異世界転生?小説の続きが気になるのでお断りします
パッとした思いつきでパパパーと書いた作品だからちょっとあらすじ詐欺かも。
街中に響くサイレンの音。
それに反応するかのように騒めく人々。
その目先には道路で倒れている1人の少年だ。
歳は14〜15歳ほどで近くの学校の制服を着ている。時刻はすでに夕方なので部活帰りなのだろう。
つい先刻までは熱のある体だったソレにすでに熱はなく冷えている。
そう少年は死んだのだ。
車に轢かれて。
少年は自らが車に轢かれる際察した。
自分は助からない。なすすべなく死ぬのだと。
そして重く体全体に響くような痛みを受けると同時に彼は思った。
(そういえば明日、続刊が出るんだっけ)
と。
*
少年の意識は死というものを受けてなお消えはしなかった。
「……………」
眠るより深くしかしながら浅くも感じる死から目を覚まし周りを見ると、そこは白の地平線だった。
見渡す限り全てが白に染まっており感覚が麻痺したのかと思えるほどだ。
(これは神の領域、いわゆる転生ルームというやつか?)
そんな状況でありながら少年は異様に落ち着いていた。
それもそのはず。少年は生粋の異世界系ライトノベル中毒者なのである。
読書の間に読書を掲げる彼は暇さえあればライトノベルを読み、暇がなければweb小説を読んでいた。
そしてその内容のほとんどは異世界転生や異世界召喚、中には異世界と現実の融合や主人公自体が世界の一つになるなんてものも読んでいた。
この世に生まれて十数年。彼が読んだ異世界もののシリーズ数は三桁を軽々と突破しており、もうじき四桁に入りそうな勢いである。
だからかこのような白い空間の登場には慣れており、あとは女神様なり老人神なりロリババァ神なりが出てきてチートなりスキルなり与えてくれるのだろうという予測もできる。
一応奈落の底とも言える迷宮に転送されるとかなんて考えてもいるが、その場合は神の黒い笑みが見えた時だったり転生者オークションをしている時が多いのでその時はその時だと考えている。
そんなことを考えているとコツコツと足音が聞こえてくる。
音のする方を向いてみれば階段から誰かが降りてくる。
(いや神なら浮遊とか転移とかできるでしょ。というかそもそもこういう場合、最初からいるでしょ。こう「こちらの手違いで死なせてしまい申し訳ございません」みたいな)
降りてきたのはそこそこ薄着の女性だ。
異世界もののシスターが来ている服の装甲を削減した感じだ。
そして肉体の方だがやはり人間味が少ない。
イラストやフィギュアと比べると人間らしさというものを感じられるが、人間であると思えないのは彼女が女神であるせいか、はたまたその完璧とも言える美貌のせいであるかは見当もつかない。
『不運なことでしたね。あなたは本来まだ生きられる筈であったのに……』
少年にかけられるのは哀れみの言葉だ。
哀れみ100%の言葉である。
「……あー、ああ〜……そうなんですか?」
『ええ、本来であればあなたは―あなた方の言葉に合わせるのならば―後85年ほど生きられました』
「そうですか……」
『それにあなたは不当な理由でいじめを受けていたそうですね』
少年は学校でいじめを受けていた。
しかし今の時代暴行などは大きな問題になる。かといって上履きに釘を入れるなんて漫画でありそうなものも論外である。
彼が受けていたのは精神的ないじめ。いわゆる罵倒や挑発といったものである。分かりやすく言えば「キモオタ!」みたいな感じだ。
(……いじめ?僕はそんなことをされていたのか?」
しかしながら少年にはいじめを受けていたという実感はなかった。
それもそのはず。少年は異世界もの以外の現実に対して一切の興味を持っていなかったのだ!
