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第三のキャスト

 主人公に異世界転生をしつこく勧める神様。彼が語るその理由とは?そして突然現れた第三の男は物語に何をもたらすのか?今回もお目通し頂ければ幸いです。

 神様が新たな転生の提案を繰り出し、ボクがそれを却下する。そんな応酬を何度も何度も繰り返し、果てのない平行線のまま、どれくらいの時間が過ぎたんだろう?神様の顔には疲れの色が濃くなっていた。


 額にはじっとり汗がにじみ、鬢はほつれ、ゼイゼイと肩で息をしている。条件の良い転生先も、もういい加減ネタ切れじゃないの?このままじゃ、どうどう巡りだなぁ、と思っていたボクの心に、今さらながらある疑問が浮かんだ。


 「あのう。」

 「はい?あ、やっと転生する気になった!?」

 「いや、そうじゃないんですけど。」

 「ガクッー!!じゃ何なの?」

 「神様はなんでそんなにボクを転生させたいんですか?こんなにしつこく転生を勧めるなんて変です。何か特別な理由でもあるんですか?」

 「そ、それは…」


 神様は後ろめたそうに目をそらした。これは何かあるぞ。


 「神様、このままじゃどうどう巡りで埒もあかないですし、その理由を正直に話してくれませんか?場合によっては異世界転生考えてみてもいいかなぁと…。」


 こんなに必死なんだから、のっぴきならない事情があるのかも知れない。例えばボクが転生しないと元の世界に何か不都合が起こるとか。万一くだらない理由だったら断ればいいよね。


 「えーっ?ほ、ホント?いやーっ、神様、仏様、遥様!!話します、話しますとも!!」


 神様は急に元気を取り戻して、今まで見せたことのない最大級の笑顔で答えた。でも嬉しいからって急に下の名前で呼ばないで欲しい。妙な馴れ馴れしさに違和感を感じ、ボクの中に一抹の不安がよぎる。これは一応釘を刺しておかないとマズいかも。


 「で、でもとりあえず話を聞くだけですよ。判断するのはそれからで。」

 「大丈夫、大丈夫!わかってるって!」


 なんか調子良すぎない?やっぱり心配だなぁ。


 「ホント?」

 「ホント!」

 「ホントにホント??」

 「ホントにホント!!」

 「ホントにホントにホント???」

 「ホントにホントにホント!!!」

 「んー、分かりました!じゃ、正直に話して下さいね。」

 「うんうん、話す話す!なんなら100回くらい(笑)。」

 「いや、そんなに話さないでいいですから!」


 はぁ、何だかなこの人(神様だけど)…ホントに大丈夫なのかな。不安だなぁ。


 と、その時、神様の背後の中空に突然人の顔が現れた。面長でオールバックの壮年のオジサンがニヤニヤ笑っている。「飄々とした」という形容詞がピッタリの表情だ。続けて人差し指をたてた右手が音も無く現れ、すーっと口許に移動する。と、オジサンは「しーっ」とでも言うように口をとがらせ、呆気にとられてるボクに悪戯っぽくウィンクした。


 神様には内緒にしろって事かな?それにしても誰なんだろ、この人?悪い人ではなさそうだけど。


 幸いにも(?)神様はオジサンに全く気がついてない様子で、ボクを転生させたい理由を話し始めた。


 「じ、実はですね、私たち神には異世界転生のノルマがあるんですよ。で、うちの上司は厳しい人で常にプレッシャーかけてくるんですよ。下界でいうパワハラってヤツですかね。」

 「え、神様にノルマがあるんですか?オマケにパワハラ上司とか、何か他人ごとじゃない気がしてきたなぁ。」

 「この世には沢山の世界がありますから、それを一人で全部管理するなんてとても出来ません。だから私のような現場の担当者や、上司の中間管理職、そのまた上司の役員とかがいるんですよ。

 で、うちの上司、パワハラな上に自分のノルマも私に押し付けてきまして、本当に困ってるんですよ。」


 その瞬間、神様の後ろのオジサンの左の眉毛がピクッと動いた。眉間にシワもよってこめかみには血管が浮いてきている。これは怒ってるよぉ(汗)しーらないっと。でも神様は気付く様子もなく話し続けた。


 「君もパワハラで苦労してたみたいだし、この大変さ分かってくれるでしょ?人助け、いや神助けと思ってさ、転生して下さいよ。ね、この通り、お願いしますよ。」


 まぁ、それがホントなら気の毒とは思うけど…。でも世界全体に関わる事が理由かと思ったら何か個人的すぎない?大体、元々この人の手違いで命を落としたボクが、どうしてその人の個人的なノルマのために、したくもない転生をしなきゃならないんだろう?筋が通ってないよね。


 「ほらほら、正直に話したんだから、さっさと転生してくれるよね。」

 「え、えっ。それは、ちょっと…だってまだそうと決めたわけじゃ…だいたいですね…」


 その時、神様の後ろに浮かんだ顔がふいに口を開いた。そのとぼけたような声色には静かだが疑いようのない怒気がこめられていた。


 「ふーん、誰がパワハラ上司だって?」

 「ギクーーーッ!!」


 その声を聞いたとたん神様は真っ青になって跳び上がり、そしてゆっくりと振り返った。


 「か、課長!?い、いらしたんですか?い、い、い、いつから?」

 「え、さっきから(笑)。さて、よっこらしょと。」


 掛け声とともに顔と右手だけだった「課長」さんの全身がパッと現れた。三つ揃いのスーツにネクタイ。戸籍係氏の短躯とは対照的に背はすらっと高い。ちょっと猫背だけど、結構肩幅はガッチリしてて、そこはかとなく切れ者っぽさを感じさせる。


 「お前ね、言うに事欠いて誰がパワハラ上司だって?」

 「あ、いや、それは、その、違うんですっ。」

 「何がどう違うの?全くノルマがどうとかいい加減な事言っちゃって!まぁいいや、話はこっちで聞くから、ほれ!」


 とっさに逃げ出そうとする神様。しかし一足早く「課長」さんにワイシャツの襟首をつかまれ、脚払いをされて仰向けにすっころんだ。


 「開けゴマ!」


 神様の首根っこをつかんだまま「課長」さんがそう叫ぶと、突如として空白の空間に城門のような巨大なドアが現れ、音もなく開いた。内側を覗き込むと、そこには無限とも思える深さをたたえた暗黒が広がっていた。「課長」さんは神様をズルズル引きずってそのままドアの中へと入っていった。


 「ひぇー、か、課長、お、お許しを。ごめんなさい、ごめんなさーい…」


 神様は声を上げ、短い手足をジタバタさせて暴れていたが、底無し沼に沈むようにドアの中の暗黒にズブズブと呑まれてゆく。


 「た、助けて…」


 暗黒の表面から突き出された右手が二、三回虚しく空をつかんだと思うと、ポンと音がして彼の姿は全て暗闇の中にかき消えた。そして二人を飲み込んだ巨大なドアは音もたてずにその扉を閉じたかと思うと手品のように一瞬で消失した。


 こうして空白の空間にボク一人が取り残され、辺りには静寂だけが広がった。(続)

 いかがだったでしょうか?取り敢えずこの物語の登場人物はこの3人だけです。実は神様は落語家林家こぶ平氏(現、正蔵氏の若かりし頃)、その上司は「機動警察パトレイバー」の後藤隊長のイメージをそれぞれ元にしてます。ご存知の方はそれぞれの声を頭の中で再生しつつ読んで頂くのも一興かと。第3パートは26日アップの予定です。宜しくお願いします。

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