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たけどら演劇脚本シリーズ

黄色い線の、内側に

実はこの作品は完成形でないプロトタイプです。

本当のこの作品はもっと沢山の方の意見を取り入れてちゃんとしてるものに仕上がっているのですが、この場に乗せるのは止めておきます。

「黄色い線の、内側に」(仮)

作 六六


七夢野 真昼…ナナムヤ マヒル、男

梶原 黄夜見…カジワラ キヨミ、女

ジク…女

レイ…男

アコ…女

ロン…男

マヤ…キヨミと同じ役者

(これら六人の主要メンバーは役かぶり不可。もし採用して頂ければ衣装や持ち物は考えます)


高田駅利用者A

高田駅利用者B

高田駅利用者C

高田駅利用者D…女


祭客A

祭客B

祭客C (セリフなし)

祭客D (セリフなし)

(浴衣着用)


高田駅アナウンス

未知列車アナウンス

マヒルの親

(この三人役は声のみ)


照明

音響


※主要メンバー6人、モブ(役かぶり、声役含む)5人、裏方2人、計13人




~あらすじ~


一年前の7月16日、恋仲寸前だった梶原黄夜見が電車に轢かれて死んだことでショックを受けた、高校生の七夢野真昼。真昼は黄夜見がいない日々を捨てるため、丁度一年経った今日に、自殺することを決意していた。しかし命を絶とうとした瞬間、真昼は謎の列車の警笛を聞き、その世界へと導かれる。未知なる世界へ旅立つ列車、未知列車。次の駅は過去か未来か異世界か。




※ほぼ描写されませんが、基本的な舞台は高田町という田舎町です。

※高田町、高田駅、高田祭の名前は変更可能です。

※列車の外観はお客さんには見えません。内装のセットはありの方がいいです。

※メインテーマやBGMは私のオススメです。変更、削除共に大丈夫です。

※チーン=お店とかにあるアレです。

※走行中BGM=ガタンゴトンです。

※少し多いので、多少カットが必要になると思います。

※BGMが未定の部分があります。





1 あの日の踏切


ひぐらしの鳴き声の後、幕が上がる。

夜になりかけの夕方。BGM『』。

幕が上がる途中から、マヒルとキヨミは二人で踏切の方まで歩いてくる。


マヒル「……もう高校生になっちまったのに、お前は昔からずっと変わらねーよな」

キヨミ「やっぱり車種はアーバンライナーかしまかぜが格好いいかなー」

マヒル「あ、くそ……どんな見た目か忘れちまったな。まったく、電車をお前に語らせると本当にキリがないからな……」

キヨミ「へーんだ、好きなもんは好きなんですもーん」

マヒル「ん……ちょっと、待て。そのセリフ、もっかい言ってくれないか」

キヨミ「んー? あっ、さてはきゅんとしちゃったかな?」

マヒル「うるせぇなっ! 知ってるくせによ!」

キヨミ「それならさっさとあたしに告白しちゃえばいいのに?」

マヒル「う、うるせぇ。まだ心の準備がだな」


二人は小突き合いながらも楽しそう。


キヨミ「そう言えばマヒルってさ、何か好きなもんないの? ほらほらー、あたし以外でさ」

マヒル「お前絶対楽しんでるだろ……好きなもの、か」

キヨミ「あたしは電車が大好き! ギラギラ光る車体に情報を寸分狂いなく伝える電光掲示板、発車メロディー、プシューって音、ガタンゴトン! 全部最高! ……で、マヒルは何が好きなの? あたし以外で」

マヒル「いちいち付け足すなっつーの。そんで、お前が電車好きなのは1000回は聞かされた。……好きなものって言われても、なんか、いまいち思い浮かばない。博愛主義でないにしても……これ! ってのが、ねーんだよな」

キヨミ「マヒルはガリガリ君のソーダ好きだったじゃん? あたしもソーダは好きだよ。変な味とか色々あるけど、やっぱり原点にして頂点だよね」

マヒル「好きだけど……やっぱりこれ! じゃねーんだよな……」

キヨミ「ふーん……」


しばらく気まずそうに沈黙。


キヨミ「……ねぇ、すごい綺麗だよ、空。星が1億個くらいあって、月の光が優しくて、ふかーい青が貼り付いてる。あんなところを電車が走ってくれたらいいのにね」

マヒル「銀河鉄道じゃねーんだから……まぁ、確かに夢ではあるよな。実現したら、キヨミは即効乗るんだろ?」

キヨミ「……多分ね! それにしても、マヒルの苗字に、確か『夢』って漢字あったよね。夢を持ったら、時々すっごく切なくなるけど、すっごく熱くなる時もあるんだって、知ってた?」

マヒル「めっちゃ話飛んだな! 確かにあるけど!」

キヨミ「七夢野真昼……ふふ、カッコいい名前だよね」

マヒル「ごめんもっかい言って」

キヨミ「あははっ、はい引っ掛かったー」


マヒルは恥ずかしそうに顔を俯かせる。

BGMストップ。

踏切が鳴り出す。


キヨミ「……あ、じゃあ、あたしはこっちだから」

マヒル「お、おう……また明日な」

キヨミ「うん……あの、ね。マヒル」

マヒル「……? なんだよ」

キヨミ「お祭り……高田祭。二人で…………行こっか」

マヒル「……?? え、え、え、それって、もしかして、まさか」

キヨミ「うんー、まぁー、初めてのデート? になるのかなぁ」


マヒル土下座。


マヒル「ありがとうございます梶原黄夜見様!!」

キヨミ「付き合ってもないのに大袈裟! 道のど真ん中よ!?」

マヒル「付き合ってても土下座は大袈裟だと思う!!」

キヨミ「なんかツッコミが逆転してる! もうっ……」


キヨミはおもむろに黄色いリストバンドを差し出す。


キヨミ「……はい、これ、渡しとくから」

マヒル「え、何でリストバンド?」

キヨミ「リストバンドじゃなくて、黄色いことに注目して欲しいかな」

マヒル「黄色……?」

キヨミ「キヨミのキは黄色の黄でしょ? 約束、忘れられたら困るし、あたしを思い出せるように貸しとくから。ちゃんとデートするまではお風呂にまで持ち出すこと」

マヒル「祭りデート出来るとはいえ条件が地味にキツイ! ……風呂は勘弁してくれだけど、わかったよ、付けるって」

キヨミ「ふふ、いつか返しに来い、立派な海賊になって」

マヒル「ならねぇよ!」


キヨミはゆっくり、踏切の側まで歩いていく。

マヒルは不審感を覚える。


マヒル「あれ、お前の帰り道、こっちだろ……?」

キヨミ「ん、えっと、今日は家に帰れないんだ」

マヒル「家に帰れないって、どういう…………!?」


キヨミは踏切のバーを乗り越え、マヒルは驚愕。


マヒル「お、おい、何馬鹿な真似してんだっ! 早くそこから離れろ! 死ぬぞっ!」

キヨミ「ごめんマヒル。あたし、しばらくマヒルと会えないや」

マヒル「何言って……! デートは! 祭の約束はどうするんだよ!」

キヨミ「ごめんね。ちょっと、お預けで」


申し訳なさそうに手を合わせるキヨミ。


マヒル「ふざけんなっ! キヨミ! キヨミ!!」

キヨミ「いつかまた、未来でね」


キヨミ、儚げな笑顔で手を弱々しく振る。


マヒル「キヨミ―――! あああああああああ!!」


電車の警笛。踏切の音がやけにうるさく感じる。

マヒルが絶叫しているなか、その瞬間で辺りは暗闇に変わる。

未知列車の警笛が聞こえる。



2 マヒルのモノローグ


朝の10時頃、目覚まし時計がうるさく響く中照明がつく。

マヒルは無言で目覚めしを止め、大きく伸び。

マヒルは身支度を始める。

マヒルの心の語りが聞こえてくる。


(梶原黄夜見は、丁度一年前の7月16日に自殺した。葬式には、俺は行かなかった。そういう気分じゃなかったし、なぜか両親にも行くなと止められた。あの日以来、俺は心にポッカリと穴が開いてしまったようだった。後悔の塊が俺を押し潰し、そしてみるみるうちに高校には行かなくなり……祭りなんてもってのほか。花火を見るのも嫌になった。というか、そもそも夏が嫌いになった。あのトラウマが、夏を思うと甦る。リストバンドはカバンに入れっぱなしだし……結局なぜキヨミが自殺したのかは、俺はわからずじまいだった。あの日、キヨミが言っていた言葉が頭に浮かぶ。『いつかまた、未来でね』。あの言葉の意味は、一年経った今でも、わからない)


