自宅警備官
20xx年、この国の警備体制に起こった革命と呼んでも過言ではない出来事
事の始まりは2010年の後半頃。民間で「自宅警備員」と自称する人間が爆発的に発生した事案である
彼等は働く事を強く拒絶し「現実社会」との関わりを断つ傾向がとても強いが、逆にネットなどの電子社会では積極的に関わりを持ち合い、何か事件が起きると国家権力である警察などよりも素早く犯人を「特定する」事も少なくない
そんな「存在」
そんな「存在」は通称「ニート」と呼ばれ、その中でも選ばれた人間達が、この国に革命をもたらしたのだ
それこそが、防衛省による「自宅自衛隊自衛官」の制定
通称「自宅警備官」の誕生である
多様化するビジネスモデル。仕事はもはや「出勤」する事から「PCの電源を入れる」事になり変わり、多くのビジネスマンは自宅で仕事を行い、オフィスに足を運ぶ者は大きく減少した
もちろん多様化はビジネスだけに留まらず、生活の多くの場面が大きく変わって行き、しかもそのスピードは信じられない程で、多様化するニーズに社会そのモノが着いて行けない状態になって行く
その中でも、やはり最も重要視されたのが「セキリュティ」である
会社で仕事をしている分には中々意識し辛い事ではあったが、それ故に多くのビジネスマンはこの「事の重大さ」を思い知る
そう。会社で仕事しているだけならば「セキリュティ」は会社が護ってくれる
基本、責任は会社に存在する
しかし自宅での仕事となると、情報の流出やPCのウィルス感染、数えればキリが無い危険が自身に襲いかかるのだ
今この瞬間も、実は会社は「セキリュティ」に多額の資金を注いでいる
個人として実感が無いだけで「セキリュティ」とはそれ程に大きな問題
当然ながら「敵」が、この隙を見逃すはずは無い
「敵」つまり「企業」VS「企業」の相対する情報の争奪戦……それは「企業スパイ」として、これまでも数え切れない程多く存在して来たが、その「世界」が、大きく「変わった」のだ
「!? 来たな……」
ふっざけんなよ……本当ムカつくわ……良い所だったから集中したかったのに
彼の名は「家尾 護(いえお まもる)」
最年少記録、小学6年生で「3級自宅警備官」に合格
さらに高校1年生の時、これも最年少記録で「2級自宅警備官」合格
簡単に説明すると「引きこもり」だ
ちなみに彼はアニメオタクで、前記の「集中したかったのに」は、アニメの名シーンだったから集中して観ていたかったという心の声、それだけ
アニオタならば理解頂けると思うが、アニオタにとって「名シーン」は、全ての事象を捨ててでも「優先すべき」事態である
しかしながら彼は、名シーンよりも「それ」を優先する
「それ」
すなわち「自宅への侵入者の感知」
その能力こそが彼を「天才」至らしめる所以
天才「自宅警備官」
家尾護
彼は即座に2階の和室へ向かう
室内を見回し、僅かに「傾かせておいた」窓ガラスの位置が整っている事を確認
室内無線で「主人」へ連絡
ここまで「侵入者の感知」から約2分
「ご主人様、侵入者です。すぐにPCの電源を落として下さい。手口から見て「IGA」の者」
『助かった。確保を頼む』
「既に向かっています」
2階和室から主人の仕事部屋への最短距離を計算
1階客間の天井裏へ「貫通型ACアダプタ」を投げ込む
「侵入者。確保」
ACアダプタの配線に絡まった「侵入者」の確保まで5分とかからない早技
侵入場所から相手の行動を予測する判断力。そしてその判断を確信して任務を遂行する行動力
『素晴らしい! 噂は本当だったな! 家尾2級自宅警備官!』
「私は、絶対に私の「パーソナルスペース」に侵入する者を許しません。どんな手を使っても確実に排除します。私が「引きこもる」為には、どんな手を使っても……」
『うむ……よぉく分かったよ。その「覚悟」は』
「?」
働き方の改革が起こり、多くの人間が自宅で仕事をする様になった現代、大企業の中枢や国家機密を扱う人間が自宅で仕事をしていると、企業スパイなんていう生やさしい問題では無く、この様な「強盗」まがいの企業スパイが大問題となった
