応接
「どうぞ」とお茶を出される
テーブルを挟んで対面にはアルバートが座り、後ろには香織がこちらの動きの一つも見逃さんとばかりに見つめてくる。
「さてと、藤村竜也君だったね?単刀直入に言おう」
アルバートは目の前に紙を数枚、テーブルにひろげた。
その紙には等しく、「Unknown」と書かれていた。
「色んな機関に捜査してもらったが、君の情報は一切出てこなかった。
君の正体がわからない以上、こちらも安易に塔本部に連絡をするわけにもいかない。
教団側の純粋種認定をこちらも認めなければならないんだが
残念なことに、純粋種についての資料があまりにも少ない。
純粋種に覚醒すると過去の改変が世界に起きるなんて記述は見当たらなくてね。
教団側も大ごとにしたくないから、聖庁にも連絡してないのだろう」
「聖庁?」
「教団の総本山の事さ。
純粋種の出現なんて紛争事案にもなりかねない大事件だからね。
その辺はこちらも理解してぼくの所で留めている」
俺の立場っていうのは想像以上にやばい所にいるのか。
「そこでだ」とアルバートが切り出す。
「最高の待遇で君を塔で保護したい」
真っ直ぐにその鋭くなった瞳に見つめられる。
やっぱりアルバートは俺のことを諦めてなかったらしい。
ここで拒否すれば、俺はどうなるのだろう。
簡単に帰してくれるだろうか?
あの時、シエナと言い争っていた事を考えると不安だ。
承諾すれば……
師匠との至情を蔑ろにする事にもなる。
何より、シエナはどうだろう。
俺が突然帰らなくなったらどうなるだろう。
神父がいない時、
由美もいなくなった教会で今度は一人でまた誰かの帰りを待つのだろうか。
「それは、できない」
「え?」とアルバートの瞳が大きくなる
しまった、思わず……いや、これでいいんだ
「好意的に受け入れてもらえるのは、ありがたい話なんだが」
「ちょ、ちょっと待った!」
アルバートが焦った様子で俺の話を遮る
「君は塔の役目を知っているかい?それには業の使い手の育成もあるんだ。
それは君の為にもなる、また暴走させてしまったら」
「暴走の件は師匠のおかげで克服に向かっている」
「師匠?」
「あ、神父のこと」
「それでも、今後はやはり専門の僕たちが―」
「藤村、よく聞け」
突然、香織が俺の隣に立つ。
そして何を思ったか顔を俺の目の前に近づける。
なんだ、これは近すぎるだろ。
「業は扱いを間違えればこうなる」
香織は前髪を上げて、その隠れてた片目を晒す。
そこには火傷の後だろうか、目は爛れて目蓋の周囲は赤黒く染まっている。
視力など残ってないだろう、ものすごく見ているだけで痛々しい。
「少しはお前も業を操れる気になっているだろう?その油断がこういう結果を招く事もある。
支部長に教えを乞え、ここの住人も悪いようにはしない」
先ほどまでの刺々しい感じではない、こちらを気遣ってくれている。
しかし、彼らの好意を受け入れる事は出来ない。
「それでも……俺はそちらには行けない――
……それより、近すぎない?」
「はっ」と頬を赤らめて無念そうに離れていく彼女を尻目にアルバートは表情を変えない。
これ以上の話し合いは無意味だろう。
アルバートから不穏な気配がする。
俺は早急にここを立ち去らなくてはならない。
彼が何かを提案する前に
「神父を師と仰ぐ信義が君を迷わせてる様だ」
「は?」
「ならば神父と僕、どちらが師として優秀か。君に採点をしてもらおうか」
この人は何を言い出すのか
「それは、つまり?」
「僕と腕比べしようか」