マヒルはカバンからリストバンドを取り出して眺め、ため息をついてそれを戻す。郵便を確認しにいく。

手紙を持って部屋に戻る。マヒルの声が響く。


(――俺は、あの日から一年経った今日、2019年の7月16日に、自殺を決心していた。しかもあいつが大好きだった電車で死のうと、だ。あの日から、俺は日々に楽しみを見い出せなくなった。それはキヨミがいなくなったからだとわかっていたし、これからキヨミが生き返ることもない。だから、通勤ラッシュからずらして目覚まし時計をセットして、最近やり方を忘れ始めた身支度なんかして、最寄りの高田駅に向かおうとして。……そして、しばらく家から出ていなかった俺が外出するときの言い訳は、ずっと前から決めていた)


マヒルは身支度を終える。


マヒル「行ってきます。……いって、くる」

親の声「え、マヒル? ……どこ、行くの?」

マヒル「……ちょっと、デートしてくる」


親を振り切るように家を飛び出す。

メインテーマ『ClimaxJump』が流れ始め、高田駅利用者たち(高田駅アナウンス除くモブ4人)が音楽でノリノリになりながら自室のセットを運び出し、駅のホームのセットを運んできて設置。設置し終えたら持ち場に戻り、座るなり新聞読むなり。



3 電車が参ります


マヒルは駅に到着。

『高田』と書かれた看板が設置してある。

他の利用客をすり抜けて、ベンチに腰掛ける。座ると電車の接近メロディー。


高田駅アナウンス「まもなく、66番線に電車が参ります」


マヒルは驚いて立ち上がる。


(※アナウンスネタ、短縮可)


マヒル「え、は!? この駅66番線なんかないんですけど! 2番線までなんすけど!」

高田駅アナウンス「あ……あー、間違えましたー。1番線に電車が参ります」

マヒル「どうやったらそこまで間違うんだよ! ていうかどんな都会だ! いや都会でも66番線なんかないわ!」

高田駅アナウンス「黄色い線の内側に下がってお待ち下さい」

マヒル「切り替えがプロレベル!」


電車の接近メロディー。

マヒルは椅子に腰掛ける。

電車が到着し、ドアが開く。


高田駅アナウンス「高田、高田でございます。おわすれもにょ……お忘れもにょにょにゃいよ……にゃいようお気をつけ下さいにゃん!」

マヒル「噛むなよ! そして噛んだことを受け入れつつ取り入れるな! それでもプロか!?」

高田駅アナウンス「さっきからうるせぇなこの野郎死ね」

マヒル「素に戻った!? 口悪っ!」

高田駅アナウンス「1番線の電車の扉が閉まります、ご注意下さい」

マヒル「切り替えが、プロレベルッ!」


電車の扉が閉まる。

発車メロディーが流れ、電車は発進。


マヒル「くそ……死に損ねた」

高田駅アナウンス「ぴんぽんぱんぽん! ぽっぽーぅ、午後12時をお知らせしまーすっ」

マヒル「お前のアナウンスにはもううんざりだ! ……はん、言われずとも死んでやるよ。キヨミがいない人生は、つまらない。決心が鈍らない内に、きっと死ぬさ。……この切符も、もういらねーな」


マヒルは駅に入るのに使った切符をビリビリに破いて捨てる。


高田駅アナウンス「The train is now approaching. Please stand behind the yellow line」

マヒル「マイクの前でドヤ顔してるだろ絶対!」

高田駅アナウンス「まもなく1番線を電車が通過します。この駅には停まりませんので、黄色い線の内側に、下がってお待ち下さい」


マヒルはわざとらしく舌打ちしてため息。

マヒルは黄色い線を眺めている。


マヒル「……黄色、ね」


耳なりのような効果音。

不意にキヨミの声が聞こえる。

マヒルは頭を抱えて苦しそうにもがく。


キヨミの声『ねぇマヒル、黄色い線って――』

マヒル「……!? はぁ、はぁっ!? なん、だ? どうなってる? あっ……!?」

高田駅アナウンス「まもなく1番線を電車が通過致します」

マヒル「く、はぁ、はぁ……!」

高田駅アナウンス「この駅には停まりませんので」

マヒル「ぐ、あっ……!」


高田駅アナウンスがぼんやりと聞こえる。


高田駅アナウンス『黄色い線の内側に、下がってお待ち下さい』

キヨミの声『ねぇ、マヒル、黄色い線って、結局――』

マヒル「ウ、あ、やバ、い……これは、マズイ…………」


電車の接近メロディーが鳴り響く。

マヒルは立ち上がり、耳鳴りを聞きながらふらふらとバランスを崩す。そしてそのままホームへと落下、うつ伏せになる。


高田駅利用者A「なっ!? おい、人が線路に落ちたぞ!」

高田駅利用者B「は、早く引き上げろ!」

高田駅利用者C「駄目だ間に合わない!」

高田駅利用者D「きゃ――――っ!!」


接近メロディー、電車の警笛。

マヒルはよろよろと体を電車に向ける。

女性利用者の悲鳴の中、突然全ての音が消え、暗闇になる。


マヒル「あ……はは、俺の人生、終わった」


未知列車の接近メロディー。


ジクのマイク「まもなく七夢野真昼さんのもとへ、現地時刻12時7分発車予定、未知列車が参ります。危ないですから、どうかそのままの状態でお待ち下さいっ!」


未知列車の警笛。



4 軸のズレた世界


暗転が晴れると、さっきと変わらない場所、変わらない姿勢のマヒルの前にジクが立っている。

明かりは先程よりも暗く、高田駅利用者は時間が止まっている。


ジク「やあどうも、こんにちはっ! あなたが七夢野真昼さん、でよろしいですね?」

マヒル「お、おい……どうなってる? 何が、どうなって……俺は線路に身を投げたはずだ。けど……なんか、周りが変だし、お前、誰だよ」

ジク「私ですか? 私はX軸Y軸Z軸のジクと申します! ちなみに漢字じゃなくてカタカタです。この未知列車の車掌を務めております」


決めポーズを決めるジクにマヒルはぽかーんとしている。

ジクは慌てて手を横に振る。


ジク「あ、すみません。X、Yと言ったら、Zも言いたくなるんですよね……わかりません?」

マヒル「……わ、かんねぇな。なんか、争点がズレてる気が。……なぁ、教えてくれよ。何がどうなってる? えっと、車掌さん……?」


BGM『夢の時間旅行』。


ジク「お気軽にジクとお呼びください。ですが、まずは状況の説明からですね。おほん、突然ですが、あなたはこの未知列車に乗り込む資格を得ました、おめでとうございます! ぱちぱちぱち」