どれくらいかといえば、「食事や睡眠をするのは万全な状態で読書をする為」と言い切るくらい。
「……僕、いじめ受けてたんですか?」
『それすらも気づけない状況にあったのですね』
しかし女神は少年の異常性に気づかず、そういう環境にあったのだろうと判断した。
『……何か望みはありますか?』
故に定石がくる。
こうなると大きく分けて2つのパターンに分かれる。
生き返らせて欲しいと願う者達と異世界に行きたいと望む者達だ。
前者については女神にとっては分かるものであり、後者は最近になって増えてきた少し謎な願いだ。
しかし女神である彼女にとって異世界に飛ばすことなど生き返らせることよりも簡単な為、まぁいいだろう程度の感情しか持っていない。
『最近の人間は異世界に行きたがる人が多いですね。それにスキル?やチート?というものを求める人なんかも。中には神を連れ去った人もいました』
多分最後の人間はショック死したニートで、連れ去られた神は水の女神(笑)だろう。
『あなたは外見から見てもこの願いを言う者達と近い年齢なのでしょう。さぁあなたの願いは何ですか?』
「――生き返らせてください」
…………………………
『いま、なんと?』
「転生とか召喚とか異世界とかスキルとかチートとか無双とかハーレムとか成り上がりとか冒険者とか勇者とか魔王とか賢者とか建国とか神殺しとか世界征服とか俺TUEEEEとかどうでもいいんで生き返らせてください。そんなもんより本の続きの方が重要です」
そう、この少年、あくまでも異世界系ライトノベルやweb小説が好きなだけであり、実際にそういうことをしたいだなんて一度も思ったことは無いのだ。むしろ面倒くさいと思っている。
ファンタジーにそういう考え方をするなと言われるかもしれないが、例えば【痛覚無効】というスキルがあった場合、そのスキルを獲得している者は痛覚、つまり痛みを一切感じなくなるのである。しかしながらそれは痛みを感じなくなっただけで実際に怪我はするという意味にもなる。
そして痛みは生存するためには必須の感覚である。
過程だが【痛覚無効】を持っている者が視覚や嗅覚、聴覚といったものを認識する器官を封じられた際に怪我を負った時痛みを感じず傷ができたということに気づきにくくなる。部位欠損した場合は重さの変化で気付くだろうが、小さな擦り傷を身体中につけられたら出血して死ぬだろう。
今回は【痛覚無効】というスキルものでは有りがちなものを使用したが、そもそもな話異世界に行ったところで強いのはスキルやその体であり、本人はさして強くないのだ。
強さとは経験を重ねた上で得ていくものだと考えている少年にとって神や世界から授けられたスキルや体は先端的な強さであるが、本人に支えこなせる技量があるかどうかと言われれば……といった感じである。
もちろんちゃんと子供の頃から教育を受け使いこなせるようになるのは納得がいくが、転移した途端パッと使いこなせるのはおかしい。
インストールとかされてもそれは知識が入ってくるだけで実際に使えるかどうかは別である。
まぁそんな考え方をしている上、小説の続きが気になるという理由から少年は転生などしたくないのだ。
『……なるほど異世界でもあなたがいた世界の本を読めるようにすれば良いのですね』
しかし女神は今までの先客達の影響を受けているのか、異世界でも少年のいた世界の本を読みたいと勘違いしたのだ。
さらには――
『ご安心を。少し時間はかかりますが先の未来の分もすぐに読めるようにしますよ』
「違う!そうじゃない!!いいか!読書ってのはな――」
そうではないのだ。
少年にとって次巻や次話が発売、更新されるまでの間にここが良かったしかしここは好みじゃない、次はどうなるのか、あのキャラはどんなイラストなのか、どれくらいの厚さなのか、あの作者はいつ復帰するのかなんてことを考えるも読書の上で重要な行為であり、未来の分を入れられるというのは少し喜ばしい面ではあるが納得できないのである。
だから少年はクドクドクドクドそのことを長ったらしく女神に伝えた。
そしてその女神は涙目であり、死んだ目をしている。
少年がこの白い空間でクドクドして、女神がチーンとし始めてから人間の単位で数刻経った時、少年の体がパッと消えた。
女神は狂気のようなナニカから解放された、と思ったがこの空間では転生か移魂か消魂するまでその人物が消えることはない。
しかし女神はその全てを命じていない。
どういうことだと思った女神はすぐさま確認を取り始めた。
時々死者を奪いとって眷属にしたり、こちら側の勘違いで願いを聞く工程を幾度も繰り返す場合がある。女神が行っているのはその確認である。
幾らかな時間を使い調べたが少年は発見できなかった。
そんな時女神にふとした記憶が浮かんだ。
少年の記憶を覗いた際にいた手持ちの異能を持っている人間のことだ。彼らは神の手を借りずに世界を渡ったりしているらしい。
女神は少年もその類なのではと考え調べ始めた。
女神は2つの勘違いをしていた。
1つは手持ちの異能を持つ人間は少年の記憶にはあるが、あくまではそれも小説のキャラクター達であること。そしてもう1つは異世界に飛ばすことなど生き返らせることよりも簡単ではあるが生き返らせることが出来ないわけではないという思い込みをしていたことだ。
だから女神は気づかない。
調べている端に生きた体で小説を読んでいる少年の姿を……