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教会の地下

教会でアルバートと重田が問答をしている。

重田はどうしても、あの二人がシエナを切り殺した事が納得いかなかった。

「なぁ、アルバート。本当に竜也達が犯人だったのか?」

「あぁ、残念ながら」

「だが、腑に落ちない。竜也も神父もシエナを好いていた。

 特にあの神父がシエナを裏切るなんてありえない。

 本当に現場を見たのか?」

「あぁ、彼らがシエナさんを刺し殺す瞬間を見た」

「なぜ、マーフィーが森にいて、アルバートが教会に居たんだ?」

「気になる事があってね。それを相談しに教会へ向かったんだ。

 マーフィーには森で待っててくれと頼んでいたんだ」

「あいつらがあばこうとしている、教会の秘密ってなんだ?」

「……僕にもそれがわからない。それを調査しようと思うんだが塔からの派遣者が来ない事にはね」

「教会には連絡していないのか?」

「あぁ、この事件は塔だけで解決したいというお達しがあってね」

「しばらくはここで僕は彼らが来ないように見張っているよ」

「そっか、俺は支部に戻るよ」

冷たい目でアルバートは重田の背中を見つめる。

それには、僅かに殺意がこもっている様に見えた。

重田もそれを感じ取り、教会から出た瞬間に冷や汗を拭う。

「あいつ、何か隠しているな。これは本人達に聞かなくちゃね」



アルバートが教会の地下へ続く階段を下る。

そこは行き止まりだ。だが、その壁にシエナの死体から切り取った手を貼り付ける。

ドアが一瞬で浮き上がり、扉が静かに開く。

そこには広大な庭園が絵画の様にドア枠から見えていた。

アルバートがその中へ臆することなく入っていく。

地下に見合わない、美しい庭園の奥に二つの物があった。

一つはカプセル、もう一つは巨大なミイラだった。

「これが本物のシエナさん――か」

その中では眠るシエナがいた。

その目には涙が流れ落ちた跡がある。

「すまない」

カプセルを開いたアルバートはその涙を優しく拭う。

後悔なのか、慈悲なのか、その顔には影が見え隠れしていた。

だが、その迷いを振り切りアルバートは巨大なミイラを見据える。

「初めまして。レブル」

レブルと呼ばれたミイラの顔は苦しみに満ち、今にも叫びが聞こえそうなほど歪んでいた。

全身から鎖が生えて、その身体を縛り付けている。

「これで、ようやく願いは成就する」

ポンプの様な機材を運び、チューブをミイラに差す。

スイッチを入れて、巨大なうねりを上げながらチューブを辿って赤い液体がミイラに送られる。

それで作業は終わりなのか、アルバートはシエナの方へ歩く。


「起きれ。そして見よ、この世の終わりを納める者よ。我は勝利を得た者、その封を開き、最後の鍵を解くことができる」

アルバートが呪文を口にする。

僅かに蒸気の様な物が出て、カプセルが開く。

シエナが目を開ける。瞬間、アルバートに掴みかかった。

「なぜ、こんな事をするのです?アルバート!」

鬼の様な形相でアルバートを睨みつける。

それを軽くあしらい、アルバートは静かに地面に膝をつく。まるで許しを請うが如く。

「貴方には正直に言いましょう。レブルはありとあらゆる装術に精通している。

 泥を金に変える事も海を燃やす事も出来たという、そして人を蘇らせる事も出来た。

 僕はね、レブルを復活させて恋人を蘇らせる。

 レブルを目覚めさせた者には願いを一つ叶えてくれる」

「その様な迷信をっ!」

「迷信でもいい。僕はこれに全てを賭ける」

「バカなっ!世界を滅ぼしてでも蘇る事を望む者などいません!」

「それを本人の口から聞きたい」

シエナがレブルの方を見る。

チューブから大量の液体が送られている。

「これは血……?貴方が犯人だったのですね!街の行方不明者の事件はっ!?

 こんな事、誰も認めません!」

「おやめなさい!」

チューブをぬこうとレブルに近づこうとするシエナをアルバートが掴み飛ばす。

「きゃっ」

尻餅をつくシエナ、すぐに立ち上がり再び近づこうとする。

だが、目の前には白く光る剣が突きつけられていた。

「大人しくしていただこうミス・シエナ。乱暴をする気はないが拘束ぐらいはさせてもらうよ」

「好きにしなさい、ですが必ず貴方の野望を打ち砕く者が現れるでしょう」

「えぇ、ですがそれすらも僕は乗り越えてみせる。僕の執念は誰にも止められない」

「っ……」

その後ろでレブルの瞳が少しづつ鈍く光っていく。

シエナは信じる。

自分を救う者の存在を、例えどんな困難だろうとそれを打ち破る力を持つ者の存在をシエナは知っていた。

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