マヒル「み、みち、れっしゃ……?」

ジク「そうです、未知なる世界へ旅立つ列車、その名も未知列車! 次の駅は過去か未来か異世界か……。はい、これどうぞ。未知列車に乗るために必要な、マヒルさん専用のフリーチケットです!」

マヒル「フリー、チケット……?」

ジク「えーと、まぁ乗り放題券みたいなもんです。それにしても、先程は随分フラフラされてましたね。まるで11月、樹木から散り行く可哀想な枯れ葉の様でした。この世界のこの地域は、確か今は7月のはずでしたけど。大丈夫ですか?」

マヒル「え? あぁー……うん、大丈夫だけど。確かに、頭が揺れてたみたいで。……あれ、なんであんなに足がふらついたんだったっけ……」

ジク「まぁ、今お元気なら何よりです。……さぁ、どうぞご乗車下さい!」

マヒル「いや、そんな急にご乗車って言われても………うぇ!?」


マヒルはぽかんとしていたが、すぐそこに現れている未知列車を見て驚く。


マヒル「なんだこれ!? こんな電車見たことない……!」

ジク「そりゃそうですよー、だって未知の列車ですもん。そのフリーチケットなしでは認知することさえできません。さて、大体飲み込めたと思うので、お早めにご乗車下さい。ダイヤがズレてしまいますので」


にっこり笑って電車に乗るよう促すジク。

しばらく沈黙の後、マヒルが叫ぶ。


マヒル「い、いやいやいや待て待て待て! 何もかもがさっぱりだ! いいか、この電車と俺に何の関係がある!? だいたい、俺は今から死ぬんだってところだったんだよ! 余計なところで引き留めてんじゃねぇ!」

ジク「……あっ! 待ってください!」


BGMストップ。


マヒルは逃げようとするも、ジクに阻止される。

反対側に逃げようとするが、またジクに阻止される。

また反対、反対、反対と繰り返して、ぴょんぴょんしたり変な動きをしたりしてマヒルはジクを振り切ろうとする。

(※この動きは省略可)


最後にジクは指をぱちんと鳴らし、マヒルの動きを止める。


マヒル「がっ!? なに、が……!?」

ジク「手荒な行いをお許しください。まぁ、未知列車の車掌ともなればこれくらいのことはできるのです。詳しくは中でお話しますので、どうかご乗車ください。お願いします」


ジクはマヒルの正面に行き、頭を下げる。

そしてマヒルが転けないように支えた状態で指を鳴らし、時を戻す。


マヒル「……わかったよ、乗りゃいいんだろ乗りゃ」

ジク「あ、折れた! ご協力、感謝しますっ!」


ジクは可能な限り可愛く感謝を伝え、決めポーズ。

マヒルはくるりと振り返って帰ろうとする。


マヒル「ごめんやっぱやめとくわ」

ジク「ご、ごめんなさいっ!」


暗転。走行中BGM (ガタンゴトン)フェードイン。



5 Welcome to 未知列車!


走行中BGMは継続中。

未知列車のセット運び込み。

車内放送の効果音。


未知列車アナウンス「ご乗車ありがとうございます。未知列車は現地時刻12時7分に2019年7月16日『高田』を予定通り発車しました。行き先が定まるまで、しばらくお待ち下さい」


運び込みが終わったら、未知列車の警笛と共に明るくなる。

マヒルとジクは座って話している。


マヒル「……つまりお前は、俺にどうして欲しいんだ」

ジク「はい、自殺するのをやめて欲しいのです!」

マヒル「……そりゃ無理な相談だな。俺が自殺を止める可能性は……ゼロだ。いくらこんな超常現象見せつけられたって、この気持ちからは動かねーよ」

ジク「考え直しましょうよー、そのために未知列車はマヒルさんの世界の駅を訪ねて、チケットだって発行したんですから。生きていればきっと良いことあります。だから……!」


マヒルは軽く物を叩いて威嚇。


ジク「うっ……」

マヒル「だから、変わらねーつってるだろ。色んな時代を巡って自殺しようとした人を説得してるってのは、確かにこの(辺りを見渡す)未知列車とやらがやるべきことだろうがな。残念ながら俺は無理だ。意見は変えない。断られたのも、これが最初じゃねぇだろ?」

ジク「……まぁ、はい」

マヒル「だろ?」

ジク「け、けど! 亡くなってしまう人に、この列車でのエクストリームでインフィニティーでアルティメットな旅を最後にプレゼントすることはできます! こっちは百発百中なんですから!」


ジクはキリッと決めポーズ。


マヒル「どんな旅だよ。……旅、か。まぁそっちなら好きにしてくれ。珍しいのは確かだしな」


ジクは突然立ち上がって、ニヤニヤしながら近くにあったチーンを鳴らす。

車内放送の効果音。


未知列車アナウンス「分岐点、分岐点です。少し揺れますのでご注意下さい」


少しだけ走行中BGM大きくする。

二人はちょっと揺れる。BGM元に戻す。

ジクはノリノリで未知列車について語る。


ジク「未知なる世界へ旅立つ列車、未知列車。次の駅は過去か未来か異世界か。……この未知列車ならば、時間、空間、世界をいとも容易く飛び越えることができます。自殺を思い留まって貰えないのは非常に残念ではありますが、今ならこの列車の行き先はあなたの思いのままです。本能寺の変の真相を解き明かしてみましょうか? iPhone20とか見に行きます? それとも魔法が発達した平行世界に科学技術の風を吹かせましょうか? 選択権を行使せよ、です、マヒルさん!」

マヒル「いや、突然そんなことを言われてもだなジク……」

ジク「あ、今名前で呼びましたか? 汚らわしいです!」

マヒル「どこが!? 名前で呼べって言ったのそっちだろ!」

ジク「行き先を思い付かない様ですね! それではいくつか取って置きの駅がありますのでご案内しましょう!」

マヒル「無視かよ! はん、そりゃ楽しみだな!」

ジク「えへ、お楽しみ頂けそうなら車掌冥利に尽きるというものです!」

マヒル「はん、そーかい……ところで、それが終わったら俺はどうなる? 線路に落ちる前に戻るのか?」

ジク「……いえ、落ちた後です。しかも、電車に轢かれて体がバラバラになる直前。あなたは未知列車の力で、一時的に死の運命から逃れているに過ぎません。言わば、未知列車の影響下にある人物は普通の時間からは切り離されているのです。マヒルさんの場合、電車に轢かれる直前に時間から切り離されました。つまり普通の時間に戻った瞬間、あなたは死ぬというわけです。自殺を思い留まってくれれば、私が時間に干渉して助かるよう設定できるんですが……」

マヒル「……大体わかった。ああ、それでいい。戻った瞬間に死ねるなら手間が省けていいな」

ジク「……そんなの、悲しいじゃないですか」

マヒル「ふーん……俺が死んでも悲しいのか?」

ジク「そうですよ! それに私以外だって……!」


ジクを遮り、声が聞こえる。

奥の車両からレイとアコが揉み合いながら現れる。

アコは品物を乗せたカートを引いていた。

BGM『不運な良太郎』。


レイ「だーかーらー、お客が乗ってるから静かにしろっつっんだろーがこの! 馬鹿野郎! こらっ、離せ!」

アコ「わあああん! だって! 2000年の駅に降りたら千の桁が2になる瞬間味わえるんだよ!? 3000年とか、1000年の世紀越えはしょうもなかったしさー! お願い、未知列車寄せてよー!」

