ショートコメディ『長文くん』
私の通う学校には変な生徒が大勢在籍している。その内の一人が、同じクラスメイトの長文くんだ。
隣の席に着いた彼は、朝が苦手らしい。大きなあくびをして、気怠そうにしている。やがて近くの視界に映ったのだろう私の方を向いた。
「おはよう◯◯さん」
長文くんは私の名前を呼んだ。そのあとに、死んだ魚のような目で、長ったらしい話しをした。
「つーかさあ、聞いてくれよ。今日の宿題やるの忘れちゃってさあ。ごめんけど、解答見して。そうそう。これこれ。ありがと。あのさあ、◯◯さんて彼氏いんの? へえ、そうなんだ。意外。あのさ、俺と付き合わない? 俺、実は◯◯さんのことが好きなんだ。いや、返事はまた今度聞くよ。えーっと、次の教科ってなんだっけ? うわー、まじかよ。早く宿題しないと間に合わないじゃん。あ、◯◯さんも手伝って。そうこのページからこのページまでを俺の字に似せて書いてって」
「あ、うんわかった!」
わかったじゃねー!! なんなんだこの男は。挨拶から始まって、いきなり告白されたかと思ったら、宿題を手伝わされてるし、これ、私、からかわれてる!? 普段、男子に免疫がないからわからないけれど、もしかして、世の中の男子は皆そういうものなのかなあ(そんなわけねーだろ! こいつ死ね!)。
そう思いながら、従順な私は、言われるがままに彼の宿題を手伝わされた。まあ、こういう機械的で単純な仕事は慣れっこだ。地味な私には相応しいだろう。
彼の目は死んでいたけれど、その有無を言わせない態度は、どこかちぐはぐでおかしかった。宿題はほとんど私がやってあげた。将来はきっと、私は彼の従順なメイドになるのかもしれない(は!? 死ね)。
「はい、宿題終わったよ。次はなにをしてほしいのかな?」
「なんで自分からお願いされにきてるんだよ。つーかさあ、お前、最近どうよ。最近て、だから、あれだよ。うまくやれてるのかって。そんなの、聞いたっていいじゃねーか。だって、俺は◯◯のことが好きなんだから。好きでなにが悪い。ていうかお前、腹黒くね? 大人しそうに見えて、腹の内では、こいつ死ねとか思ってるんだろ。わかってんだよそんなことはよ。まあ、俺は死なねーけどな。お前が死ぬまでは死なねー。だから◯◯。お前は俺より先に死ぬなよ」
死ね。腹の底から大きな声で言いたかった。だけど、私はか弱い、気の弱い女の子だから、そんなことは言えない。は? 死ね! だなんて、そんな正直なことは堂々として言えないのだ。
「長文くん…」
私は、両手を組み、目をキラキラと光らせて、希望と、尊敬の念を込めたような視線を彼に向けた。
「お願いだから死んで」