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塔員

暗い森を走る三人組。

一人は蒼い瞳が印象的な金髪の青年。

そのそばに片目を隠す様に前髪を伸ばした少女。

そしてその少し後ろでネズミを手にして2人に追従する大男。

そんな異様な組み合わせの彼らがなぜ深夜の森を走るのか?

それは市内の森の中にある旧教会周辺で業使い同士の衝突が観測されたからだ。

この街にある塔神谷支部の構成員である彼らはその場に急行しようと走っていた。


「支部長、反応がある場所までもうすぐです」

青年に息を切らせながら報告する大男、ジョン・マーフィー。

彼は業使いであり、その能力はネズミの姿をした業を複数、具現化しそれらを操作する。

ネズミの視界はマーフィーにも見えており主に偵察に使われている。

「はぁっはっ支部長、戦闘中の人間がわかりました。1人は教団の由美さんです。

 相手は黒い鎧を着た大きな、その、怪物です」


「そいつは魔獣か?」と支部長と呼ばれた金髪の青年は困惑した表情を隠せない。

青年の名はアルバート・マーキス。

若くして神谷市の支部長を任せられた人物だ。

「いえ、魔獣に近いんですがその、魔獣とは違った感覚があります」

「どっちなんだ!」と少女が叫ぶ

「わからないんです……こんな相手は初めてです」

マーフィーは怒鳴られたショックで縮こまる


「現場に到着後は即時戦闘開始だ。 

 マーフィーはここで待機、業獣を作戦区域に散開させ包囲隊との連絡・境界線の監視をしろ。

 香織は俺と一緒に来い」

「わかりました。いつもの通り、あなたの背中をお守りします」


彼女の名は金剛 香織。

こういった争い事の時は常にアルバートのサポートに回っている。

腰に手を伸ばし、黒い銃を手に取る。

その銃は通常の物とは明らかに外見が異様だ。

見た目はポンプアクション式の散弾銃だが銃身から銃口まで二つに分かれている。

ガチャッとフェアエンドを引いて戻すと薬室から覗く小さな丸い窓が青白く光り機械音が漏れる。

「レールガンか」とアルバートが戸惑う。


「えぇ なんだか嫌な予感がしましたので……」

「普段なら物騒すぎると言いたいが今回は正解かもな」

「何より雲行きも怪しいです 雨の中私の電撃を無造作に使えばどうなるか」


「それはそうだ」と少しおかしかったのか笑う。

彼女の業は電気を発生させる。

しかし、電気を発生させるには猶予が必要だ。

そんな剥き出しの弱点を晒す彼女を相手が待ってるわけがない。

それを補うのが彼女の持つ銃だ。

弾薬も通常の物ではなく彼女の電気が込められている特殊な弾薬を使う。

これらの業を利用した道具は通称「業機」と呼ばれている。


「支部長!」とネズミからマーフィーの声が響く

「どうした!マーフィー」

「その戦闘に巻き込まれて……業獣が消滅しました」


森では視界が悪く戦闘音しか頼りになるものはなくなった。

「戦闘音は近くです。問題はないかと」

それでもマーフィーは戸惑いを隠せないらしい。

「し、しかし相手は誰なのか 人間だとしてもあんな巨大な黒い鎧の怪物は初めてです」

「俺にもわからない、塔と教団を相手に戦争を仕掛ける気なのか?」


かつて、塔と教団の間には世界中を巻き込んだ戦争があった。

始まりは定かではないが業は人類が生まれた時からあったと言われている。

国や民は業使いに蹂躙され、教団という組織が生まれた。

業使い達は民衆を味方にした教団に蹂躙された。

それに対抗するため「塔」は設立された。

これらの流れを”塔教戦争”と呼ぶ。

一旦の決着がついたのは第二次塔教戦争が終戦したわずか70年前。 

長きに渡った血で血を塗る闘争は両者に怨恨を残していった。

終戦後も各地でそれを理由に小さな紛争はあったが、この神谷市にはなかった。

それが今日になって急にそれは起きたのだ。

塔員同士で業で戦う愚か者はこの街にはいない。

支部に塔員を集結させ点呼を取ったが人数は欠けてはいなかった。

ならば戦っている一人は教団員だ。

その相手は誰か確かめる必要があり、これを見過ごしては後々教団からペナルティが課せられるだろう。


先ほど、今までより激しい戦闘音が聞こえた。

そして、何かが空から地面に向かって落ちた様な衝撃音。

「なんだ!?何が起きた!?」

その瞬間、砂埃が二人を襲う。

そしてようやく、今は使われずに廃墟となった教会へとたどり着く。


そこには黒く巨大な鎧を着た怪物とその股下で黒い影に包まれ吸い込まれていく教団の由美。

すぐさま、香織は銃を怪物に向ける。

ポツッポツッと雨が地面を濡らし雷音が鳴り響く。


雷音と共に引き金を引こうとする彼女より早く白い影が前方を駆けていった。

その影の正体は蒼白いマントを着けた純白の鎧だった。

それは各部に金色の模様が浮かび一角獣を模した様な顔と角が生えている。


その正体は鎧の業を纏ったアルバートだった。

 「ウ”オ”オ”!」

自分より数倍はあるその巨体の首を掴み、教会を突き抜け大木に怪物を打ち付ける。

怪物の身体は所々朽ち初めてそこからは黒い霧が狼煙のように吹き抜けている。

香織は自分達が来るまでに果たして何があったのか困惑した様子だ。

 「貴様は何者だ?」

その困惑を打ち消すかの様にアルバートが問いかける。

 「オ”……オ”レハ」

怪物は初めて彼らに意思の様なモノを見せた。

 「ウァアアアアア!!」

突如化物は暴れまわりアルバートを振り払う。

その瞬間、背後から白い一閃が走ったかと思うと怪物が悶絶する。

後ろに視線を向けると香織が湯気を出す銃を構えていた。

 「待て!」

怪物は暗い森の中へと逃げし出していった。


「こちら、アルバート 対象が逃走

 包囲隊は奴を作戦圏内から逃すな、追跡を開始する」

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