レイ「だーもう、鬱陶しいな! お前は、甘い! さっきから言ってるがな、お客がいる時点でもう俺の操縦は効かないんだよ! わかったらとっととはーなーせっ!」

アコ「そこをなんとかああああ!」


マヒルとジク、呆然と眺めている。


レイとアコ「……あ」

ジク「何いちゃいちゃしてるんです、レイさんとアコさん?」

レイ「ジク! あ、いや、これは……」

アコ「アコがね、2000年の駅に寄りたいって言ったら拒否られたの」

レイ「当たり前だろ、今は仕事中だ! この列車には今、大切なお役目があるんだよ!」

ジク「アコさん、今回は離してあげてください。今はレイさんの言うとおり、大事な仕事中ですので……」

アコ「えぇー……あれ、そこにいる人って、もしかして」

ジク「はい、七夢野真昼さんといいます。お客様です」

アコ「あーやっぱりー、見たことない人だなぁって思ったんだー! 車内販売のアコでーす! それで、こっちにいるのが運転手のレイ! ちょっと荒っぽいけど許したげてね」

レイ「誰が荒っぽいって……!?」


ジク、二人をなだめながらマヒルを向く。


ジク「今言ったように、この未知列車の乗務員二人、運転手のレイと車内販売のアコです。とっても仲良しなので、早くくっつけたいですね」(にこっ)

マヒル「な、なるほど……」

レイとアコ「違う!」

マヒル「ん、てか運転手がこんな客車にいたらマズイだろ。操縦できてねーじゃねーか」

レイ「お前……マヒルだったか? マヒル野郎は未知列車の技術を舐めすぎだ。運転手は行き先を決めるくらいのもんで、後はほぼ勝手に操縦されるんだよ。……そこに関しちゃ、今はマヒル野郎の言いなりってこった」

マヒル「おい、そのマヒル野郎ってのを止めろ、今すぐに」

レイ「あだ名みたいなもんさ、気にすんなよ」

ジク「レイさん、次の行き先はごにょごにょ」

レイ「……了解」

アコ「マヒル野郎って呼び方ださい! アコならもっといいあだ名付けれるよ! レイってほんとセンスないよねー」


レイは苛立ってチーンを押すが上手く響かない。


アコ「駄目ですよレイさん、無駄に力入れちゃ!」

レイ「くっそ腹立つわぁ……!」


今度こそ鳴らす。


未知列車アナウンス「お待たせしました、次の駅が決定されました。行き先は直前までシークレットとなっております。到着時はアナウンス致しますので、未知列車の旅をお楽しみください」


レイ「……うし、俺は食堂車を見てくるかね」

アコ「あー! ほんとに無愛想なんだからーっ」

レイ「勝手に言いやがれ」


レイ、食堂車に向かってはける。

BGMストップ。走行中BGM。

ジクは先程から時計を見てそわそわしていた。


ジク「……うん、そろそろですかね」

マヒル「どうした?」

ジク「マヒルさん、お腹空きません?」

マヒル「え、まぁ……確かに腹は減ってるかも……昼飯も食ってないし」

ジク「マヒルさん、目瞑っててください。うーん、というか……えいっ!」


ジクはマヒルを目隠しし、暗転。


マヒル「うわっ!? なに、なになに、なんだ!?」

ジク「はい、どうぞ!」


目隠し外す、明るくなる。


マヒル「……!? これって!」

ジク「えへへ……マヒルさんの旅が決定した瞬間に急いでレイさんに(チーン鳴らす)作ってもらいました! 一つ目の駅へに到着するまで、心置き無く味わってください!」

マヒル「え、それで注文してたの!?」


レイが料理を持って戻ってくる。


レイ「改めて未知列車にようこそ。しっかり食え。ちなみにこれは俺の手製だから米粒一つ残すなマヒル野郎」

マヒル「おお……レイ、で合ってるか? ありがとう」

レイ「名前で呼ぶなマヒル野郎!」

マヒル「反応が心に刺さる! ……うおっ」

アコ「ハッピーバースデイ! はい、お近づきの切符とコーラ! お金は取りませーん」

マヒル「俺の誕生日今日じゃねぇよ。ありがとう……アコ、でいいか?」

アコ「いいよ! これからちょっとだけだけど、よろしくね、マヒルン!」


一斉にしんとして、未知列車警笛。


マヒル「…………マヒルンって、俺??」


暗転。

走行中BGM継続中。



6 チケット&インフォメーション


明るくなる。マヒル、苦しげに車両に入ってくる。


マヒル「うっ……さすがに食い過ぎたわ……気持ち悪……」


マヒルは近くにあった椅子に座ってお腹を擦る。


マヒル「全く、レイがあれだけ料理出来るなんて思わなかった……。盛り付け凄かったし、ハンバーグの中にチーズ入ってたし。運転手辞めればいいのに。……それくらい、あいつの料理は絶品だった。そうだ、凄く美味かったよ。……だか、だがな、だがよジク」


お腹をぱんぱんに膨らませたジク、のっそのっそとやって来る。


マヒル「そこまで食うのぉ!?」

ジク「えへ、食べすぎちゃいました」

マヒル「食べすぎたの次元がそれかよ! お前の腹は四次元ポケットか!」

ジク「大丈夫ですよー、これくらいでへばってたら、未知列車の車掌は務まりません…………う"っ」

マヒル「ほらあああああ!」


ジク大慌てで反対側へ。

そこから奇妙な音が聞こえてくる。


マヒル「ジク――――!」


ジク、普通の体型になり、お腹を擦って戻ってくる。


ジク「げぷ……見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした……。レイさんは普段から鍛えてますから……料理がとっても美味しくて……」

マヒル「いや、別にいいけどさ……」

ジク「何という寛大さ。私、感服しました」

マヒル「どんな基準だよ」

ジク「ですので……これを差し上げましょう!」

マヒル「ん……これってさっきアコから貰ったやつと同じだよな……ほら」

ジク「ええ。この切符は緑色ですから、信頼できたり、一緒にいて楽しいと思える相手に渡すのです。あの、お恥ずかしい限りなんですが、私は名前を呼んでくれた時点で渡そうと思ってたんです。タイミング逃しただけなんです。どうか許してください。お願いしますマヒル様」

マヒル「謝罪が重い! ……そんなに意味があるもんなのか? この、切符ってのは」

ジク「えっと、実はマヒルさんがいた世界のように何かの代わりとか、そういう意味を持つ切符は、未知列車では珍しいものなのです。切符は未知列車内のマナーと言いますか、風習と言いますか……とにかくこれは緑色なので、信頼や承認を表します。他にも色々な切符があるんですよ。もし紫の切符を渡されたら、もうその人とは会わない方が良いですね」

マヒル「怖っ……そう言えばレイからは貰ってなかったな。まぁ、あいつは仕方ないと思うけど……」

ジク「いえ、それならレイさんから預かってますよ。料理美味しそうに食べてくれたから嬉しかった、渡しといてくれって。はい、どうぞ」

マヒル「いやツンデレかよっ!」


ドアが開いて(効果音)、ロンが入ってくる。


ロン「……むっ、これはまた見ない顔だな」

ジク「あっ、ロンさんじゃないですか! 今回の旅も良いものとなりそうですか?」

ロン「まぁな。未知列車の旅は実に興味深いものだ。その方が、今回のお客さんかな? 確か、高田という駅から乗ってきた」

ジク「そうです。マヒルさん、未知列車にはマヒルさんの様なお客様以外にも、お客様の行き先を見届けることを生き甲斐とする方……常連さんがいらっしゃるのです。この方が、他人が決める行き先をじろじろ眺めて心底楽しそうにニヤニヤするのが趣味のロンさんです!」

