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アルバートの過去

アルバートが電話で塔員達に状況を説明する。

神父と竜也がシエナを裏切ったこと。

神谷の教会にはなんらかの秘宝が眠っていること。

しばらくはアルバートが教会へ駐留し、秘密を探りながら敵の襲撃に備えること。

不要な外出は控えて、自分の宿泊地に待機すること。


すべての業務連絡を終えて、電話を切る。

外線は全て自分が遮断した。彼らが外部に連絡を取る事は不可能だ。

この街は今、完全に外部と遮断された。

全て、計画通りだとアルバートは静かに笑う。

礼拝堂へ向かい、補修作業に入る。

床に散らばったガラス片に刻印を刻み、装術を使う。

空中に吸い取られる様にガラスは天井へと上り、綺麗な絵が完成する。

壁はへこみだけで穴は空いていない。あれだけ激しくぶつかったのに大変な強固さだ。

「ふぅー」と深呼吸をしベンチに座る。

ふと目の前の中心に飾られた像に目をやる。

神がもしも自分の行いを見ているとしたら、神は自分を許すだろうか。

自分の行いさえも神は良しと許してくれるだろうか。

「そんな事考えてもしかたない、か」

不要な疑問だったと自重する。

神が見ていたとしても、どうやって自分を止めるというのか?

無力な神など、飾り物にも劣る道化だと皮肉る。


そして、目を閉じる。よほど疲れていたのだろう。

すぐに夢の幕間は開いた。

それはここへ来る前の任務の夢だ。

何度も見てきた忘れられない夢。

とある田舎町にアルバートと恋人が派遣される。

街には活気が薄れ、暗い雰囲気に二人は困惑する。

理由はすぐにわかった。

領主は堕落しきった生活をしており、酒池肉林の限りを尽くしていた。

領主はかつての側近であった騎士が謀反を犯し、それの討伐を要請する。

近郊の森にある古い屋敷に騎士が潜伏している情報をもらう。

その日は街の宿で一晩を明かすことになるが、そこの酒場で領主の悪行を耳に入れる。

前領主は名君であり住民から慕われていたが、その息子が領主になってからは街から活気が失われていった。

なんでも、謀反を犯した騎士の娘に領主は昔から好意をもっていたが、領主の本性を知っていた娘はそれとなくかわしていた。

それに耐えられず、領主は娘に襲いかかるがあやまって娘を殺してしまう。

翌日、それに激しく抗議する騎士に領主は、

「あれは事故だ。

 それにあの様なわからず屋の無礼者に育てた貴殿にも問題はあるのではないか?

 政略婚など我らの世界では珍しくもなかろう。貴殿も今より高い地位が約束されていただろうに。

 だが結果として、我にも非はある、謝罪もしよう。賠償もしよう。それで、いくらほしいのだ?」

この言葉に激昂し、領主に斬りかかるが衛兵に阻止される。

「貴様らこんな男に……こんな男を守る意義がどこにあるというのだ!」

これに腹を立てた領主は騎士を切り捨てろと命令する。

謀反の騎士は逃げ出し、他の騎士たちは森を捜索し何度も挑むが城内でも一番の実力を持った相手になすすべもなく返り討ちにされる。


「本当にいいの?アルバート」

恋人は戸惑いながらもその夜。二人は討伐に出かけた。

要請通りに騎士は古い屋敷にいた。

「塔からの派遣者か、先代のお力は今も塔に根強い影響がある様だな」

どこか嬉しそうに笑う騎士。

「ディエロ・サハキエル、塔からの要請により謀反の罪で拘束する。抵抗するなら切り捨てよとのことだ」

そこで騎士は心底おかしいのか笑う。

「謀反の罪か、我がディエロ族も堕ちたものだ。だが我が一族はこれでおしまいよ、ただ一人の娘も死んだ。

 妻もいない、親族は業をろくに使えず経済というものに力を入れる始末。

 騎士とはなんだ、民を救い、守る者を言うのではないか?

 民から搾取する者をいうのではない、ましてや暴君の私利私欲のために動く者では断じてない!

 ……貴殿らと戦おう、そしてここから生き残りあの城に決死の覚悟で挑もう。

 私は最後まで騎士として生き、騎士として死のう」

顔色一つ変えずにアルバートは鎧を纏い、恋人は短剣のついた杖を構える。

「最後の言葉はそれだけか?」

静かにそして冷酷に言葉を終わらせる。

騎士もまた鎧を纏い、大剣を構える。

隼の様に快速に攻めるアルバートとそれを岩山の様に堅い守りでさばく騎士。

だが、その岩山を裂かんと突如、雷が騎士に襲いかかる。

恋人が杖から雷を発生させ騎士を攻撃したのだ。

電気系統の業は発生させるにはラグがあり、短時間であればそれほどの威力はないが、長時間かければ絶大な威力を誇る。

騎士の隙をつき、恋人のそばに高速で近づくアルバート。

まだ雷電が走る杖の短剣ににアルバードは剣をなぞる様に走らせる。

するとレイピアにも雷電が走り青白く輝く。

「装術師か、騎士を補助し、時に騎士を超越せし者。よい相棒を持っているな」

「あぁ、最高の相棒だ。まだしばらく動けないだろう、これで終わりだ」

「だがな、必殺の手を出すには少し時期早々ではあるな」


突如、恋人の背後から複数の無骨な鎧が襲いかかる。

恋人は地面に杖を突く、その瞬間地面から無数の雷電が鎧たちを無塵に変える。

「業術か!」

「あぁ、かつて妻が使ってた装術よ」

その瞬間、騎士がアルバードに襲いかかる。

だが、素早さで勝るアルバードは一瞬で心臓に蒼白に輝く剣を突き刺す。


「私の負けか、やはり鈍臭いと馬鹿にしてた娘の言うとおり素早さには欠けるか」

かつての思い出を懐かしそうにそんな独り言を漏らす。

剣を抜き、膝をつき己を剣で支えることしか出来ない騎士を見下ろすアルバート。

「いえ、あなたの剣技はそれを遥かに補っている見事なものでした」

心からの賛辞を送る。

「そうか、それではこれは私からの最後の抵抗だ」

突如、大剣が鞭の様に分裂しアルバートに襲いかかる。

鞭と化した大剣は地面からも生えてきていた。

「このっ――!」

それを強烈な旋風で自分を守り、触れた剣を粉塵に変える。

襲いかかる全ての剣を切り破り、再び構えを取る。

そこには絶命した騎士から業が消滅した姿だけだった。

「なんて奴だ、そこまでの執念があったのか」

突然、その奥から何かが落ちる音が聞こえた。

その瞬間、恋人の名を叫び、音がした方向に向かうアルバート。

そこには血まみれの姿になった恋人が横たわっていた。

恋人を抱え、その名を呼びかける。

「ご、ごめ……ん」

ほとんど聞き取れない声で恋人は話す。

「し、……死にた……くない…あ、あなたと」

その瞬間、糸が切れたかのように身体から僅かにあった力が抜ける。

朝日が昇り始め、恋人の顔を照らし始める。

その閉じる事を忘れた瞳からは生気はなく絶命したものとわかるものであった。

泣きながら恋人の名を口にすることしかできなかった。

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