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アルバートの過去②

恋人の遺体を納棺師に全て任せて、領主に結果報告をしに行く。

顔は能面の様に感情などなく、暗い影をアルバートが覆っていた。

騎士が死んだ事に領主は喜び、衛兵や側近の顔には暗い表情がおとされていた。

恋人が死んだ事には対して触れなかった。

その事に側近が快く思わなかったのか、領主に耳打ちする。

「ん?あぁその様な事か、塔にはそれなりの上納金を収めている。命懸けで応えるのは当然ではないのか」

側近の顔は引き攣り、小声で話しててもアルバートの耳は逃さなかった。

「相方の事は残念であった。後日、塔からもなんらかの褒美があるであろう。事後処理もあるのでこれで失礼する」


後日、塔では領主の意見に反対してきた謀反の騎士が粛清された事で領主を唆せる事(そそのかせ)が容易くなった事。

これをタネにあの街の利権を吸い尽くす算段、ディエロ族の貯めていた財産をどうやって分配するかなど、

上層部はいかに自分に益が回るか打算していた。

アルバートは恋人の親族に見せる顔もなく、葬儀にも出ずマーキス家の屋敷に引きこもっていた。

長らく帰っていなかった我が家は義妹である次期当主に心血を注いでいた。

彼女が生まれるまで、義理の両親の間には子供はおらず、業の素質も代を重ねるたびに低くなっていた。

それでも豪族であるマーキス一家は権力だけで塔の上層部に一席を置く事が出来ていた。

影で笑われようと遥かにそれを押さえつける力があったのだ。

だが、それを許さなかったのが義父である現当主だった。

親族で業の才能があった自分に矢が立った。

養子に迎え入れられ、マーキス家の業を習得することに半ば拷問のように日々を送らされた。

血筋は同じといえど、実子ではないアルバードにはそれは地獄だった。

他の血が混ざってしまった者に元来の業を仕込むなど、家畜化した犬を狼に戻すようなものだ。


だが、それを才能と修練によって達成が目に見えてきた所だった。

そんな時に中庭で家庭教師に業を習っている義妹が生まれたのであった。

生まれた頃はまだ両親はよそよそしかったのは彼女に素質があるかどうかわからなかったである。

だが、彼女が七歳になる頃、検査に来た装術師から稀代の素質があると明言される。

その後を想像するのは容易いだろう。

自分の今までの過程も居場所も彼女の存在によって全てが砂に変わった。

しかし、彼女に周りが夢中になっていく事にアルバートは対して気にもとめなかった。

自分の役割を十二分に理解していたし、彼女は自分より才能がある事。

自分が三日かかった事を彼女は一日で理解し、それを習得する。

自分を追い越すのはそう遠くない未来だと思った。

その後、十六歳になる頃その才を認められ塔学院に入学する。

ほとんど家には帰らなかった。

バツの悪そうな両親、自分を慕う無垢な義妹。

理解しきってはいても居心地のいいものではない。

その後、騎士・白鬼の称号を正式に授かる。

塔からの任務をマーキス族の名に恥じぬ様に結果を出し続ける。


義妹はもうすぐ塔学院の中等部に入学する。

すでに教師たちからは高等部は極東の学院に入れるべきだと進言されていた。

彼女がこちらに気づき笑顔で手を振っている。

そんな選良の才女は、今でもアルバートを慕ってくれている。


そんな事を考えていると電話がかかってきた。

「もしもし、私だ。今すぐ支部に来てくれ」

どうやら、今後の任についての話が決まった様だ。

会議室に足を運ぶ。

そこには円卓を囲む様に数人の老人達が座っていた。

その中にアルバートの義父もいる。

「休養中にすまないな、恋人の事は残念だった」

恋人について触れられるとやはり少し動揺する。

「それで今後の任についてだが、どうだね?君の望む任地があればそれに応えるが」

任地か、もう誰か死ぬのを見るのは嫌だと考えていた。

誰も死なず、そしてもう戦う事はないであろう任務。

「たしか極東に後任を探している流刑地がありましたね」

そうだ、ここではない、何処か遠く。そして今の自分に最適の任地。

そして、彼は神谷市の支部長に任命される。


だが、彼の思惑とは違い再び剣を取る。

それは匿名の手紙だった。

最初は信じずに破り捨てていたが、それは徐々に真実味を増すものと変わっていく。

レブルを復活させれば恋人が戻ってくる。

彼はその悪魔的な誘惑に負けたのだった。


「少し眠ってしまったな」

アルバートはベンチから立ち上がり身体を天井へと伸ばす。

手を握り締め、何かを掴む様に力を入れる。

「もう戻る事はできない。彼女を蘇らせるんだ、それが出来るなら俺は何もいらない」

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