ロン「人聞き悪いな! 私の評価を勝手に下げないで頂きたい……」

ジク「おほん、失礼致しました」

マヒル「えっと、ロン……でいいのか?」

ロン「マヒル君と言ったな。いかにも、私がロンである。ニヤニヤはしない、じろじろはする!」

マヒル「するのかよ! ……えっと、よろしくな。……っと、渡せる緑の切符は持ってないんだ、すまん」

ロン「構わない。代わりに君にこの切符をやろう」

マヒル「……オレンジの切符?」

ジク「オレンジの切符は出会いに感謝する、の意味ですね」

マヒル「へぇ、なるほど」


マヒル、軽く会釈。


ロン「そうだ、気にしてほしかった理由を忘れていたぞ。実は、さっきあっちの車両で見かけない顔を見てな……何者かと尋ねれば、どうやらマヒル君と同じ世界から乗ってきらしい。一応、伝えておいた方がいいかと思ってな」

マヒル「俺と同じ世界……?」

ジク「先程も言いました通り、この未知列車は魔法が発達した世界、とある国が消滅している世界など、様々な平行世界をも越えることができるのです。そしてワールドコードN753315……マヒルさんを乗せた世界からも、未知列車に乗ることが趣味の方がおられます。挨拶されてみてはどうですか?」

マヒル「へぇ……そういうもんなのか。……わかった、行ってくる。駅に近付いたらアナウンスが鳴るんだよな?」

ジク「ええ」

マヒル「そっか。じゃあまた後で……ロンも、ありがとな」

ロン「全くもって構わない」


マヒルが向こうの車両へ歩いていくと、ロンが呼び止める。

するとマヒルは振り替える。


ロン「……マヒル君。その人と、沢山話しておきなさい」

マヒル「……おう、わかった」


マヒルは首を傾げるが了承。

暗転。走行中BGM継続中。



7 私をデートに連れてって


スポットライトがマヒルを照らす。何やら考え事をしている。


マヒル「この未知列車に乗り込んで、何となく理解したことがある。それはこの未知列車が本物だってことだ。あの時周りの時が止まったのをこの目で見たし、ドッキリにしては余りにもセットが豪華すぎる。だからこれから過去に行こうが未来に行こうが、異世界に行ったって俺はもう何に対しても驚かないつもりでいた……だってんのに……」


スポットライトが消え、全体が明るくなる。

キヨミらしき人物が本を読んでいる。


マヒル「なんで、キヨミがこの列車に乗ってるんだ……? あいつはあの時死んだはずだろ。仮にあの日に死んでなかったとしても……おかしい。なんで、キヨミが……?」


キヨミ?「……先程からあなたは人の読書を盗み見て、何をぶつぶつ言っているのでしょう?」

マヒル「ひっ……やば、声までそっくりだ……!」

キヨミ?「お話したいなら、私の近くまで寄ればいいではないですか。ゾクゾクします、気持ち悪いです」

マヒル「……? あっ……はい」


マヒルは違和感を拭えないままキヨミ?の側へ。


キヨミ?「じろじろ盗み見なんておかしなことをする人ですね。そんなにこの本が気になるのですか?」

マヒル「いや、そういうんじゃない、んだ。……すまん、あんたの名前は?」

キヨミ?「私はマヤという者です。この未知列車の……常連と説明したらわかるかしら? そしてあなたが気にされていたこの本は『世界列車超全集』というもので…………」


マヒル、たたたっとマヤから離れる。

マヤの声聞こえなくなる。

暗転、スポットライトつく。


マヒル「マヤ!? やっぱり別人!? 雰囲気と一人称がキヨミとまるで違う! 見た目そっくりなのに!? 未知列車こえぇー……!」


明るくなる。


マヤ「ちょっと、聞こえてますか? 無視されたら困ります。……ねぇ、じろじろさん。あなたのお名前は?」

マヒル「ロンみたいに言うな! 俺はマヒル、七夢野真昼だよ!」

マヤ「そうですか。では、マヒマヒさん」

マヒル「じろじろとマヒルが混ざったのか!? 魚!?」

マヤ「マヒマヒさんは太平洋から……いえ、私と同じ世界から乗ってきたんですよね」

マヒル「普通に大地からですけど?」

マヤ「そしてマヒマヒさんは今回のお客さんなんでしょう? だったら、私も一緒に駅へ連れていって貰えないかしら」

マヒル「連れてくって……この列車に乗ってりゃいいだろ、そしたら行き先もわかる」

マヤ「いえ、駅についたらしばらく列車は停止しているのです。提案なのですが、その時に二人で行動させては貰えませんか?」

マヒル「え……まぁ、別にいいけど……」

マヤ「良かった、ありがとうございます。実は私、こういう時どういう行き先が決定されるのか研究していて……本人との関わりも調べたかったんです」

マヒル「へぇー……そういうもんなのね」


レイ、眠そうに現れて指差し確認。


レイ「安全確認よーし……」


チーンを鳴らす。車内放送の効果音。

レイははける。


未知列車アナウンス「お待たせしました。2068年3月28日『ホビースクエア』、『ホビースクエア』でございます」


未知列車到着メロディー。


マヤ「さっそくですね。ホビースクエアですか……ホビースクエアといえば、かの有名な遊園地『ホビースクエアパーク』が近くにありますよ。いよいよ旅の始まりですね、マヒマヒさん」

マヒル「……遊園地、ね」

マヤ「どうかされましたか?」

マヒル「いーや。……なぁ、マヤって」

マヤ「はい?」

マヒル「梶原黄夜見って人、知ってるか?」

マヤ「……いえ、知らないですね」

マヒル「そっか……ありがとな」


ドアが開く音。

マヒルとマヤは駅に出ていく。暗転はしない。



8 未知列車による未知なる列車の旅


BGM『特急デンライナー』が流れ、アナウンス以外は無言で場面を展開していく。


マヒルとマヤが出ていくと、逆側からジク、レイ、アコ、ロンが出てきて仲良さそうに喋り、軽くわちゃわちゃ。戻ってきたマヒルとマヤはどこか打ち解けた様子。マヤは赤の切符をマヒルに差し出そうとするが、間違えたことに気づいて慌ててしまう。マヒルは緑の切符を受けとる。

レイがチーンを鳴らす。


未知列車アナウンス「まもなく2112年2月26日『カッパー水族館前』です」


マヒルは軽く考える素振りを見せつつも、マヤと4人に手を振って出ていく。ジク率いる四人組は振り返し、また楽しそうにしている。チーンを鳴らす素振りをしたり、料理をしたり、隠し芸を披露したり。無言シーンはアドリブ要素強め。戻ってきたマヒルは水族館に居たおかしな魚を身振り手振りで表現する。マヤはそんなマヒルを見て嬉しそう。

レイがチーンを鳴らす。


未知列車アナウンス「まもなく2003年6月6日『映画広場』です」


マヒルは自分の仮説が正しい確証を得る。マヤはあまり気づいていない様子。ジクはそんなマヒルを見て頷き返す。マヒルとマヤは出ていく。四人組はアドリブで暴れまわる。戻ってきたマヤはロマンチストになっており、映画で見たヒロインになりきる。一同苦笑。

