いわけじゃ無いけど、あくまで本人の努力次第…ま、ハードルは高いから正直難しいだろうけどね。どう?少しは溜飲が下がったかな?」


 正直いえば腹に据えかねる所はあるけど、この人を困らせるのは本意じゃないなぁ。どうせ消滅する積もりだし、穏当な返事を返すのが大人の対応だよね。


 「どうするのが適切なのかボクは分からないですけど、エラい神様たちがそう判断されたのなら異存は無いです。」

 「そうかい。そういって貰えるとこちらとしても正直ありがたい。上の連中も胸をなで下ろすんじゃないかな。」

 「もうこれで今後ボクみたいな目に合う人がいなくなるのならそれで良いです。」

 「取り敢えずそうあって欲しいんだけど、まぁ、いろんな神がいるからね。」


 「課長」さんは苦笑いしながら続けた。


 「もちろん今回の件については本人の処分だけじゃなく、不正を防ぐための組織改革もセットになってるよ。上級神院直轄で独立した権限を持つ監査室を新設して、今まで各エリア内で行っていた業務監査を一括で行うことになるそうだ。それはそれで穴はあるだろうけど、変わらないよりは大分ましだろうね。」

 「大分ましですか。万全とは言わないんですね。」

 「現場の事情を考えれば軽々にそんな事は言えないわな。結局は組織やシステムはヒトが運用するわけだから。仏作って何とやらってね。」


 あぁ、これってストレートな本音なんだろうな。上辺だけ取り繕うんじゃなくて、包み隠さずに話してくれるのも好感もてるな、この人。


 「その意識を神界の皆さんが共有されていれば、きっと大丈夫ですよ。」

 「ま、そういって貰えるとちょっとはオレの肩の荷も下りるってもんだね。」


 「課長」さんは凝りをほぐすように首を左右に振り、右肩をグルグル回したあと、ニッコリ笑ってこう続けた。


 「ところで越方遥くん。」

 「はい、何でしょう?」

 「やっぱり…消滅したい?」

 「ええ、また別の命をもらっても、なんか生きる希望とか見えないんですよ。うーん、自信がないっていうか、ボクなんか生きていても仕方ないって思っちゃうんです。」

 「ま、気持ちは分からんでもないなぁ。あ、いや、実はね、悪いとは思ったけど、キミの事ちょっと調べさせて貰ったよ。ご両親は典型的な『毒親』で、上司はモラハラでパワハラ。周りで手を差しのべてくれる者もいないし、他人の尻ぬぐいの為に残業続きで過労死寸前。いやはや大変な人生だったね。」

 

 そういいながら「課長」さんが浮かべた真底気の毒そうな表情を見た瞬間、ボクの目からは涙がこぼれていた。


 「ど、どうしたんだろ、ボク…おかしいな。」

 「いや、辛かったろうね。この際だから泣くだけ泣いて、全部はき出したらいい。こんなオッサンでよけりゃ話ぐらいは聴くさ。」


 それからボクはつっかえつっかえ今まで生きてきて辛かった事、その時思っていた事を洗いざらい「課長」さんに話した。この人なら話しても大丈夫だと思ったから。延々と続くボクの話を、時たま合いの手を入れつつ、「課長」さんはただただ静かに聴いてくれた。

 

 どれくらい時間が流れたんだろう。こんなに人と話を、しかも自分の話をしたことはなかった。もう何も思いつかないという所まで話して、何だか自分の心がすっきりと軽くなったような気がした。


 「初対面なのに長々といろいろ愚痴っちゃってすいませんでした。」

 「いやいやトラウマを思い出さないかと気にしていたんだが、随分すっきりした顔になったね。結構、結構。」

 「ええ、これで思い残す事なく消滅できそうです。」

 「いや、改めてそのことなんだけどね。キミさ、ウチで働く気ない?」

 「え?それって…どういうことですか?」

 「まぁ、ぶっちゃけ神様にならない?ってこと(笑)」

 「えーーーーーーっ!!」(続)

 タイトルの「ラポール」は心理学用語でカウンセラーとクライアントの信頼関係をさします。元々はフランス語で「橋を架ける」という意味の言葉で、心が通じあい、相手を受け入れている状態を示しているそうです。主人公と中級神の関係性を一言で表したくて使ってみました。このお話、次がエンディングになります。28日に投稿しますので宜しくお願いします。

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