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竜対鬼②

アルバートの周囲に吹き荒れる風が白剣に吸い込まれていく。

今までの猛烈な風音から一変、静寂に包まれる。

手のひらを俺に向けて、剣を構える。

「君の本気は確かに見届けた。だから、僕の本気も見届けてくれ」

剣を突き出した瞬間、螺旋を描いた突風が俺に襲いかかる。

それはまるで触れたものを無残に切り裂く竜巻だった。

鎧は火花を散らし、腕が軋む。吹き飛ばされない様に踏ん張るが意思と反して身体が浮き上がる。

そして、竜巻に押されるがまま、鎧を削られながら後方に飛ばされる。

「ぐはっ!」

どれぐらい飛ばされていたのか、壁に叩きつけられても尚、その竜巻は威力を衰えない。

壁と竜巻に挟まれて身動き一つ取れない。

この竜巻をどうにかしなければ、削り殺されてしまう。

「竜也、装をあの竜巻に送るのよ!」

「どういう事だ!?」

「いいから!貴方の装量ならこの竜巻だって押しつぶせる!」

「わかった」

全身から黒炎を吹き出す。それも竜巻により吸い込まれていく。

竜巻は徐々に黒色が混じり、白黒のまだら模様になる。

送り続けた装を操り、竜巻を下へ叩き潰す。

風によってぶちまけられ、辺りを黒炎が舞い飛ぶ。


身体に悪感がして、反射的に身体を下へ倒す。

空中に鋭い風切り音が鳴り、僅かに鎧から火花が散る。

「驚いたな、今ので倒れないのか」

アルバートは驚いてる様だ。

「さすがは純粋種か。新米でもその力は一級の騎士に匹敵する。

 君が成長していたら、僕なんか相手にもならなかっただろうね」

「そう何度もおんなじ手が通じるかよ」

「そうだね、それじゃ僕も業解しようかな」

「なに?」

「業解にも三段階があってね。

 序に能力向上

 破に変体

 急に自我を失い、魔獣となる。

 業を扱う事に長けた者はこの序と破を解放出来るようになるんだ。

 君の能力が上がり、姿が変わったのもそれが理由だ。

 だが、君より幾年も業を使い続けた僕がそれを出来ない理由がない」

アルバートの姿が変わり始める。

鎧の形状は高貴さを失い、刺々しくなる。

足は戦闘機のジェットエンジンのような機械的なものに包まれ大きく変わっていた。

その排気口になっている口から凄まじい風が吹き荒れている。

まるで水上バイクの推進力で空を飛ぶフライボードだ。

その気配はアクティビティを楽しむ人間とは正反対の刺々しい殺意だ。

アルバートがふっと消える。

今までの攻撃と同じだ。だが、しかし――


「今までより速い?!」

見える範囲で剣を弾き飛ばすが、追撃に間に合わず鉤爪は空を切り背中に衝撃が走る。

鎧を着てるおかげで肉体への損傷は少ない。

だが、こちらの攻撃がまったく当たらない事に焦燥感を感じる。

まるで、ツバメに食いつばまれるパンにでもなった気分だ。

「このっ!」

当たらない反撃に繰り出される確かな追撃。

「ほぉ、すごいね」

足元に装を敷いて、空中を走る。だが、その程度じゃ相手の猛撃から逃れられるわけがない。

それでも地面にいるよりはバリエーションに富んだ戦い方ができる。

まるで鳥にでもなった気分だ。

空中を走り回る事で、あちらの利は軽減出来ただろう。

あとはいかに相手を出し抜き、捕まえるかだ。

お互いが背中を狙いあうドッグファイトが始まる。

空中を飛び交い、鋼と鋼がせめぎ合う。

「ここまで出来るとは思わなかったよ!

 力の使い方は下手だが、その量が別格だ!装力だけなら君は僕より上だ!」

「それはどうも!」

鉤爪が空を切り、変わりに俺の腕にヒビが入る。

「その鎧の硬さも別格だ。普通なら腕を切り落としてる。

 だが、勝負は力だけでは決着がつかない、技術と経験が勝負の鍵になるんだよ!」

走り去ろうとするアルバートを追いかける。

なんとか追いつこうと追いかけるが距離が全く変わらない。

ようやく、相手の背中を視界に止められたのだ、これを逃す手はない。

徐々に相手に近づき始め、攻撃の間合いを取った。

だが、ふっと相手が視界から消え俺はそこを空をきって過ぎ去る。

「どこだ?」

周囲を見渡すが、どこにも姿はない。

攻撃が来る気配もない。アルバートはまだ何か手を隠していたのか?

「ここだよ」

足元が声からして、下を見る。

足をがしっと掴まれ、その手の先には蒼く光る目があった。

「ようやく、捕まえた」

そこから、視界が一気に加速する。

両手を無防備に頭上に上げる。わざとではない、あまりの速度に手が自然と上がったのだ。

そこから、一気に降下する。一瞬の出来事で反射が間に合わず地面に叩きつけられる。

周りにクレーターが出来て、俺は起き上がろうと身体を起こすが、

突如、見えない矢が俺の足に突き刺さった。

「っがぁあああああ!!」

あまりの激痛に悲鳴が轟く。

足を串刺しにしてる矢を引き抜こうと手をかけるが、そこにもまた矢が飛んでくる。

それを弾き飛ばし、飛んできた方向を見やる。

「やっぱり、関節は鎧ほど硬くはないみたいだね」

そこにはアルバートが佇んでいた。

周囲の空中には見えない矢が何本も浮いてるのか歪んでいる。

それは恐らく、俺の四肢を、喉を、眉間を狙い定めている事だろう。

「動くと痛いよ。さらばだ竜也君」

不可視の矢が俺に飛んでくる。

それは予想通り、俺の身体を貫くには十分な量だった。

足は地面に串刺しにされて動けない。

――だが、俺がここから動く理由はない!

「いいや、もうちょっと付き合ってもらう!」

俺は地中から伸ばしていた装を引き寄せる。

その先は、アルバートの足を捕らえていた。

アルバートを俺の前まで引っ張り、盾にする。

「なっ!?」

だが、高速で打ち出された矢を反射神経で消滅させた。

まさに間一髪だっただろう。危うく全身を自分の矢でハリネズミにされる所だったのだから。


だがすぐ後ろには俺がいることを忘れては困る。

その好機だけは逃すわけにはいかない。

矢を引き抜く余裕なんてない、力を入れて足と地面に突き刺さった矢ごと身体を起こす。

痛みなどに負けない、そのがら空きになった背中に鉤爪を突き進める。

だが、それよりも早く振り返りアルバートの剣が俺の鉤爪を打ち払おうとする。

雷速と化した剣を鉤爪で挟み込み、そのまま地面に突き刺すために腕に付けられた鉤爪を射出した。

自分も武器を失ったが相手の武器も奪った。

だが、俺にはまだ武器がある。

渾身の力と装をこめて、アルバートの腹を拳で打ち抜く。

「がはっ!!」

「はぁはぁ」

装で纏った拳はさぞかし、痛かっただろう。

膝をつき、悶絶するアルバート。

アバラが折れて、内蔵に刺さったのだろうか。兜の口元から血が垂れている。

それでも、鎧を解除しない精神力の強さには感服せざるを得ない。


「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!!」

突如、叫び声が庭園に響く。

その凶器と化した声量と悪感の走る気配に空気が固まった。

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