レイがチーンを鳴らそうとするがみんなが押したがってごちゃごちゃ、最終的にアコが押す。


未知列車アナウンス「まもなく2000年1月1日……」


レイがアコをしばく。レイが改めてチーンを鳴らす。


未知列車アナウンス「まもなく1998年8月7日『珈琲三丁目』です」


マヒルはマヤを見て物思いげな顔をして、彼女と出ていく。レイは一瞬はけ、コーヒーを注いで持ってくる。ジクはロンに耳打ちをし、アコを引っ張って急ぎ目にはけていく。

レイとロンはコーヒーを飲んでテンションがおかしくなる。


レイ「はっはっはははは! コーヒーうんめぇぇぇ!!」


BGMストップ。

暗転。



9 キヨミのプロローグ


走行中BGM。舞台にはマヒルとマヤ。

焦っているレイが舞台を横断し、それについていくアコ。二人がはける直前にレイがチーンを鳴らす。

車内放送の効果音。


未知列車アナウンス「次は終点、2018年7月20日『高田祭』、『高田祭』でございます。この次は出発点、2019年7月16日『高田』へと戻ります」


マヤ「……いよいよ、終点です。この後、あなたは亡くなってしまうのですね……なんだか寂しくなってしまいます、マヒマヒさん」

マヒル「……凄い、楽しかったな。マヤにあんな一面があったとは知らなかった」

マヤ「あ、いや、あれは映画館で飲んだドリンクが美味しくて、ついテンションが上がってしまって……恥ずかしい、かも」

マヒル「……『マヤ』にあんな一面があるとは、知らなかった」

マヤ「……」

マヒル「だけどな、俺はそういう一面を持ってるやつを他に知ってるんだ」

マヤ「……マヒマヒ、さん」

マヒル「遊園地で絶叫系に乗らないって言い張ったり、水族館ではやけに変な魚が好きだったり、ロマンチックな映画見てちょっぴり気まずくなったからテンションで誤魔化そうとしたり、カフェ通りではコーヒーよりも紅茶飲もうとしたり……約束の祭に行こうとしたり。あいつは、一年前は確か、全体的にそういうやつだった。……こんなのはまるで、デートだ」

マヤ「それは……その」

マヒル「マヤ……いや、キヨミ。どうしてここに居るのかだとか、何で正体を隠してたのかとかは知らねぇ。けど、残念だったな。俺の目は、絶対に誤魔化せない。特にお前に対してはな」

キヨミ「……バレちゃったか。あたし隠し事下手なの知ってるでしょ。……手加減してよ、マヒル」


キヨミはマヒルから離れて背を向ける。

ドアが開く音、ロンが入ってくる。


ロン「一部始終は聞かせて貰った。マヤの正体に気づいたようだな、マヒル君」

マヒル「ロン……」

ロン「今ジク、レイ、アコは事情により忙しい。なので私からマヒル君に種明かし的なことをしようと思う。いいね、キヨミちゃん」

キヨミ「……うん」

マヒル「キヨミ……」

ロン「駅まで時間がないから一気に言う、よく聞くんだ。君はキヨミちゃんがいない日々に絶望し、自殺しようとした。しかし、キヨミちゃんは何もあの日……2018年7月16日に、自殺で死んだわけではない」

マヒル「え……どういうことだよ」

ロン「キヨミちゃんは、もともとマヒル君が死ぬのを目撃した時から1日前に、病気で死ぬ運命にあったのだ」

マヒル「病気!? そんなこと……キヨミは一度も」

ロン「随分重いもので、もう助からなかった。君には心配をかけたくなかったろうし、だから葬式に行くのを君のご両親は止めたんだろう。……しかし、そんなキヨミちゃんにも人生に悔いがあった。最後の希望と言ってもいいかもしれない。……『七夢野真昼とデートに行く』ことである」


マヒルは驚く、キヨミは黙って俯いている。


ロン「彼女は病気で死ぬ直前、それを強く願った。そんな思いが奇跡を起こしたと言って良いだろうか、未知列車を呼び寄せたのだ。ジクは、マヒル君にもそうだったように、優しかった。迷惑がることなくキヨミちゃんの話を聞いてやっていた。そしてキヨミちゃんは……七夢野真昼が自身の不在で心を壊し、一年後に自殺することを知る。彼女はジクに頼み込んだ。一度でいいからマヒルとデートさせてくれ、と」

マヒル「……」

ロン「ジクは了承した。一年後マヒル君が自殺しようとした時、レイやアコと共に機会を作ってあげるから頑張って、とな。デートが出来そうな駅をわざわざ列車の倉庫から探したりもしていた。……そして赤の切符で1日だけ寿命を伸ばしてやり、デートの約束を取り付けることを成功させた。その代わり、それが終わったら電車が通る直前の踏切に入ること、という条件付きだがな。電車に轢かれる直前に未知列車に乗り込ませるためだ。そうでないと、死の辻褄が合わなくなる」

マヒル「……」

ロン「そうすることで、一年後のマヒル君と約束したデートができるという寸法だ。つまり、この件を終えたら彼女は電車に轢かれる直前の時間に巻き戻され、死ぬ。今度こそ本当にだ。もともと病気で死ぬ運命が定まっていたため、助けることもできない」

マヒル「……俺は、みんなに騙されてたってことかよ」

ロン「すまなかった。君には言わないでくれと、散々聞かされたものだからな。……キヨミちゃん、少し席を外してくれないか。ここからは、男の話し合いだ」

キヨミ「……わかった。マヒル、また後でね」


キヨミ手を振って車両から出ていく。


ロン「……さて、まだ説明していない謎が一つあったね」

マヒル「……キヨミは、なんで正体を隠してたんだ?」

ロン「何故正体を隠していたか、その答はただ一つ。キヨミちゃんは、大切な君に生きていて欲しかったからだ」

マヒル「……!」

ロン「本物の梶原黄夜見としてマヒル君の前に現れれば、確かに君は喜ぶだろうが、同時に悲しむ。キヨミちゃんが死ぬことが既に決まっているからだ。自殺を決意していた君には随分重い状況になったろう。だから、君が生きてくれるよう他人の立場から説得する必要があった。……終点の高田祭で、そして病気になどかかっていない赤の他人として。……まぁ、もうその必要はないようだ。君は生きることに希望を見い出し始めている」

マヒル「……」

ロン「黙っていても、マヒル君の台詞ではないが、私の目は誤魔化せない。そうだろう? 君は私たちとの会話、レイが作る食事、アコの奇想天外な行動、ジクの慇懃無礼さ、そしてマヤとの旅を心から楽しんでいた! わからないわけないがないだろう。君は初めて私と会ったときよりも、ずっと綺麗に笑っていたぞ!」

マヒル「……あぁそうだよ! 俺は、楽しかった! 何の色も見えなかった人生が、一年ぶりに楽しかった。キヨミがいなくたって……この世界が楽しかったさ。これだけ綺麗に世界が見えるのに……このまま死ぬのは、もったいない気がしてきた。俺は、生きたい。生きたくなった」

ロン「英断である。……だが、キヨミちゃんの作戦はそれで終わりではない。そして君も、やるべきことがあるだろう?」

マヒル「……それは、どういう?」

ロン「男がしてはいけないことが二つある。食べ物を粗末にすることと、女の子を泣かせることだ」


ロンはマヒルに緑の切符を握らせる。


マヒル「緑の、切符……」


レイとアコが焦り気味で出てくる。


アコ「はぁ、はぁ……! 間に合った! マヒルン、キヨミンの事気付いたんだね! それでこそ男! カッコいいよー!」

レイ「そんなこと言ってる場合か! いいかマヒル野郎、よく聞け。もうすぐ終点、2018年の『高田祭』に到着する。お前はキヨミの悔いを果たしてやれ! 名実ともに最後の邂逅だからな。……そしてお前の悔いも、最後まできちんと果たせ」