その中でも特に「IGA」と「KOUGA」と呼ばれる謎の組織のスパイは実に巧妙に自宅に侵入し、監視カメラや盗聴器の設置、PCへのウィルス感染を行い、まるで煙りの如く消えてしまう
そうした大きな社会問題の中で注目されたのが「引きこもり」
彼ら引きこもりの中には国家レベルでの研究の末「異常なまでのパーソナルスペース」を有する者が存在するという研究結果を導き出す
「パーソナルスペース」とは、全ての人間が持つ「全くの他人が接近して来た時、嫌悪感を抱く距離」の事で、かなり過敏な人間でも約2メートル前後と言われている
しかし、引きこもりの中には「異常」な範囲を「パーソナルスペース」と認識出来る者がいたのだ
その範囲「自宅全て」
彼らは恐ろしいまでの鋭い感覚で「自宅に近づく存在、含み侵入して来た存在」を知覚し、さらに強い力を持つ者は、足音や息遣いで「家人か否か」まで識別すると言われている
その存在は、それまではただの「引きこもり」と扱われ、蔑まれ馬鹿にされ、違う意味での社会問題を産んでいた
が、ある事件によって時代は変わる
とある官僚の子供が、まさにその「異常なまでのパーソナルスペース」を有していた引きこもりだった為、官僚の不正が「IGA」によって世間に公開される事態を防げたのだ
それはそれで大問題じゃね? とは思うけど、まぁ、必要悪は仕方ない
官僚はその事件以来、秘密裏に作り上げた研究組織によって子供を徹底的に調べ上げ、その「特殊能力」を科学的に証明
そして、子供同様の「特殊能力」を有する者で、さらに国家試験を突破した者に「権限」を与えた
この隠された過去の事件こそ、防衛省による「自宅自衛隊自衛官」の制定
通称「自宅警備官」誕生の経緯
そしてその「自宅警備官」の天才「家尾護」
そもそも、この国家資格は「全てがオカシイ」
「自宅自衛隊自衛官」という事は「陸上自衛隊自衛官」などの「自衛隊」の一部であり「防衛省」が管理する「部隊」である
しかし「自宅自衛隊自衛官」には「自衛官採用試験」は行われない
では? 1種? 2種? 3種? それも違う
「自衛官なのだから、特別職だろう?」
それも、違う
彼ら「自宅自衛隊自衛官」は「特殊職」と分類され、その試験内容は「あまりにも特殊」であり、合格難易度は司法試験よりも高い……と言うよりも、この国に存在する全ての国家試験とは「比べる事が出来ない」
故にネットには数え切れない「合格条件」が真偽交わり蔓延している
しかしそれも仕方なき事
「自宅警備官」は、国家機密を扱う人間の自宅に居候し、その身を守る事もある特別な存在
「自宅警備官」として雇われれば「引きこもり」を約束され、好きなアニメもゲームもやり放題の観放題、三食付きの酒もタバコもやりたい放題
そして、高額な賃金を得る
ただし、その様な、ある種「やりたい放題」が許されるのは「2級以上」
3級は中々のブラックで、この国家資格の肝である「引きこもり保証」がかなり緩和され「部屋から出ない引きこもり」から「家から出ない引きこもり」まで、引きこもりの範囲を法の力業でねじ曲げられてしまう
つまり、3級はただの「使用人」扱いが現状
だから皆が2級を目指すのだが、3級と2級の間には、大学で例えれば私立と国立程の差がある
さらに言えば、2級と1級の間には
「越えられない壁」が、実際に、存在する
しかし「それ」が「何か」は絶対に明らかにならない
何故なら「国家権力」が、そこに存在するから
天才「自宅警備官」
「家尾護」
『素晴らしい! 噂は本当だったな! 家尾2級自宅警備官!』
「私は、絶対に私の「パーソナルスペース」に侵入する者を許しません。どんな手を使っても確実に排除します。私が「引きこもる」為には、どんな手を使っても……」
『うむ……よぉく分かったよ。その「覚悟」は』
「?」
『ココでの活躍を高く評価する。やってみなさい……「1級技能検定試験」を……』
「!?」
天才自宅警備官「家尾護」
彼は後に「伝説の引きこもり」と呼ばれる事になる
「俺達の旅は、始まったばかりだぜ!!!」
〜ご愛読ありがとうございました!明時菜前先生の次回作にご期待ください!〜
少しばかりトリッキーに仕上げたいと考えています