レイはマヒルの肩に手を置く。マヒルはハッとした顔。


レイ「……しっかり決めてこいよ、マヒル野郎」


レイは急いで立ち去っていく。ロンも頷いてレイと立ち去る。


マヒル「キヨミの悔いと、俺の悔い……」

アコ「マヒルン!!」

マヒル「ぐわっ!?」


アコはマヒルの肩に手を置いてグワングワンと揺らす。そして頭を撫でる。


アコ「マヒルンならきちんと伝えられる! アコは精一杯応援してるからね! ホントだよ! マヒルンファイトーッ!」


アコはレイとロンに続いて出ていく。


マヒル「……伝えられる。応援してる」

ジク「マヒルさーんっ!」


ジク、走ってきてマヒルにぶつかってこける。ジクも慌てている。


ジク「キヨミさんのこと、隠していて申し訳ありませんでした。キヨミさんにすっごい頼み込まれちゃったんです。あんなに真剣にお願いされたら、私断れないタイプなので……えへへ。あ、いや、そんな場合じゃないです! もうまもなく、アナウンスが……!」


車内放送の効果音。


未知列車アナウンス「終点、2018年7月20日『高田祭』『高田祭』です。停車時間は10分程です」

ジク「というわけです! ですので、降りたらもうすぐくらいでバシッと決めちゃって下さい! 短い間しか話してませんけど、私、マヒルさんならやり遂げられるって信じてますから!」

マヒル「うおっ……」


ジクはマヒルのカバン奪って漁り、黄色いリストバンドを取り出して付けさせる。


ジク「未知列車の車掌ともなれば、それの在りかくらいわかります。……頑張ってくださいね」


ジクはレイ、ロン、アコに続いて出ていく。

マヒルは呻いたりじたばた足踏みしたり頭を抱えてぐるぐるしたりするが、決心を固める。


マヒル「……うぅ、あぁもう! 仕方ねぇなぁ! やってやろうじゃねぇーか! なんかいける気がする! 心の準備なら、できた!!」

未知列車アナウンス「ドアが開きます、ご注意下さい」


到着メロディー、ドアが開く音。暗転。



10 お前以外なんて


『高田祭』と書かれた駅の看板が設置してある。

真ん中にマヒルとキヨミが座っている。

周りは祭客(未知列車アナウンス除くモブ4人)で賑わう。


キヨミ「……色々隠してて、ごめんね。ホントはあたしから説得するつもりだったんだけど、流石マヒルってとこ? 自分で自分を説得できるなんて凄いよ」

マヒル「……死んだらきっと、みんなの声も、キヨミの笑顔も思い出せなくなる。それが怖くなっただけだ」

キヨミ「そうだよね……死ぬのは、怖いよ。あたしが病気で死ぬことも黙ってたりして、ごめん。マヒルに心配かけたくなかったんだ」

マヒル「い、いや……気にしてねーし」

キヨミ「嘘だ、そんなこと。だって自殺までしようとするんだもん」

マヒル「うっ……」

キヨミ「でもデートすっごい楽しかったなー。このまま死んでも後悔ないかも。未知列車の人たちに感謝だね」


キヨミはマヒルのリストバンドを手にとって弄る。

祭客一旦はける。


キヨミ「このリストバンド……さては今まで付けてなかったなぁ?」

マヒル「……ごめん、正直つける気になれなかったというか」

キヨミ「でも今はつけてるよね。勇気、やっと出たの? あたしが大好きなま、ひ、る、君?」

マヒル「……な、なぁ! キヨミ……っ」

キヨミ「あたしは」

マヒル「……」

キヨミ「あたしはね、マヒルのことが好きだよ。話しやすくて、ボケに突っ込んでくれて、優しくて、誰よりも他人の心配をしてくれるマヒルが好き。……あー、言った言った! はい、もうこれで人生に悔いなんてこれっぽっちもありませーん」


キヨミは言い切ってニヤニヤしている。


キヨミ「それで、マヒルは何が好きなの? ……あたし以外で」


マヒルはテンパって立ち上がる。


マヒル「う、うるせぇ! ご、ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ! わかったいいさ、俺も言ってやる。もうどうなっても知るか! 一年前の俺の後悔の根源、ばっきばきにぶっ壊してやる!(大きく息を吸う)俺は……俺は、キヨミが、好きだ! ……お前以外なんて、どうやったって考えられねぇんだよ!!」


言い切ると同時に花火が上がる。

花火効果音。BGM『優しい心』。

祭客再び入ってくる。


祭客A「あれ? こんな時間に花火あったっけ?」

祭客B「きれーだなー……!」


マヒルとキヨミは驚き、そしてキヨミは笑う。


キヨミ「ふふ、よく言えました」

マヒル「……」

キヨミ「ねぇマヒル、駅のホームで、黄色い線の内側にお下がりくださいってあるでしょ。黄色い線って、結局どっちが内側なんだと思う?」

マヒル「そりゃ……より電車から遠い方、か?」

キヨミ「あたしは幸せがある方が内側だと思うの。例えるなら、幸せの色は黄色かなって思ったから。ほら、黄色と線ってベストマッチでしょ? 運命の赤い糸があるなら、幸せの黄色い線があってもいいじゃない!」


キヨミはマヒルがリストバンドをつけている手を見せつけるようにして強引に握る。


マヒル「いや、よく分からねぇし結局どっちだよ……」

キヨミ「ふふ、さぁね。……あたし、電車の次に花火が好きなんだ。マヒルも好き?」

マヒル「……ああ、好きに決まってるじゃねぇか」


暗転。走行中BGM流し始める。



11 Re:あの日の踏切


明るくなると同時に車内放送の効果音。

舞台(未知列車)にはマヒル、キヨミ、ジク、レイ、アコ、ロン。未知列車勢は少し疲れている様子。


未知列車アナウンス「2018年7月16日『高田町踏切』『高田町踏切』です。梶原黄夜見様は、お忘れ物のないよう、注意してお降りください。フリーチケットを車掌に返却致しますよう、お願いします」


キヨミ「ん……はい」

ジク「フリーチケット、確かに受けとりました。……この券は、後程に失効とさせて頂きます」

キヨミ「わかった。……みんなで協力して花火上げてくれたんだよね。ありがとう。すごい嬉しかったよ」

マヒル「それでさっきはあんなに慌ててたのか……」

ジク「はい、花火上げるのってわりと重労働でした……」

アコ「アコは力ないからほとんどレイに押し付けたけどね!」

レイ「マヒル野郎が決めた直後に上がるように調整すんの超しんどかったぜ……!」

ロン「私は種明かし役になれとジクに懇願された!」


四人組、思い思いに決めポーズ。


アコ「おほん、モノマネやりまーす! ……お前以外なんて考えられねぇんだよっ……きゃーっ!」


アコはジク、レイ、ロンから総攻撃をくらう。

マヒルは超恥ずかしがる、キヨミは苦笑。

(※モノマネのくだりカット可)


キヨミ「マヒル、ちょっとこっち来て」

マヒル「なんだよ」

キヨミ「私がいなくなってからも、生きてくれる?」

マヒル「……ああ、気が変わった。生きるさ」


キヨミはマヒルにもっと近づく。


キヨミ「ちゃんと幸せに、生きてくれる?」

マヒル「ああ、わかってる」


キヨミはさらにマヒルに近づく。


キヨミ「年を取って死ぬまで、幸せに生きてくれる?」

マヒル「わかってるよ」


キヨミ、マヒルから離れる。


キヨミ「だったら、ちゃんと素敵なお嫁さんを見つけること。あたし以外と、幸せになること」

マヒル「……」

キヨミ「あたしを好きでいてくれるのは嬉しい。けど、幽霊に恋し続けても未知の世界は……きっと見えてこないよ。夏の怪談じゃないんだし」


マヒルは頭をかいて苦い表情をする。


キヨミ「生きるのは、普通は楽しいことなんだよ? 大好きな何かがあるなら、きっとそうでなくちゃ! って、あたしは思うな」

マヒル「……俺も、そう思う」

キヨミ「でしょ!」

マヒル「わかった。……幸せに、生きるよ」

キヨミ「うん、約束ね。それでいいの。まっ、残念ながらあたしはずっと君に恋し続けるけどね」

マヒル「ぐっ……急にドキッとさせるの止めろ!」

キヨミ「へーんだ、好きなもんは好きなんですもーん。……よし。それならこれ、あげるから。お風呂にまで持ち出すことね」

マヒル「……黄色い、切符? なぁジク、黄色い切符って」

ジク「……えーと、知りません。教えてあげません」

マヒル「え、何でだよ」

ジク「自分で考えてください」


ジクはニヤニヤしながらマヒルを突き放す。

BGM『』流し始める。


キヨミ「そーいうこと。……さて、そろそろ行きますか。……マヒル」

マヒル「……なんだよ」

キヨミ「寂しいでしょ?」

マヒル「……寂しくなんか、ない。お前が死ぬ運命なら、俺には……ジクたちにだって止められねぇんだから」

キヨミ「強がっちゃって。……あたしは、寂しいよ」


キヨミは少し泣く。


キヨミ「寂しい。寂しい……寂しい。嫌だよ。もっともっとマヒルと喋りたかった。マヒルと電車とか、花火とか、そういうのを見て笑いたかった。一年先とか、それよりもっと後まで、マヒルと生きたかった。マヒルを誰かに渡すのなんて、嫌に決まってる。……どうして、あたし、死んじゃうのかな」

マヒル「……あーもう、そういうの考えるのはやめだ! ……ほらっ!」

キヨミ「あっ……」


マヒルはキヨミに黄色いリストバンドをつける。


マヒル「いいか、それは幸せの黄色い線だ。海賊にはならなかったけど……ちゃんと返したからな。これでお前は、幸せだ。いつかまた、きっと会える。だから寂しくなんかねぇ。……会いに来てくれて、ありがとな」


キヨミは抑えきれなくなり、もう少し激しく泣く。


未知列車アナウンス「ドアが開きます。ご注意下さい」


BGMストップ。ドアが開く効果音。

それと同時に踏切の音が聞こえてくる。

扉に向かって、キヨミは歩いていって止まる。

キヨミは号泣している。

マヒルも泣きそうになる。


キヨミ「ありがとう、マヒル。みんな。……さようなら! いつかまた」


マヒル「未来で」

キヨミ「未来で」

(同時)


キヨミは列車の外に向かって跳ぶ。

キヨミが見えなくなると同時に踏切の音ストップ。

暗転。



12 旅の終わり


未知列車アナウンス「2019年7月16日『高田』です。七夢野真昼様はフリーチケットを車掌に返却致しますようお願いします」


ドアが開く音。

明るくなると、そこはあの時の高田駅。

高田駅利用者の時間は止まっていて、ホームに落ちる前の時間に戻っている。


ジク「それでは、未知列車の旅、お疲れさまでした」


ジクはフリーチケットをマヒルから受けとる。

マヒルは沈んだ表情。


ジク「……そんな顔しないでください。大丈夫。生きていればきっと良いことありますよ。……キヨミさんの一番いい笑顔を覚えて生きていけるのは、きっとこの世界ではただ一人、あなただけなんですから」

マヒル「……あぁ、そうだな。あいつも、多分どっかでニヤついてら」


マヒルは少し元気になる。


レイ「まだまだマヒル野郎に作ってやりたいメニューがあったんだが……お前はこの駅がある世界で生きると決めた。それなら止めないさ」

マヒル「そーいうこと、だ。みんな、本当に世話になったな。キヨミの事もありがとう。ジクが引き受けてくれたんだってな」

ジク「ろ、ロンさん! それだけは言わないでとあれほど……!」


(この辺りから車内放送が流れるまではお客さんにはセリフを伝えようせず、賑やかさが伝われば良い。アドリブでもOK)


ロン「うむ、言った方が良いかと思ってな」

ジク「バカじゃないですか!?」

アコ「あー知ってる? バカって言った方がバカなんだよ!」

ジク「そんなの知りません! もー!」

レイ「まぁ落ち着け、列車に戻ったらまたコーヒー淹れてやるから……」


車内放送の効果音。

全員一斉に列車の方を振り返る。


未知列車アナウンス「まもなく未知列車はこの駅を出発します。ご乗車になる方はお急ぎ下さい」


発車メロディー。


ジク「え、わっ! み、皆さん大変です!」

アコ「の、乗り遅れたらホントにヤバイよ!」

ロン「私の世界に帰れなくなってしまう……!」

レイ「急げ――!」


四人組は大慌てで駆けていく。


レイ「元気でなマヒル野郎っ!」

アコ「マヒルン、バイバーイ! 切符大事にしてねー!」

ロン「幸運を願っている! グッドラック、マヒル君!」

ジク「マヒルさん! またお会いしましょーう!」


四人の姿が見えなくなると、メロディーが止み、ドアが閉まる音。

未知列車の警笛が遠ざかる。

時間が動き出す。マヒルは軽く笑う。


マヒル「……はん、最後まで変な奴ら。時間があったら、もっと色んなこと話してみたかったかもな」


マヒル、みんなから貰った切符を見る。

その目には生きるという決意がみなぎっている。


マヒル「……元の切符は破いちまったけど、この切符じゃ駅は出れねぇよな」

高田駅アナウンス「まもなく1番線を電車が通過します。この駅には停まりませんので、黄色い線の内側に、下がってお待ち下さい」

マヒル「……黄色い線、ね」

キヨミの声『ねぇ、マヒル』


BGM『家族愛』。

マヒルは聞こえた声に驚く。


マヒル「……キヨミ?」

キヨミの声『ねぇマヒル、駅のホームで、黄色い線の内側にお下がり下さいってあるでしょ』

マヒル「……」

キヨミの声『黄色い線って、結局どっちが内側なんだと思う?』

マヒル「……」

キヨミの声『あたしは』

マヒル「……決まってんじゃねぇか!」


少し間があってマヒルは答える。

息が荒い。涙をこらえている。


マヒル「………幸せがある方に、決まってるだろ。……なぁ、そうだろ……キヨミ」


ゆっくり答えて、黄色い切符を見ながら激しく泣く。

BGMが終わると同時に、メインテーマ『ClimaxJump』が流れ始める。

暗転。BGMは流したまま。

高田駅利用者が駅セットを運び出す。



13 マヒルのエピローグ


中央スポットライトがつく。

四人組が駅名が書かれた看板を客にわかるよう設置する。


『七夢野家』


頷き合ったりするがセリフはなく、顔も見せない。

曲のサビに入ったくらいに設置し終え、はけていく。

一番が終わるとBGMフェードアウト。


未知列車アナウンス「未知なる世界へ旅立つ列車、未知列車。次の駅は過去か未来か異世界か」


左スポットライトつく。マヒルが右側から歩いてくるが、中央スポットライトに照らされた看板に気づかない。左スポットライトに入る。


マヒル「ただいま」

親の声「あら、おかえり。……心配したわ。どこ行ってたの?」

マヒル「…………はん、デートだって、今朝言ったろ。……なぁ、制服ってどこ仕舞ってたっけ?」


どこか晴れやかなマヒルは軽く笑って言い、袖に歩いていく。

左スポットライトが消え、少しの余韻の後、看板を照らしたまま幕が降りる。



END





あの日のBGM


『自殺を止める動機、これからの希望の提示』

キヨミが生きてたのを覚えてられるのはマヒルしかいない。1番良い顔をしたキヨミを知ってるのはマヒルしかいない。


特別な切符、ジクたちも知らない。花火の瞬間拾う、来世で会える。

キヨミだけでなく、他のことも見て生きてほしい。

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